メルマガはこちらから

PAGE
TOP

人の縁をつくるきっかけがスタートアップエコシステムに必要

堺市「中百舌鳥イノベーションシンポジウム2」レポート~人と縁がつなぐ地域活性のスタートアップエコシステム~

特集
堺市・中百舌鳥の社会課題解決型イノベーション

1 2 3 4

 大阪府堺市は人口減少や高齢化などの社会的課題や、暮らし、学び、働くなど普段の生活に密接にかかわる身近な地域的課題など、地方自治体が悩む課題の解決に向け、イノベーション創出のための様々な取り組みを展開している。市の中心にある中百舌鳥地域はそのリーディングエリアとして定義され、イノベーション創出に向けた各種施策が実施されている。

 その2022年度の活動を総括する「中百舌鳥イノベーションシンポジウム2」が2月27日に開催された。そのテーマは「人と縁がつなぐ地域活性のスタートアップエコシステム」で、「縁」の価値を熟知したベンチャーキャピタリストによる基調講演や堺市に所縁あるスタートアップによるパネルディスカッションが行なわれた。

基調講演:「縁をつなぐ」から生まれるイノベーション

 社会課題の解決や市民ニーズの充足を目指す新産業等の育成および起業促進のために、堺市は地域内外のプレイヤーによって社会課題解決型イノベーションが創出される環境(エコシステム)の形成が重要と考えている。人と人との出会いを生み出す「縁」は、そのエコシステムの回転力の原点となる。

 本シンポジウムを始めるにあたり、Yazawa VenturesのFounder and CEOを務める矢澤 麻里子氏(以下、矢澤氏)からその「縁」をテーマに基調講演が行なわれた。

Yazawa Ventures Founder and CEO 矢澤 麻里子氏

 矢澤氏はコンサルタント・エンジニアとしてキャリアをスタートした後、シリコンバレーのVCおよび日本国内のVCでの勤務を経て、日本発の女性単独によるGPのファンド、Yazawa Venturesを立ち上げた。Yazawa Venturesは産業や企業の構造変革を引き起こすようなスタートアップにシード期、プレシード期から投資を行っている。

人と縁とは ~Connecting the Dots~

 矢澤氏がYazawa Venturesを立ち上げるきっかけとなったのは、2017年にシリコンバレーで開催された女性向けの企業新プログラムに参加したことだった。参加前には、そのプログラムでどのようなことが行われるのか、どんなメリットがあるのか全くわかっていなかったが、知己を得た人から支援を得られるなど、そこでつながった縁はファンド組成の大きな支えとなった。

「皆さんもスティーブ・ジョブズの有名なスピーチ、『Connecting the Dots』のことを聞いたことがあると思います。彼の言うとおり、ドットって将来を見て(事前に)繋げておくということはできない。振り返って(以前打っておいた)ドットと(今打った)ドットをつなげることしかできない。だから今自分がやっていることや信念などを信じて、それがいつかつながると信じて動けるかどうかが大事なんだと思う。この合宿は私自身のファンド立ち上げのConnecting The Dotsだった」(矢澤氏)

 人は1人では事業を作ることはできない。組織を作ることもそうだし、クライアントもそうだし、協力してくれるビジネスパートナーたちと一緒になって取り組まないと、事業を立ち上げ、成長させていくことはできない。だからこそどういう縁を作るのか、どうやって縁を作っていくのかということは決定的に重要になってくると矢澤氏は話している。

エコシステム側に求められる縁づくり

 これから起業をしようと考えている人や新たな事業を立ち上げたいと考えている中小企業の経営者に求められることが互いを繋ぐ縁を作ることだとするなら、逆にエコシステム側には縁を生み出すきっかけづくりが求められることになる。

 矢澤氏はYazawa Venturesを立ち上げる前に、国内のVCで国や地方自治体などを巻き込みつつスタートアップ支援のイベントを開催してきた。その際の経験から、空気を読まずにおせっかいをして周囲を巻き込んでいくことが重要と指摘する。

「このスタートアップは今すごく伸びているから、話しかけたら迷惑なんじゃないかとか、AさんはBさんに繋がりたいと思っているけど、Bさんはすごく偉い人だから紹介しづらいとか思うことはよくある。でもそういうのを無理やりつなげていく、ある種の図々しさ、おせっかい感がすごく重要だと思います」(矢澤氏)

 また、エコシステムに関わる人数が少ないままでは世界は変わらない。矢澤氏はイベント開催の経験から、1万人くらいを動かせるようになると世界が変わると言う。

「こういった地域活性(のプロジェクト)においても、何人動かしたら(世界が)変わるのだろうかという視点はすごく重要じゃないかと思っている。是非やってみていただきたい」(矢澤氏)

多様性の実現について

 上場会社が提出を求められるようになってきた統合報告書には、その企業のダイバーシティへの取り組みが記載されるようになってきている。実情としてまだIR的側面が強いとも言われている日本企業のダイバーシティへの取り組みだが、ダイバーシティ性の高い企業の方が生産性も高いという調査会社のレポートもある。

 他にレベニューやROAなどの指標でも同様の調査結果が得られており、ダイバーシティをIRでなく企業成長のために採用する時期に来ていると矢澤氏は考えている。

「これはすごく当たり前のことではないかと思っています。役員チームでディスカッションをしたとして、同質性の高い人たちだけで議論をしても新しいことって出てきにくいでしょう。新しいことへの意思決定がしにくく、新しい発想はどうしても出にくくなるのではないかと思います。

 でも今の時代は何が起こるかわからないような非常に不安定な社会になってきているので、やはり幅広い視点を持ち、みんなで議論をして次の一歩を素早く進んでいく。ダイバーシティ性の高いチームで議論をすることは企業の成長に大きく影響するのではないかと思います」(矢澤氏)

1 2 3 4

合わせて読みたい編集者オススメ記事

バックナンバー