EVとエンジン車の燃え方はどう違う? 「EV火災消火実験・訓練」で水を使わずに消火!

文●鈴木ケンイチ 編集●ASCII

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車両火災

 EV(電気自動車)には大量のリチウムイオン電池が搭載されています。そのため車両火災になると、エンジン車とは違った問題が発生するという不安があります。では、実際にEVが燃えるとどうなるのでしょうか? 愛媛の消防学校にて行なわれた消火実験の様子をレポートします。

◆水を使わずに消火する「ファイヤーブランケット」

 街中にEVが増えるほどに、心配になってくるのが車両火災です。リチウムイオン電池を登載するEVは、エンジン車とは違った燃え方をするだろうと言われています。しかし、実際のところ、これまで日本でEVの車両火災は、ほとんど発生していませんでした。そのためEV火災への対処法は、日本の消防として、まだ確立されていないというのです。

 そんな日本に向けて、新しい消火機材が輸入販売されることになりました。それがノルウェーの「Bridgehill」社の「ファイヤーブランケット」です。輸入販売するのはヨネ株式会社。その「ファイヤーブランケット」は、1500度の燃焼温度にも耐えるグラファイト(炭素系素材)にシリコンコーティングを施した布状の消火機材。

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「EV火災消火実験・訓練」の会場となったのは愛媛県消防学校の大規模訓練場

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火災を消すための機材が、ノルウェーのBridgehills社「ファイヤーブランケット」

 燃え上がる車両を「ファイヤーブランケット」で覆うことで、火や煙、有毒ガスを内部に閉じ込め、空気の遮断で車両火災を消してしまうというものです。水を使わず、しかもEV火災にも対応します。ノルウェー本国では、これまでEVを含む500台以上の車両火災を鎮火してきたとか。

 「ファイヤーブランケット」は大きさや性能によって、数種類の製品が用意されますが、今回、実験に使用されたのは「CAR PRO X」というもの。約6×8mのサイズで、30回ほど繰り返して使える、最上級のプロ仕様。価格は70万円です。

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実験に使われたのは約6×8mの「ファイヤーブランケット」の最上位モデル「CAR PRO X」

 そして、その性能を確認するイベント「EV火災消火実験・訓練」が愛媛県消防学校にて行なわれました。訓練とあるように、実施には愛媛県消防学校の協力のもと、またイベント当日は、取材するメディアよりも、全国から駆け付けた消防関係の人の方が多いという状況でした。消防関係の参加者の多さに、EV火災に対する消防関係者の注目度の高さを感じます。

◆燃え上がったエンジン車の炎を一瞬で消し去る

 「EV火災消火実験・訓練」の会場は、消防学校の大規模訓練場です。瀬戸内海に面した広場で、国道を挟んだ反対側は森。人家からは遠く離れています。そこに置かれていたのは、10年以上も前に発売されていたエンジン車とEVの2台でした(実験に使った車両が「燃えやすい」というイメージを持たれないように車名は伏せます)。

 最初に消火実験を行なうのはエンジン車。車内に灯油・ガソリンをまいて火を付ければ、あっという間に車両全体に火が回ります。5分ほどで、フロントガラスが割れるほどの大きな炎に。この時、車両の内部に設置されたセンサーによると、車内温度は600度を突破。

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灯油・ガソリンを車内にまいて火をつけたエンジン車。5分ほどで大きな火に包まれた

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「ファイヤーブランケット」を使った消火の様子。2人で「ファイヤーブランケット」を車両に被せる

 そんな燃え上がる車両に向かって、消防士2名が「ファイヤーブランケット」をつかんで走り寄ります。ブランケットによって燃え上がる車両を覆うのに掛かった時間は、ほんの数秒。「ファイヤーブランケット」を収納袋から取り出すのも入れても、わずか数分という早業です。もちろん炎は、「ファイヤーブランケット」に車両が覆われた瞬間に見えなくなります。

 火災車両を包む「ファイヤーブランケット」からは煙が上っていますが、これはコーティング剤が揮発しているだけで、有毒ガスではないそうです。車内の温度は、5分ほどで270度に低下。25分後には150度ほどになり、2時間後には80度までに低下していました。

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燃え上がったエンジン車に「ファイヤーブランケット」を被せる。空気が入らないように、消防士が「ファイヤーブランケット」の端を踏んでゆく

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「ファイヤーブランケット」を被せて、鎮火されたエンジン車。水を使っていないので地面もきれいな状態だ

◆EVの場合、盛大に煙は発生するものの火は遠く

 続いてEVの消火実験に取り掛かります。後席の床面を剥がして、リチウムイオン電池を露出させ、そこに釘を打ち込みます。強制的に内部ショートさせようというわけです。100名を超える見学者が見守る中、リチウムイオン電池に釘が打ち込まれます。すると、すぐに白い煙が猛烈に発生。内部ショートしたリチウムイオン電池から発生される煙は、鼻を突く異臭であり、有毒なガスであることが推測されます。

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EVのバッテリーを内部ショートさせるために使われた釘打ち機。釘1本が打ち込まれた

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煙は出るものの、なかなか燃え上がらないため、EVの窓を破る消防士

 ところが、煙は盛大に発生しますが、肝心の炎は見えません。5分たっても煙が出ているだけ。そこで消防士が、追加として車内に火を入れたところ、煙に引火して、大きな炎が生まれます。爆発か! と、緊張感が走りますが、それも一瞬のこと。すぐに火が消えて、やはり煙だけという状況に。そこで、今度は消防士が窓を破って、車内に外気を入れて燃焼を促進します。

 なんだかんだと、車内に火を確認できたのは、強制内部ショートから15分ほど後のこと。シートが燃えだしたようです。そして、フロントガラスが割れるほどの火が大きくなるのには、そこからさらに15分が必要でした。つまり、本格的に大きな火災になるまで30分ほどの時間がかかったのです。このとき車内の温度は930度にも達していました。エンジン車よりも高い温度になっていたのです。

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30分ほどで内装材などに火が移り燃え上がったEV。内部温度は900度を超えている

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「ファイヤーブランケット」を使って燃え上がるEVを消火する消防士たち。作業は、消防学校の生徒が担当した

 そして、エンジン車と同じく消防士2名が、燃え上がるEVに「ファイヤーブランケット」を被せます。炎と煙はすぐに遮断されましたが、5分たっても車内の温度は415度ほどにしか下がりません。25分後でも車内温度は220度ほど。2時間後は190度ほど。エンジン車と比べると、温度の下がり方がゆっくりのようです。

 消火作業から2時間ほどで鎮火と判断されたエンジン車に対して、EVは「ファイヤーブランケット」を被せたまま経過観測となっていたのです。「ブランケット」を外すのは、翌朝です。

◆電池が燃え尽きるまで何度も温度が上昇

 2日目の朝9時30分。冷却を確認したEVの「ファイヤーブランケット」を取り外します。現れたのは、真っ黒になり、後席ドアに溶けた穴のあるEVです。地面には、真っ黒なスス。燃焼温度の高さと、長時間の燃焼が見て取ることができます。

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「ファイヤーブランケット」を被せたEV。白い煙は、内部ではなく、表面のコーティング剤が発している

 経過観測によると「ファイヤーブランケット」を被せたEVは、3時間後までに、何度も車内温度が上昇していました。ブツブツという異音も発生していたとか。これは車内ある複数のリチウムイオン電池が順番に何度も熱暴走していたことが予測されます。温度が、一定に下がっていくのには、「ファイヤーブランケット」を被せてから4時間も後のことであったとか。

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「ファイヤーブランケット」によって鎮火された2台。EVは地面に黒いススが多いのが違いだ

 振り返ってみれば、今回のEVはリチウムイオン電池の熱暴走からの車両火災に時間がかかったものの、一旦火が付けばその温度は高く、そして火を消しても複数回にわたって温度が再上昇することが確認できました。火を消してしまえば、それで終わりというエンジン車とは、まったく違っていたのです。エンジン車とEVは、様々な点が異なりますが、火災においても異なることが確認できた訓練でした。

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