若者が働きたくなる町工場 日本ツクリダスがリードする製造業のDXとブランディング強化
堺市発のイノベーションを創出するスタートアップ起業家連続インタビュー第4回
提供: NAKAMOZUイノベーションコア創出コンソーシアム、堺市
ツクリダス自身の改革が町工場の意識を変える
既存の生産管理システムの課題として、機能が豊富すぎることやデータ登録が煩雑なこと、コストがかさむことなどがよく挙げられる。「エムネットくらうど」は自社で町工場を運営しているツクリダスだからこそ理解していた町工場の課題を解決するシステムであり、コストを抑えて販売すれば事業の第2の柱とできると期待されていた。
しかし実際に営業活動を行ってみてもなかなか導入に至らない。そこにはシステムの良し悪し以前の課題があった。
「(生産管理システムを導入すると)売り上げも上がるし効率化もできるが、町工場から見ると生産管理とはお金を生まないものというイメージがある。システムを入れたところでモノが売れるわけでもない。なんでお金をそんなことに使うのかという意識をみんな持っていた。
例えば仕事をするのに工具がなかったら納めるべきものが作れない。だから工具は絶対すぐ欲しい。でも生産管理システムは明日なくても何とかなる。工作機械が動いている間はお金が入ってくる。だから効率化してもっと売り上げ向上といったところになかなか行きつかない」(角野氏)
町工場では社員数も少なく、1人が多くの仕事を抱えているため、業務の属人化が進んでしまうことがある。60代70代の経営者は「昔ながらのやり方」にこだわることが少なくなかったが、代替わりをした30代40代の若手経営者の多くは効率化の課題に危機感を抱いている。属人化を解消し、業務の見える化を実現する「エムネットくらうど」は外販開始から2年という時間はかかったものの、そのような若手経営者を中心に徐々に町工場に受け入れられていき、2021年には導入企業100社を達成した。
町工場はマーケティング施策など、外部へのアピールが足りていないことが多い。それを角野氏は父親が経営していた町工場での勤務経験を通じて実感していた。例えば当時その会社では取引先1社と密度の濃い関係を築いていたが、そこにWebを活用した集客を導入し、取引先を100社に拡大することに成功している。
その後、独立してツクリダスを創業した後もネット集客をベースにした事業を展開しており、取引先は400社を超えるまでに成長してきている。同社がネット集客に成功した実績を聞きつけて、ホームページ制作やロゴ、名刺などコーポレートデザインに関連した業務を委託したいという町工場が現れるようになった。ツクリダスの事業の第3の柱となっているデザイン事業も、「エムネットくらうど」と同様に自社で成功した事例の横展開から生まれてきた。
「我々自身がやったことを『それいいよね』といってもらって、ウチもやりたいけどどうしたらいいのという相談から始まった。だから我々の会社そのものが我々のビジネスで使う営業サンプルとなっている。それを見た上で、興味があるからやってみたいというステップでビジネスにつながっていった。
全然見えないところから拡げていくのではなくて私たち自身をサンプルとして見てもらっている。だから自信を持って「これいいですよ」と訴えていけるし、お客さんの側から興味を持って聞いてくれる」(角野氏)
製造業には3Kと呼ばれるネガティブなイメージが付きまとうが、鮮やかなブルーに統一された社屋や、若い社員が明るく業務に取り組む様子を取り上げている同社ホームページは、日本の製造業全体のブランディングにも一役買っていると言えるだろう。
「ホームページを求人のためにデザインしていて、社員を大勢出している。そういう社員が次の人を呼んでくるという循環が回り始めている。おかげさまで弊社は割とうまく採用活動をやれていて常に人を獲れる」(角野氏)
旧来の町工場の経営者も、属人化を配した生産管理システムの開発・販売や、Webを活用した製造業のブランディングまでであれば無視できるかもしれない。しかしその結果が最大の懸案事項である人手不足に及ぶとなると放置はできないだろう。町工場が生き残るためには意識改革が必須。ツクリダスは自社の実績でそれを証明し続けている。