スタートアップ4社が独自技術で取り組むカーボンニュートラル社会の実現
オープンイノベーションピッチ in Central Japan
日本が世界に約束した2050年までのカーボンニュートラルを達成するため、各企業は省エネや再生可能エネルギーの利用など、さまざまな取り組みを始めている。それと並行してカーボンニュートラル実現のための新技術や新製品の開発熱も高まってきており、それらをターゲットにしたスタートアップも数多く設立されてきている。
2022年11月10日に、新しい技術でカーボンニュートラルに挑むスタートアップ4社を集めたピッチイベント「オープンイノベーションピッチ in Central Japan」が開催された。これは2021年11月のNEDOピッチ in Central Japanに続いて開催されたもので、4社のピッチに加えて東京大学の江崎浩教授の基調講演、および江崎教授とスタートアップ4社に加えて名古屋大学の平山雄太客員准教授とによる座談会が行われた。
世界の課題であるカーボンニュートラルの実現に向けて、日本の中心で行われたピッチイベントの模様を紹介する。
基調講演
「カーボンニュートラル社会の実現に向けて企業はどうあるべきか」
東京大学大学院情報理工学系研究科の江崎浩教授(以下、江崎氏)による基調講演は「2050年カーボンニュートラル社会の実現に向けて企業はどうあるべきか」と題して行われた。「どうあるべきか」というと難しく感じるが、要はカーボンニュートラルを少し別の視点から見てみましょうということであり、別の視点を持てれば従来とは別の行動を取る理由が見つかるということを指している。
江崎氏はまずカーボンニュートラルに関して企業が留意すべき3つの視点を挙げている。その1点目として、二宮尊徳の「道徳なき経済は罪、経済なき道徳は寝言」という格言を取り上げている。つまりカーボンニュートラルを実現するための行動を取らない企業は存在価値がないということだが、加えてカーボンニュートラルと利益を両立させなくてはならないということでもある。
2点目としてはMelvin Kranzbergの第2法則、「発明は必要の母」を挙げている。スタートアップが開発しているような新技術や新製品には、それができることによって初めて光が当たる「必要(=課題)」があるから、発明の芽を必要の方に近づけていくアクションが重要になってくる。
3点目に上がったのは「諸刃の剣」。政府などからの補助金はスタートアップの成長に無くてはならないものである反面、それに依存すると独力で突破口を見つける強い意志が削がれてしまう場合がある。あるいは東京は大きなマーケットがあり、ビジネスがやりやすい面もあるが、そこに甘んじてグローバルマーケットを狙わなくなってしまう恐れもある。良いことの裏に潜む落とし穴に対する警告といえる。
これら3つの視点を挙げた上で、江崎氏は具体的なアクションの方向性を示している。カーボンニュートラルというと化石燃料の利用を減らし、再生可能エネルギー100%に移行することを至上命題と捉えがちだが、それは非常に多くの困難に直面することになる。これは二宮尊徳の言葉という視点から見るとわかりやすい。
そこで注目すべき方向性として挙げているのがエネルギーの利用効率を徹底的に追及するというもの。生産性向上は日本のお家芸であることからも、企業としても取り組みやすい。再生可能エネルギー100%を実現することに比べれば、エネルギー利用効率を2倍とか10倍とかに上げることを目標にした方が現実的であるし、結果としてCO2の排出削減に貢献できる。
このように従来あまり重視されてこなかったカーボンニュートラルの側面を指摘したうえで、トヨタを例に挙げてサイロ構造を破壊し、モノとコト(機能)を分離することの重要性を説いた。分離された機能はハードに寄らず稼働させることができるから、機能の実現と実行の柔軟性が上がり、As Isの“DXもどき”ではなくTo Beの“真のDX”が実現できる。そしてインターネットが情報流通の世界に引き起こした破壊的な社会構造・産業構造の変革をモノの世界においても再現可能になる。
例えば物流の世界では、当初排他的な個別網を利用してモノを運んでいたが、コンテナとパレットによってサイロ構造を破壊することにより、グローバルな効率的物流網を構築することができた。これは物理的なシェアリングエコノミーといえるが、IPパケットという共通の入れ物で情報の流通を行うようにした仕組み(シェアリングエコノミー)がインターネットである。
さらに3Dプリンターの出現がモノの流通を変革しつつある。家を3Dプリンターで作れるようになったように、製造物のレシピをインターネット経由で送れば3Dプリンターによって生産を行うことができる。これにより製造という機能を工場というモノから分離すれば、物流を減らして全体としてCO2排出量を下げることが可能になる。
情報流通を革新したインターネットという技術が、物流を革新し、製造を革新し、CO2削減を加速する。あるいは人材不足対応のためのデジタル化が、品質向上や生産性向上、災害時のBCP対策をもたらした事例もある。1つの発明が新たな必要をいくつも生み出すことが、カーボンニュートラルという道徳を経済化する。2050年に向けて、そういう視点がこれからの企業に求められている。