12月4日~8日にかけて、サンフランシスコでIEDM 2022(正式名称は2022 IEEE International Electron Devices Meeting)が開催された。サンフランシスコで、と書くことからわかるようにこちらはリアルイベントであるが、オンラインの形でも12月12日から内容が公開されている。
このIEDM、ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)やVLSI Symposiumなどと並んで、主に半導体のデバイスそのものに関する重要な学会となっている。
当然ここでは多くの半導体関係企業や研究所、大学などからの発表が行なわれているわけだが、インテルも例に漏れずここで多数の発表をしている。なにしろ合計で11本の講演を行なっており、うち3つは招待講演である。今回はこのIEDMにおけるインテルの発表内容を解説したい。
ちなみに5日間ものイベントではあるが、初日はチュートリアルセッションで、合計6本のチュートリアルが開催される。チュートリアル、といってもまったくの素人ではなく、半導体にはそれなりに知識があるが、その分野には明るくないという人のためのセッションなので、初心者向けでは全然なかったりする。
翌日はShort Courseと呼ばれる、8時間半にもおよぶ「全然Shortではない」特定分野向け集中講座が2本実施される。今年で言えばShort Course 1が“High-Performance Technologies for Datacenter and Graphics to enable Zetta Scale Computing”、Course 2が“Next-Generation High-Speed Memory for AI and High Performance Compute”となっている。
3日目からがいよいよ本番で、まずPlenary講演が3本(それぞれ45分)行なわれたあと、5日目まで最大で同時8セッションが並行開催される形で実施される。そんなわけでリアルイベントに参加しても、実は全セッションに参加するのは物理的に不可能である。それもあってオフラインの形で後から全セッションの内容を確認できるのは便利である。
Foveros Directを2023年後半に出荷
それはともかくとして、そのPlenary講演の最初に行なわれたのが、Ann Kelleher博士(EVP&GM, Technology Development)による“Celebrating 75 Years of the Transistor”という講演である。
内容はこれまでのトランジスタの発展を振り返りながら、今後もますますトランジスタの高密度化が進んでいくこと、その際の設計技法として従来のDTCO(Design-Technology Co-Optimization)からSTCO(System-Technology Co-Optimization)に切り替わりつつあること、また単にトランジスタの構造だけでなくインターコネクトや素材、メモリー素子などでも進化が必要であり、このためには新素材とか新しい露光技術、システム分割の方式、信頼性確保、製造/パッケージングやソフトウェアなど多岐に渡る分野での革新が必要で、このためには人材がさらに必要となる、と述べている。
Kelleher博士の講演はわりと高いレベルの話で、あまり技術的に細かい話は出てこなかったのだが、3つほどご紹介したいスライドがある。先にSTCOという言葉が出てきたが、その実例として出てきたのがPonte Vecchioだった。
単に機能分割するだけだと、プロセス的に必ずしも合理的に分割できるとは限らない。ましてやPonte Vecchioの場合、異なるプロセスで製造したタイルを組み合わせることになるので、その設計は通常のモノリシックな製品に比べると猛烈に難しくなる。それであってもモノリシックな構成ではPonte Vecchioは構築不可能であり、これを実現できたのはSTCOのお蔭というわけだ。
また同社のプロセスについても言及があった。一番アレなのは、すでにIntel 4がManufacturing Readyとされたことだろう。ただしHVM(High Volume Manufacturing)扱いにはなっていないあたりは、まだサンプル出荷のレベルに留まっていると判断すべきだろう。
これに続き、2023年後半にはIntel 3の量産準備が、2024年前半にはIntel 20A、後半にはIntel 18Aの量産準備が整うとされている。
しかしこうなると、インテルのデータセンター向け製品の詰まり具合がヤバいことになる。下の画像は今年の2月に行われたInvestor Meetingのものだが、なにしろ現時点でもまだSapphire Rapidsが出荷開始されていないわけで、つまり2023年にSapphire Rapidsが出てそこから半年かそこらで今度はEmerald Rapidsが出る、という予定に切り替わるわけだ。
そして2つ前の画像のロードマップがそのまま行くのであれば、そのEmerald Rapidsの出荷と同じころにGranite RapidsとSierra Forestの生産(製品の量産は難しいだろう。おそらく検証用のシリコンの量産がスタートといったあたりだろう)し、ここで問題がなければ2024年に両製品の本格量産が始まる、というのが現時点での見通しに基づく現実的(?)なスケジュールかと思う。
しかし実績があるはずのIntel 7を使ったSapphire Rapidsがこれだけ遅れている現状、新プロセスとなるGranite Rapidsがどこまで順調に進むのか不安しか感じないのが正直なところである。
話をKelleher博士の講演に戻すと、Foveros Directを2023年後半に利用可能にすることと、2025年までの範囲でPluggable Opticsのソリューションを提供する予定であることが公開されたのが今回新しく発表された事柄となる。

この連載の記事
- 第712回 推論をわずか20mWで実行するエッジAIチップ「ERGO」 AIプロセッサーの昨今
- 第711回 Teslaの自動運転に欠かせない車載AI「FSD」 AIプロセッサーの昨今
- 第710回 Rialto BridgeとLancaster Soundが開発中止へ インテル CPUロードマップ
- 第709回 電気自動車のTeslaが手掛ける自動運転用システムDojo AIプロセッサーの昨今
- 第708回 Doomの自動プレイが可能になったNDP200 AIプロセッサーの昨今
- 第707回 Xeon W-3400/W-2400シリーズはワークステーション市場を奪い返せるか? インテル CPUロードマップ
- 第706回 なぜかRISC-Vに傾倒するTenstorrent AIプロセッサーの昨今
- 第705回 メモリーに演算ユニットを内蔵した新興企業のEnCharge AI AIプロセッサーの昨今
- 第704回 自動運転に必要な車載チップを開発するフランスのVSORA AIプロセッサーの昨今
- 第703回 音声にターゲットを絞ったSyntiant AIプロセッサーの昨今
- 第702回 計52製品を発表したSapphire Rapidsの内部構造に新情報 インテル CPUロードマップ
- この連載の一覧へ