業務を変えるkintoneユーザー事例 第174回
刻々と変わる状況の中、ひたすらkintoneアプリを改善し続ける
新型コロナの波にkintoneで立ち向かったある北九州市職員の戦い
2023年05月11日 11時30分更新
「kintone hive 2023」の第2弾が福岡で開催された。会場はいつものZepp福岡。kintone hiveはkintoneのユーザー事例を共有しあうイベントで、優勝した企業はCybozu Days 2023で開催される「kintone AWARD」に進出する。登壇したのは5社で、今回は2番手、北九州市役所 保健福祉局 係長の井上望氏によるプレゼンの様子を紹介しよう。
新型コロナウイルス感染症の陽性者管理の労力が倍々に増えていく
井上氏は昨年のkintone hiveに参加したのだが、その時は相当行き詰った状態だった。そこから、kintoneによる業務改善に着手し、「俺、この戦いが終わったらhiveで発表するんだ」と盛大にフラグを立てたものの、無事、発表に漕ぎつけたという。
北九州市保健所の新型コロナウイルス感染症を担当する部署では、陽性になった人とのやり取り全般を行なっていた。繁忙期には委託や派遣の人も含めて、200名もの大所帯になった。新型コロナウイルス感染症に関する業務では、取り扱いが刻一刻と変わるのが課題で、スピード勝負な側面がある。しかし、連絡、調整、物資の手配、証明書の送付など、業務が幅広く、たくさんの係があり、そしてお互いが何をしているのかわからない、という状況だった。
「1番の問題は、業務に波があり、どんどん波の高さが高くなるところです。さらに、この波がいつ上がって、いつ収まるかの予測がつきません。上と下の幅が大きいので、業務の予測が立てられないのです」(井上氏)
kintoneの導入前は、まず陽性者の人が発生すると、医療機関からFAXが届くので、この紙を元に陽性者の人に電話をしていた。体調などいろいろなことを聞き取り、自宅療養の場合は、その後も毎日、電話をかけて健康観察をすることになる。
聞き取った内容は紙に手書きして、1人1人、個別にファイリングして、箱に収納する。健康観察中は付箋を付けて箱に詰め、翌日はまた取り出して、作業するといったことを繰り返していた。日中はファイルが動き回るので、FAXが届いたら、管理用にコピーしたりExcelに入力するという手間も発生していた。
「情報の多重管理していると、最初に聞いたものと、後で聞いたものの情報が違っているということが起きますし、それも共有されません。コピーを取るとファイルが大きくなり、メールボックスはいつもパンパンでした。紙台帳はどんどん増え、机を占挙し、紙を探すのも大変です」(井上氏)
それでも、このやり方は変わらなかった。第2波、第3波が起きたら、増員して対応していたのだ。これは、業務を変えるのには体力が必要だから、と井上氏。慣れた方がやりやすいということで、やり続けたのが正直なところ、だという。
増え続ける業務に対応するためkintoneを活用することに
第4波まではなんとかなったものの、第5波はさらに2.6倍になり、毎日200件以上の連絡が入るようになった。10日間の健康観察をするなら、毎日2000件の電話をかける必要がある。
さらに次、また2倍になったら、どうするんだ、と職場は不安な空気が漂うことになった。そんなとき、井上氏はkintoneと出会うことになる。北九州市は2021年9月にサイボウズとDX推進に関する連携協定を結んでおり、庁内でkintoneの活用募集をしていたのだ。
「kintoneの話を聞くと、どうもExcelを置き換えられるらしい、名簿管理が得意らしい、ということでした。そこで、市のIT部門である『デジラボ』に相談したところ、比較的私が(ITに)詳しいし、業務も知っているので、アプリを内製することになりました」(井上氏)
早速、井上氏は現場の要望を受けて、陽性者の紙台帳や日々の健康観察をkintoneアプリ化したのだが、うまくいかなかった。実際のアプリの画面が映し出されたのだが、大量の項目がずらーっと並び、とても縦に長い画面になっていた。どこに入力すればいいかわからない、と言われるのも当然だろう。
さらに、kintoneの問題でもあるのだが、年齢や和暦の計算ができず、文字の入力制御もできない。誰かが開いていたら保存できないし、印刷しても帳票にならない、と否定的な反応が返ってきた。Excelだったら簡単にできたのに、なんでkintoneではできないのか、という声がいっぱいだったそう。
kintoneを使って業務改善しようという話はあったものの、皆はkintoneのことを仕事を楽にする魔法の道具だと思っていたという。井上氏は実際にkintoneに触って、アプリを作っているので、課題もわかっているのだが、全員が忙しすぎて、その共有もままならない状況だった。
では、プロに頼んだらいいという意見もありそうだが、それは無理。新型コロナウイルス感染症の業務に関しては、刻一刻と状況が変化するので、どこかに委託しようとしても、要件定義して見積書を取って、受けてくれるところが出てきても、そのころには確実に業務内容が変わってしまうからだ。
では、プラグインを使えばいいという意見もありそうだが、それも無理。市役所は行政用のLGWANという閉域網を利用しており、インターネットにつながったら使えるプラグインがほとんど使えなかった。とはいえ、また紙に戻って、もっと応援を頼むのも嫌だと考えた井上氏は、自分でカスタマイズしようと決心した。
「デジラボに、カスタマイズしてみたいと相談しました。当然、カスタマイズをすると、システムが属人化してしまいます。一般的には望ましいことではないのですが、今回については新型コロナということで、ずっと続くものではありません。数年間、私が面倒を見れば、最後に店じまいまでできるはず、と頼んで特別に許可をいただきました」(井上氏)
JavaScriptの勉強をして、情報を集め、2022年1月、第6波が来る直前にシステムが完成した。スクリプトを実装して、年齢計算や和暦計算を実現。長すぎるアプリ画面は、スマイルアップ合資会社が提供している「kintoneタブJavaScript」を利用し、タブで切り替えられるようにした。さらに、陽性者台帳と健康観察は別々の係が使うので、同時利用できるように別のアプリにした。
さて、情報の共有は実現したが、ここで新たな問題が起きた。陽性者台帳のアプリでデータを作った後、健康観察アプリにデータを作らないと、健康観察の情報が始まらない。そこで、アプリアクション機能を付けて、データを作るようにしたのだが、そのボタンを押し忘れるケースが出始めたのだ。
そこで、陽性者のデータがある人には健康観察のデータができているかチェックするようにしたのだが、あっちの仕事は楽になったが、うちの仕事は増えているじゃないか、と賛否両論が出てしまった。
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