次世代の半導体材料GaNを
シリコンウェハーやCMOSと混在させる
次は、GaN-on-Siに関するものである。GaN(窒化ガリウム)は、最近では電源アダプターなどに使われ、小型なのに出力が大きく効率が良いとけっこう持てはやされているのでご存じの方も多いだろう。
もともとGaNは通常のCMOSデバイスに比べ、熱伝導性が高い(放熱効果が良い)うえに、高温でも安定して動作、電子の飽和速度(要するに電子移動の最高速)が大きく、かつ絶縁破壊電圧が高いといった特徴があり、飽和速度の高さでワイヤレスなどのRF部に、絶縁破壊電圧の高さからは電源素子にそれぞれ利用される。
ちなみに飽和速度が大きいというのはスイッチング電源の動作周波数を上げやすい=効率を高めやすい、というのが昨今ACアダプターなどでGaNが利用される理由の1つでもある。
さてそんなGaN、現状では通常のCMOSと異なるGaN専用のウェハーを利用するのが一般的だが、これでは通常のCMOSデバイスと混在させられない。GaNウェハー上にロジックを構築する試みもいくつかある。これに果敢にチャレンジしていたのが、ルネサスエレクトロニクスが買収した英Dialog Semiconductorだった。
一方、通常のシリコンウェハー上にGaNを構築する研究も当然盛んである。35.1はそうした試みであり、300mmの通常のシリコンウェハー上にGaNトランジスタを構築するものだ。
用途は2つあり、1つはRF回路用。もう1つがパワーマネジメントである。これがうまくいけば、チップの中にDC-DCコンバーターを組み込むことも夢ではなく、さらにプロセッサーへの電力供給効率も引き上げられる。
またRF回路が実装できれば、例えばミリ波帯のトランシーバーをプロセッサーに組み込めることになる。現在Sub 6GHz帯まではCMOSチップに統合可能になっているが、さすがにミリ波帯は別チップとなる。
もともとインテルはGaN-on-Siはずっと研究しており、昨年もSi(111)ウェハー上にGaNトランジスタを構築したり、これとCMOSを組み合わせたりしている。
2021年にはfT(スレッショルド周波数)300GHz/fMax(カットオフ周波数)400MHzのトランジスタなどを試作して発表している。
今回のIEDMでの発表はこの延長にあるもので、電源用ではFOMを20倍改善し、40Vまでの動作が可能になったとしており、一方RF用ではfT 130GHz/fMax 680GHzというトランジスタを試作したとする。
ちなみに論文によれば、電源側のトランジスタは40V駆動で10年間の寿命があるとされており、例えばCPUに直接12Vを突っ込んで、CPU上でこれを電圧変換するなんてことも技術的には可能になったことになる。
また680GHzと言えばもう車載用レーダーですらお釣りがくるほどで、6Gワイヤレス(3GPP Release-19~21のどれかになりそうなので、時期的には2024~2027年あたり、普及は2029~2030年ごろ?)で要求されると見られる衛星通信(なにせ高度1万kmでの接続が入っている)にも十分対応できるスペックである。
あくまでもこれは研究段階で、なによりSi(111)ウェハーを使っている時点で現在の量産プロセスとは互換性がないので、まだまだ研究は必要である。
この連載の記事
-
第803回
PC
トランジスタの当面の目標は電圧を0.3V未満に抑えつつ動作効率を5倍以上に引き上げること IEDM 2024レポート -
第802回
PC
16年間に渡り不可欠な存在であったISA Bus 消え去ったI/F史 -
第801回
PC
光インターコネクトで信号伝送の高速化を狙うインテル Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第800回
PC
プロセッサーから直接イーサネット信号を出せるBroadcomのCPO Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第799回
PC
世界最速に躍り出たスパコンEl Capitanはどうやって性能を改善したのか? 周波数は変えずにあるものを落とす -
第798回
PC
日本が開発したAIプロセッサーMN-Core 2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第797回
PC
わずか2年で完成させた韓国FuriosaAIのAIアクセラレーターRNGD Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第796回
PC
Metaが自社開発したAI推論用アクセラレーターMTIA v2 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU -
第795回
デジタル
AI性能を引き上げるInstinct MI325XとPensando Salina 400/Pollara 400がサーバーにインパクトをもたらす AMD CPUロードマップ -
第794回
デジタル
第5世代EPYCはMRDIMMをサポートしている? AMD CPUロードマップ -
第793回
PC
5nmの限界に早くもたどり着いてしまったWSE-3 Hot Chips 2024で注目を浴びたオモシロCPU - この連載の一覧へ