このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第719回

EUV露光で堀った溝を削って広げる新技法Sculpta EUVによる露光プロセスの推移

2023年05月15日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

低コスト、高解像度のeBEAM(電子ビーム)で削り込む?

 2月28日にApplied Materialsが発表したのはSculptaだけでなく、もう1つVeritySEM 10というシステムがある。こちらはなにをやっているかというと高精度測定を行なうためのシステムである。

 よくトランジスタの断面積を示すのにSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)と呼ばれるものが使われているが、従来型のSEMを使うとEUVではくっきりとした画像にならないという問題があった。

通常のSEMだとぼやける映像が、VeritySEMだとくっきり観察でき、これは今後高NAのEUV露光機と組み合わせても問題ない、とする

 Applied MaterialsはeBEAMの線源を工夫したCFE(Cold Field Emmition)eBEAMという方式を開発して昨年末に搭載製品を発表しており、今回のVeritySEM 10もこのCFE eBEAMを利用したものと想像される。

電子ビームをうまく絞り込むことで、狭い隙間でもきちんと可視化できるようにする、という仕組み

 このVeritySEM 10はあくまで測定用なので対象物を削るにはつたないわけで、ビーム径は絞りつつも出力は抑えめにしていると考えられるが、もしCFE eBEAMの出力がもっと上げられるならば、電子ビームを絞り込むことでパターンを削ることそのものは可能と思われる。

 懸念事項は、その出力である。もともとeBEAMはEUVと並び、次世代半導体の露光方式として検討あるいは開発が行なわれていた。実際連載700回で説明した、インテルがIEDMで発表した技術のほとんどは、その製造はeBEAM露光で行なっている。

 原理的に物理的なマスクが要らない(eBEAMの照射パターン制御にマスクの情報を喰わせてやるだけで良いので、マスクを物理的に製造せず、設計だけをしてそのデータをeBEAM露光機に与えれば済む)から低コストであるとか、解像度そのものがはるかに微細(電解放出型で0.1nm、電子放出型でも1nm)といったメリットがある。

 その半面、「完成するまで欠陥があるかどうかわからない」「スループットが絶望的に低い」という問題があった。特にスループット、2010年頃の数字ではまだ1枚/時未満、少し前の数字でも数枚/時程度で、EUV露光機の160~170枚/時と比べて2桁の開きがある。

 今回のCFE eBEAMで出力を上げた時、どの程度のスループットが出るのかはかなり謎である。もっともウェハーを丸ごと露光するのではなく、穴を広げるだけならもう少しスループットが上げられるのかもしれないが、正直どの程度のスループットで「穴を広げる」処理が可能なのかに関しての情報は一切公開されていない。

 加えて言えば、先の動画の2分13秒あたりで、「ウェハーを任意の角度に回転させることで全方位で削れる」としているが、実際には何らかの制約がありそうな気もする。

従来のプラズマで削り込む

 もう1つの可能性はプラズマを利用して削る方法だ。もともと半導体業界では、プラズマを利用してウェハーの表面を削り取るプラズマドライエッチングという手法が広く利用されている。もちろんApplied Materialsでもプラズマドライエッチングの機器を提供している

 問題は、今回のような細かい寸法のエッチングが本当に可能か? というあたりである。同社はすでにProducer Selectra Etchという微細なエッチング装置を提供しているが、これはプラズマではなく化学薬品ベースのエッチング手法である。プラズマベースで同じ微細さを提供できるのか? は判断が付かない。

 Sculptaは下の画像にある4つの装置から構成される。

左から右か、右から左かはわからないが、ウェハーはこの4つの装置を使ってシャープニング処理が行なわれる格好になる

 普通に考えると以下のあたりだろうか?

(1) 削りたくない場所に保護膜を形成
(2) eBEAMないしプラズマでシャープニング
(3) 保護膜除去
(4) 後処理(削りカスの除去や保護膜削除後の表面の荒れの平滑化とか)

 仮にSculptaを導入する場合、これは顧客の設計にも関係してくる。というのはマスクの作り方が変わるからで、現在EUVのダブルパターニング向けにテープアウトしたマスクではSculptaのフローに適合しない。

 従って、改めてシングルパターニング向けのマスクを作り直す必要がある。これは場合によってはPDK(Process Development Kit)の変更もともなうものになるので、「既存の設計のまま使えます」ということにはならない。それもあってか、先のプレスリリースを読むとインテルとSamsungからのメッセージが寄せられているのに、TSMCからはない。

 これは裏を返すと、すでに大量のEUVダブルパターニングでテープアウトした顧客を抱えているTSMCは、現行の3nm世代にはSculptaを突っ込む余地はなく、仮に導入したとしてもN2のさらに先になるのに対し、インテルやSamsungは今からSculptaを導入しても間に合うことを意味している。

 といってもSamsungで言えばSF3、インテルならIntel 4/3に関してはさすがに間に合わず、導入するとしてもSamsungなら2025年のSF3P(旧3GAP+)ないしSF2以降、インテルならIntel 20Aないし18A以降になるのではないかと想像する。

 EUV露光を完全にモノにしたTSMCと、まだ悪戦苦闘しているインテル/Samsungという対比が透けて見えるのはおもしろいし、このSculptaがどこまで広く利用されるようになるかは不明だが、この先GAA世代を踏まえて半導体製造装置メーカーもいろいろ工夫している、ということを偲ばせる発表であった。

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン