電気料金の高騰は、個人の生活だけでなく、企業活動にも大きな影響を与えている。
エプソン販売の鈴村文徳社長は「2022年12月のエプソン販売全体の電気使用料金は、前年同月に比べて41%も増加した。こうした電気代の上昇は、多くの企業や自治体、教育機関が直面している課題である。ある教育機関では、電気代が高騰し、備品を売却せざるを得なかったという例もあった」としながら、「だが、使っているレーザープリンタを、エプソンのインクジェットプリンタに置き替えるだけで消費電力量を47%以上削減できる。また、場所を取らずに高速機を配置できるため、プリンタ台数を削減でき、これも消費電力の削減に貢献する。なかには、プリンタの消費電力を7~8割削減できたというオフィスもある。置き換えは、誰でも、簡単に、すぐにでも実行できる脱炭素施策である」とする。
オフィスの電力使用量において、プリンタおよび複合機は約10%を占める。そこにおいて、電力消費を半減できる効果は大きい。
エプソングループでは、2026年までにオフィス向けレーザープリンタの本体販売を終了し、新規に販売するオフィス向けプリンタを、インクジェットプリンタに一本化することを発表している。
エプソン販売の鈴村社長は、「この意思決定に対して、お客様やパートナーからも高い評価を得ている」と手応えをみせる。「エプソンのインクジェットプリンタが、レーザープリンタと比べて低消費電力であることや、省資源化を実現できることが認識されている。さらに、昨今の電気代の高騰によって、インクジェットプリンタに関心がますます高まっている」とする。
Epson 25 Renewed
エプソングループでは、2021年3月に長期ビジョン「Epson 25 Renewed」を打ち出し、「『省・小・精の精神』とデジタル技術で、人、モノ、情報がつながる、持続可能でこころ豊かな社会を共創する」を掲げ、このビジョンの実現に向けて、「環境」、「DX」、「共創」の3点に取り組む姿勢をみせている。そのなかでも「環境」を重要な柱に位置づけており、「脱炭素」、「資源循環」、「お客様のもとでの環境負荷低減」、「環境技術開発」の4つのテーマから事業を推進。2021年から2030年までの10年間で、環境技術の促進のために1000億円を投入。また、環境負荷低減に貢献する商品やサービスの開発に経営資源を集中させる方針を示し、ここでは10年間で1兆円を超える投資を行う考えを示している。
レーザープリンタから撤退し、インクジェットプリンタへの置き換え提案は、環境戦略で掲げた「お客様のもとでの環境負荷低減」という観点からの取り組みのひとつになる。
環境ビジョン2050
エプソングループでは、「環境」をキーワードにした取り組みを積極化している。
「環境ビジョン2050」を打ち出し、2023年のグローバルの全拠点での100%再生可能エネルギーの活用を目標に掲げている。すでに、国内拠点のすべてでこの計画を達成。海外生産拠点ではイタリア、英国、米国(ポートランド)、インドネシア(ブカシ)、タイ、フィリピン、中国で達成。海外販売拠点では、欧州の販社所有オフィスビルや中国販社オフィスでも実現している。
そして、その先にある2050年のカーボンマイナスと、地下資源消費ゼロという高い目標に向けて、技術開発をはじめとして課題解決に向けた取り組みを強化しているところだ。
また、オンサイト発電の拡大や、再生可能エネルギーの普及拡大支援にも取り組んでおり、「信州Green電源拡大プロジェクト」では、電力販売収益の一部を長野県内の再生エネルギー電源の開発や普及促進に活用。エネルギーを作る側と売る側との連携によって、エネルギーの脱炭素化への動きを牽引していく姿勢をみせる。
さらに、2022年12月には、オフィス内で不要となったプリント用紙などの古紙を再生紙に生まれかえさせる「PaperLab」の新コンセプトモデルを発表。独自のドライファイバーテクノロジーの採用とともに、結合材を地球環境にやさしい天然由来成分のものに変更。従来モデルの約半分に小型化し、設置自由度と操作性の向上を図った。エプソンにとって、「PaperLab」は、環境戦略の象徴的な製品のひとつだ。
再整備とリファービッシュ
新たな取り組みのひとつが、2022年2月から開始した商業プリンタを対象にした再整備プログラムと、2023年春から開始する認定整備済み製品であるリファービッシュ品の販売である。まずは、サイン・ディスプレイ市場向けのエコソルベントインク搭載プリンタ「SC-S80650」を対象に実施。リファービッシュ品は、最長10年間に渡って利用できるという。
長期使用による商品の廃棄削減と、資源の有効利用を図ることで、地上資源を最大限活用し、地下資源に依存しない循環型経済へ貢献するのが狙いであり、新品を製造したときに比べると、再整備プログラムでは約93%の部品を継続使用することで91%のCO2を削減できると試算。リファービッシュ品では約86%の部品を継続使用することから、79%のCO2削減が可能になるという。
エプソン販売の鈴村社長は、「今後は、商業プリンタだけでなく、パソコンやプロジェクター、家庭用インクジェットプリンタの一部でもリファービッシュ品を販売していく」と語る。ビジネスプロジェクターは、すでに買い取りサービスを2022年5月から開始しており、エプソンダイレクトショップでは、パソコンの下取りサービスを実施したり、インクジェットプリンタの下取りサービスでは、エプソンダイレクトショップで使える1000ポイントを提供するといったサービスも行っている。
使った後に捨てるもの、これを再生できれば
利用現場における具体的な導入事例も増えている。
阪急うめだ本店では、百貨店業界では、年間数億円規模の店内装飾物が廃棄されている課題に着目。繰り返し利用できる再生可能素材とプロジェクターによる映像演出により、色鮮やかで価値のある装飾を実現しながら、廃棄物を大幅に削減し、持続可能で魅力的な売り場づくりを実現しているという。エプソン販売の鈴村社長は、「この成果を、より多くのお客様に展開したい」とする。
アパレル分野では、エプソンが提供するデジタル捺染機のMonna Lisaを活用することで、従来の捺染機に比べて約10倍のスピードでプリントができるほか、色ブレがほとんどないため、生産効率も大幅に向上。さらに、大量のエネルギーや大量の水を使用しないため、環境負荷低減にも大きく貢献しているという。
食品分野では、日本惣菜協会との連携で食品TCプロジェクトに参画。エプソンのスカラーロボットを利用して、惣菜の盛り付けの自動化、省人化に貢献している。すでにマックスバリュー東海で稼働しており、他社への展開も進めていくという。今後は、ロボットの低電圧化も進め、環境への貢献も進めていくという。
さらにエプソン販売では、脱炭素化に向けた取り組みの推進組織として、2022年4月に、「DX推進部(グリーンモデル推進)」を新設。顧客の脱炭素に向けたパートナーとの共創に向けた発掘活動を推進している。
成果のひとつが、キャプランとの協業だ。キャプランのCO2排出量可視化BPOサービスと、エプソンの出力環境アセスメントサービスを組み合わせ、オフィスの印刷業務に関わるCO2排出量を可視化し、排出量削減に向けたシミュレーション結果を提示。それをもとに、インクジェットプリンタへの置き換えを提案している。「自社のCO2排出量を可視化することが環境対策への第一歩になる。このサービスを一度試してもらいたい」と語る。
DX推進部では、このほかにも10数社の環境パートナー企業との協業を開始しているという。
カラリオスマイルPlus
個人向けインクジェットプリンタでは、「カラリオスマイルPlus」の取り組みが特筆できる。
インクカートリッジ方式のカラリオプリンタを対象にサポートを提供してきた「カラリオスマイル」を進化させたもので、サービス対象を大容量インクタンクモデルにも拡大。修理料金を全額サポートするプランと半額サポートする2つのプランを用意したり、落下破損や水こぼし、火災・落雷などの物損にも対応したり、プリンタの買い替え時には、手元に残った未開封の純正インクカートリッジをエプソンダイレクトショップの300ポイントと交換できたりするサービスも用意している。
「これまでは、故障したら捨てる、買い替えるという考え方だったが、修理して使い続けるという考え方に変えてもらうことを積極的に促す施策になる。カラリオスマイルPlusにより、家庭向けプリンタでも安心して5年間利用してもらうことができる」とする。
カラリオスマイルPlus は、2021年11月から2022年12月までに、6万件の販売実績となり、環境意識の高まりとともに、利用が急増しているという。
「使い慣れたプリンタを継続利用してもらうことで、環境負荷への低減に貢献できる。これはエプソンにとってもビジネスモデルの転換になる」と語る。
このようにエプソングループは、「環境」という観点から、様々な取り組みを開始している。環境問題では、紙資源の無駄な利用が、森林破壊につながることが指摘され、紙に印刷するプリンタを、事業の柱とするエプソンは、かねてから環境対応に高い関心を示してきた。そうした取り組みがベースにある企業だからこそ、環境意識の急激な高まりのなか、他社に先駆けて数々の環境戦略を打ち出すことができている。
環境への取り組みは、エプソンの強みのひとつになりつつある。これからのエプソンは、「環境」を前面に打ち出して、成長戦略を推進する企業に変貌することになる。
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