量子コンピューター分野の研究開発
量子コンピューター分野での基本戦略については、ソフトウェア技術に注力する一方、ハードウェアについてはさまざまな方式に対応することで、幅広く可能性を追求する姿勢を示し、現時点では、リソースの制限から、理化学研究所と超伝導方式、デルフト工科大学とダイヤモンドスピン方式に注力していると述べた。
2023年10月5日には、理研RQC-富士通連携センターにおいて、国産量子コンピューター2号機を開発したことを発表。富士通フェロー(量子研究担当)兼量子研究所長の佐藤信太郎氏は、「このマシンを利用し、産業界を中心に共同研究ベースで利用してもらい、量子アプリケーションを開拓していく。さらに、ハイブリッド量子コンピューティングプラットフォームのFujitsu Hybrid Quantum Computing Platformを用意するとともに、様々なライブラリを提供することで、アプリケーション開発を促進する。量子コンピューターと量子シミュレータが持つ双方のメリットを活かした計算手法の開発にも活用していくほか、材料、金融、創薬などの領域で、実用的なハイブリッド量子アプリケーションの探索を拡大していく」と述べた。
さらに、新量子計算アーキテクチャーの開発についても言及した。「この取り組みは、Early-FTQC時代に適したアーキテクチャーを目指すものであり、従来のTゲートに替えて、高精度な位相回転ゲートを導入し、新たな基本量子ゲートセットを定義。エラー増幅を抑えつつ、位相回転ゲート1回あたりの物理量子ビット数を従来の約1/10、量子ゲート操作回数を1/20に削減でき、1万物理量子ビットの量子コンピューターで、64論理量子ビットを実現できる。富岳が全筐体を使っても47論理量子ビットの性能しか実現できないことを考えれば、いまのスパコンを凌駕できる性能が可能になる。近い将来には、実用的な量子計算を行なえる方向性を示すことができた」と佐藤氏は語った。
なお、富士通では、2026年以降には、1000量子ビット超の超伝導量子コンピューターを公開する計画を明らかにしている。
プロセッサー分野の研究開発
最後に、プロセッサー分野での基本戦略について説明した。ここでは、次世代プロセッサーの「FUJITSU-MONAKA」に触れた。FUJITSU-MONAKAは、富岳に搭載しているA64FXなどのCPU開発のノウハウを継承。2027年に市場投入する。
富士通の自社設計によるマイクロアーキテクチャーや、低電圧回路動作技術などの独自技術、TSMCの2nmプロセス技術、最新のArmアーキテクチャー「Arm V9-A」を採用し、3次元実装技術の活用により、高性能、省電力、高セキュリティを実現したCPUとなる。
富士通 先端技術開発本部長の新庄直樹氏は、「2030年のデータ量は、2020年の10倍に達すると予測され、その後も爆発的にデータが増大すると予測されている。だが、それに伴い、データセンターの電力消費増大が与える環境負荷が問題になっている。富士通が開発している高性能省電力プロセッサーのFUJITSU-MONAKAは、データセンターの電力効率を飛躍的に向上させる世界トップレベルの技術を採用しており、次世代グリーンデータセンターに適応する省電力CPUになる。データセンターをはじめとして、幅広い分野の顧客に提供し、カーボンニートラルの実現に貢献したい」と述べた。
競合製品に比較して2倍の電力効率、AIワークロードを中心としたコンピューティングにおいて2倍の高速処理、メインフレームで培ってきた安定稼働技術の採用、オープンソフトウェアをはじめとしたArmのソフトウェアエコシステムが利用可能という特徴を持つことになる。
なお、今回説明会の開催にあわせて、同社が開発している最新技術の展示およびデモストレーションを行った。その様子を写真で紹介する。