業務を変えるkintoneユーザー事例 第188回
「kintoneによって、仕事に対する考え方、世界観が変わった」
市役所と保健所が一体となり、コロナ禍の3年を乗り切った神戸市の軌跡
2023年07月20日 09時00分更新
kintoneのユーザーイベント「kintone hive osaka 2023」の4組目は、神戸市役所の企画調整局デジタル戦略部の小阪真吾氏、西区保健福祉部保健福祉課の小寺有美香氏の2名が登壇。「現場と情シスが全力で駆け抜けた1160日 コロナ対応の舞台裏」と題して講演した。
コロナ患者の情報が、保健所と保健センターに分散していた
講演タイトルにある1160日は、神戸市ではじめてコロナの感染者が記録された2020年3月3日から、コロナが感染症5類に分類された2023年5月8日までの日数にあたる。本講演で両名は、この間神戸市役所が取り組んだコロナ対策業務と、kintoneの活用を説明した(関連記事:神戸市と市川市がkintone導入の経緯と効果を語る)。
小阪氏が所属する神戸市役所デジタル戦略部は、いわゆる情報システム部門で、市役所内のさまざまな部署から依頼が来るシステム開発を担うほか、庁内のテックコミュニティを運営している。
一方の小寺氏は通常、市役所内で保健師を務めており、住民の健康作りに携わっている。しかし、コロナ発生時から2023年3月までは感染症担当として保健所に派遣され、コロナ感染者対応の最前線に立っていた。コロナ対策のkintone活用では、現場の代弁者として活動した。
神戸市は1つの保健所を中心に、10区の地域に分かれた保健センターを運営している。保健所が市全体の住民に対する健康支援の方針を立て、それを各保健センターが住民向けのサービスとして実施している。
2020年3月にコロナ感染者が市内で確認された初期のころの保健所の対応は、次のようになっていた。
まず感染者を確認した医療機関から、FAXで保健所に発生届が届く。保健所ではその内容をExcelに転記して集計し、統計資料、プレス発表のデータとして使う。同時に発生届をスキャンしてPDFに変換し、そのデータを各地区の保健センターとファイル共有。保健センターでも、患者へのヒアリングの結果を職員が別のExcelファイルで管理していた。
小寺氏は、このときの対応に「3つの問題」があったと話す。1つめは、1人の患者の情報が保健所と保健センターに分散しており、共有するのに時間と手間がかかっていた点だ。
2つめは、厚生労働省から提供される情報、保健所、各保健センターが持っている情報の形式が全てバラバラで、集計するためにはまず形を整えることが必要だった。
そして3つめは、保健センターの職員は、通常業務をしながらのコロナ対応だったということだ。新生児がいる家庭への訪問、乳幼児検診、高齢者の健康促進など、保健センターの通常業務をこなしながら、コロナへの緊急対応もしなければならず、どれだけ業務を効率化できるかが重要な問題だった。
保健所、保健センターでは、こうした課題を抱えながら、コロナの1波、2波はなんとか乗り切った。しかし、2020年の秋から冬にかけての第3波では、状況が一変する。
「第3波では、1日あたりの感染者数が1波、2波の5倍以上に達していた。こうなると、患者の情報を入力、共有するなどの対応が追いつかなくなっていた」(小寺氏)
この状況を見ていたデジタル戦略部の小阪氏らは、保健所に直接乗り込み、支援を申し出た。そして、2021年4から、保健所とデジタル戦略部がタッグして患者管理のデジタル化がスタートした。
kintoneで業務改善するマインドは醸成済みだった
神戸市役所では、すでに2018年からkintoneを導入していた。最初は10名からのスモールスタートだったが、2019年には庁内テックコミュニティを立ち上げ、セミナー開催やチャットルーム開設など、職員が学び合える環境を作り上げていった。「草の根活動やナレッジの共有など、kintoneを使って業務改善するマインドは、すでに醸成されていた」と小阪氏は語る。2020年にはオンラインで開催された「kintone hive osaka 2022」に職員が登壇して地区代表に選ばれるなど、成果を挙げてきた。
小阪氏は、コロナ禍の課題もkintoneで解決したいと構想した理由を次のように語る。「既成のパッケージソフトは、庁内の業務とマッチしづらかった。また、コロナ禍で目まぐるしく変わる行政のルールにも柔軟に対応できるシステムが必要だった。これまでのkintoneの実績を考えても、いけると思った」
デジタル戦略部ではコロナ対策のチームを結成。保健所からの要望を聞き、それに応えて開発を進めていった。「お互いに職員同士ということもあって、暗黙の了解事項も理解していて進めやすかったと思っていた」(小阪氏)
小寺氏も「私たちはシステムのことがわからないので、課題を言葉で説明するのが難しかった。それに対して、市役所の開発担当者がかなりの頻度で保健所の現場に足を運んでくれたため、困りごとを直接見てくれたことはありがたかった」と、協業時の連携はスムーズだったと振り返る。
デジタル戦略部ではこの連携のよさをさらに生かすため、「スクラム開発」に挑戦した。細かいステップで開発とレビューを繰り返すことで、現場の声を聞き入れながらアプリの精度を上げていった。
「毎朝のミーティングで、進捗状況と課題の共有を密に行なった。またタスクとアプリの管理にもkintoneを用いたり、チャットやWeb会議システムなどを使って、リモート環境でもコミュニケーションを円滑に図れるように努めた」(小阪氏)
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