CTOが解説、SAP Buildをアプリ開発に採用する全米ホッケーリーグ(NHL)も登壇
SAP TechEd 2022で発表されたローコード開発ツール「SAP Build」とは?
2022年11月21日 07時00分更新
SAPが2022年11月15日、16日の2日間、米ラスベガスで開発者向けイベント「SAP TechEd 2022」を開催した。初日の基調講演ではエグゼクティブボード兼CTOのユルゲン・ミュラー氏が登壇し、1時間半にわたって統合ビジネステクノロジープラットフォーム「SAP Business Technology Platform(SAP BTP)」の新機能を紹介した。
SAP AppGyver、SAP Process Automationなどを統合した「SAP Build」
SAP BTPはSAPが2021年1月に発表したプラットフォームで、SAPアプリケーションの拡張、アプリケーション開発、SAP/非SAPアプリケーションの統合、データ分析などの機能を備える。
「顧客、そして我々もアプリケーション開発で同じ課題を抱えていたことから、BTPを開発した。(BTPにより)コアをクリーンにし、自動化、統合、アナリティクス、AIなどを提供できる」とミュラー氏は説明する。現在では世界トップ100社中3分の2を含む、1万5000以上の顧客がBTPを使っているとのこと。
今年のTechEdにおけるBTP強化発表のメインは「開発」領域である。BTPは、2021年に発表した「SAP AppGyver(アップガイバー)」などのローコード/ノーコード、ABAP/Javaなどのプロコードの両方の開発スタイルをサポートするが、ローコード/ノーコード開発はDX推進ニーズと開発者不足を背景にベンダー各社が強化している分野だ。
ミュラー氏は「IDCは2025年までに400万人の開発者が不足すると予想している」と述べたうえで、その問題を解決するためには「ビジネスを最も理解している人の専門知識を解放する必要がある」と説明する。
ここでSAPが提案する回答が、これまでのローコード/ノーコードの取り組みを統合した「SAP Build」となる。
SAP Buildは、RPAなどプロセス自動化の「SAP Process Automation」の後継となる「SAP Build Process Automation」、AppGyverの後継「SAP Build Apps」、SAP WorkZoneの後継でポータルサイトを構築できる「SAP Build Work Zone」の3ソリューションで構成される。
Build.me、AppGyverなど、それまでバラバラだった製品を統一した開発環境にまとめ、共通のプロジェクトレジストリ、アーティファクトリポジトリを用意する。BTPの接続サービス“Destination”を共有したり、アプリ内のコンテンツストアにアクセスしてサービスを登録/検索できる。ミュラー氏が誇るのは、すでに1300以上のワークフローや自動化が用意されていること。
さらに、IT側が「SAP Business Application Studio」で作成したコードを、ビジネスユーザーがSAP Buildで利用するなど、ITとビジネスのコラボレーションも促進するという。
サステナビリティの取り組みでSAP Buildを利用するNHL
SAP Buildの採用事例として、ミュラー氏が紹介したのが全米ホッケーリーグ(NHL)だ。NHLは2015年にSAPと提携し、競技、ファンエンゲージメント、運営などでSAPの技術を利用している。また現在、NHLはサステナビリティの取り組み「NHL Greens」を進めており、ここでSAP Buildを利用することにした。
アイスホッケーは氷上でプレイするスポーツのため、大量の水やリンクの温度を保つための電力などを使う。そこで、まずはアリーナの運営が環境への影響を測定することからスタートした。加盟する32チームに対し、アリーナの運営が環境に与える影響を追跡、測定、洞察を得られるように、SAPと「NHL Venue Metrics」を開発した。技術としては、SAP BTPを土台に、SAP HANA Cloud、SAP Analytics Cloudなどを利用する。
このアプリではエネルギー消費、廃棄物などさまざまなデータを収集するが、水や電気などの公益料金の請求書に含まれるデータが多数ある。そこで、ユーザーが請求書の写真を撮り、入力を自動化するアプリをSAP Build Appsで開発した。それでも埋まらないデータは手入力しているという。
データ入力の後に担当者が承認するプロセスがあるが、ここでは「SAP Build Process Automation」を使って、承認プロセスを自動化するフローを作成した。レビューに必要なデータが揃うと、担当者にルーティングされ、担当者が承認すると、データがNHL Venue Metricsアプリに自動的に反映されるというものだ。
データ収集、データ承認の後は、データインサイトダッシュボードで各チームの取り組みを可視化し、洞察を得られるようにした。ここでは、SAP Build Workzoneを用いた。
NHLでサステナブルインフラストラクチャとグロースイニシアティブを担当するバイスプレジデントのオマー・ミッチェル(Omar Mitchell)氏は、「リーグ間でベストプラクティスについての洞察をえて共有する必要がある」と述べる。他のチームの取り組みと比較できることで、自チームの位置がわかる。
ミッチェル氏は、「サステナビリティはイノベーションと同じ。継続的にビジネスを改善、最適化するが、そこでは高度なテクノロジーを利用する必要も出てくる。ビジネスユーザーが高度なテクノロジーを使えるようにすることで、事業目標を高速に達成できる」と話した。
サステナビリティとイノベーションの例として、LEDの採用がある。電力消費を20~30%改善できただけでなく、LED照明により放送の画質も改善し、ファンがパックを追いやすくなったという。
Appleが語るSAP BTPのメリット
SAP Buildは、既存の製品を集めてBTP上に統合しただけではない。新しい機能も導入されている。
その一例としてミュラー氏が紹介したのは、SAP Build Process Automatioinにおけるプロセスマイニング「SAP Signavio」の統合だ。Signavioが135以上の事前統合ずみの自動化をレコメンドするようになり、プロセス自動化の構築を効率化できるという。SAP Build Process Automatioinでは、ワークフローを自動でトリガーする機能も加わった。
プロコード側では、アップデートを進めているSAPの開発言語、ABAPにおいて、S/4 HANA Cloud(SAP S/4 HANA Cloud, Public Editionと同Private Edition)とオンプレ向けS/4 HANAで利用できる「ABAP Cloud」を発表した。
S/4 HANA CloudのABAP開発環境となる「Embedded Steampunk」をS/4 HANA Cloudの両エディションとオンプレミスで使えるようにするもので、クラウド対応のABAP拡張を直接S/4 HANAスタックに統合できる。
これにより、パブリックのSAP APIを利用してS/4 HANAのデータや機能にアクセスしたり、「ABAP Development Tools」、RESTfulアプリケーションプログラミングモデルを利用できるという。
iOS向けにネイティブアプリを開発できる「SAP BTP SDK for iOS」もアップデートし、ウィジェット機能を拡張するWidget Extensions、オンザフライでのテーマ適用などの機能が加わった。
Apple自身もBTPを採用している。ビデオで登場したAppleのエンタープライズシステム担当シニアディレクター、スコット・ホークス(Scott Hawks)氏は、「SAPはサプライチェーン、オペレーションなどAppleの必須の部分を支えている」と話しながら、Apple Storeでスタッフが利用するリモートデバイス設定、ピックアップとデリバリー、在庫管理などのアプリがBTP上で動いていると述べた。
「SAP BTP SDK for iOSは、カメラ、センサー、オンデバイスの機械学習といったiPhoneやiPadのハードウェア機能を簡単に活用できる。安全なトランザクション、役割ベースのデータアクセス、オフラインのデータ同期などエンタープライズレベルの機能を持つアプリを用意に構築できる」とホークス氏。
Appleの開発チームでは、自社のSwift UIとBTP/HANA Cloudにより、開発の効率が40%改善し、開発・実装を最短6週間で可能になっているとのこと。「顧客に新しい方法でサービスを提供できる」と述べた。
最後にミュラー氏は、50年前にハッソ・プラットナー(Hasso Plattner)氏らが創業時に掲げた“企業を支えるのは人とプロセス”という信念はいまだに変わっていない、と開発者に伝える。
「我々は“10年に一度のチャンス”を迎えている。SAPの技術を使って違いを生み、将来に向けて企業を進めることができる」とミュラー氏、技術に関わることの全ての土台がSAP BTPであり、ここでの革新を続けていくと約束した。