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日本企業は競争力回復に向け“Fit to Standard”型への業務変革を――鈴木社長が語る

SAPジャパンの2023年戦略「パブリッククラウド版S/4HANAに最も注力」

2023年02月15日 07時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 SAPジャパンは2023年2月14日、2023年の事業戦略説明会を開催した。同社 社長の鈴木洋史氏は、業績好調な「S/4HANA Cloud」などのクラウドビジネスをさらに推進していく戦略を紹介したうえで、「今年はパブリッククラウド版のS/4HANAに最も注力する」と語った。そこには日本企業の競争力や生産性を回復させるための「想い」もあるという。

2023年は特にパブリッククラウド版(SaaS)の「SAP S/4HANA Cloud(Public Edition)」の展開に注力していくと説明した

SAPジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史氏

ビジネス好調な「S/4HANA Cloud」、今年はSaaS版の展開に注力

 鈴木氏はまず昨年(2022年)の業績について説明した。SAPグローバルの総売上は前年比11%増で、中でも同社が注力しているクラウドビジネスの売上は33%増と好調だった。今後1年間の売上の先行指標となるカレントクラウドバックログ(CCB)も27%増となっている。ちなみに、S/4HANA Cloudのみで見ると売上は91%増、CCBも86%増と非常に好調だ。

 日本市場(SAPジャパン)単独の業績は公表していないが、オンプレミスのソフトウェア売上が想定どおり減少した一方で、クラウドビジネスについては「グローバルと同様に2022年第4四半期、2022年通年とも大変好調だった」と鈴木氏は説明した。総売上としては前年比1%の増加。

2022年のSAPグローバルの業績。S/4HANA Cloudが牽引してクラウドビジネスは好調

 顧客企業が抱える課題と、それに対するSAPの戦略については昨年と大きく変わらない。市場環境の大きな変化に即応できる「ビジネスの俊敏性」、地政学的変化なども起きる中でさらに重要性が高まる「サプライチェーンの堅牢性」、そして「サステナビリティ経営支援」といった企業課題への取り組みを支援していく戦略である。

 「クラウドビジネスへの注力」という大きな方向性も昨年と同様だ。クラウドERPのS/4HANA Cloudを中心に据え、アプリケーションの拡張/カスタマイズを可能にする「Business Technology Platform(BTP)」を介してほかの業務クラウドやソリューションと密接に連携させることで、DXを加速させていく。S/4HANA Cloudの導入による企業のビジネス変革を伴走型で支援する「RISE with SAP」も「昨年は好調だった」と鈴木氏は語る。

S/4HANA Cloudを中心に据え、BTPを介して他の業務クラウドやソリューションと連携させることで、ビジネスプロセスをエンドトゥエンドでカバーする

 クラウドビジネスの中でも、鈴木氏が今年、最も注力していくと述べたのが「S/4HANA Cloud(Public Edition)」だ。これは昨年10月に国内提供を開始した、パブリッククラウド型のERP製品だ。SaaS型のERPではあるが、BTPと連携しているため顧客要件に応じたカスタマイズ、パートナーテンプレートの利用なども可能だ。

 鈴木氏は、このパブリッククラウド版S/4HANA Cloudでは、SAPが提供するグローバル標準の業務プロセス(ベストプラクティス)に合わせて業務を導入する“Fit to Standard”手法を積極的に取り入れることで、シンプルなERPの導入と活用が実現すると説明する。

 「クラウドERPの導入で、オンプレミスシステムで費やしている多額の運用コストを削減し、代わりに新規投資にフォーカスできる。イノベーションを推進するためには、短期間で導入し、利用開始できるSaaS型のパブリッククラウド版ERPが非常に重要だと考えている」

 原則的には“Fit to Standard”で導入し、細かな使い勝手の部分などをBTPやローコード開発ツールの「SAP Build」などで調整する、その両方がうまく組み合わせられるようになったのが現在のS/4HANAだと、鈴木氏は説明する。

 パブリッククラウド版S/4HANAの提供開始以降、日本では中堅中小企業や大企業の子会社などを中心に新規導入、新規再構築(グリーンフィールド)での引き合いが増えてきているという。たとえば日立ハイテクでは、日本本社ではプライベートクラウド版、海外グループ会社ではパブリッククラウド版を採用し、BTPをデータハブとしてそれらを連携させている。また海外市場では、大規模なプロジェクトにおいてもパブリッククラウド版の採用が増えていることを紹介した。

 現在では、9割近くの顧客がオンプレミス版ではなくクラウド版(プライベート/パブリック)のS/4HANAを選択するようになっているという。パブリッククラウド版は提供開始から日が浅いこともあり、まだプライベートクラウド版の導入がほとんどだが、「今後はパブリッククラウド版とプライベートクラウド版が半分ずつ、という状況を目指して活動していきたい」と語った。

クラウドビジネス拡充に合わせて社内組織、パートナー施策も変化

 こうしたクラウドビジネス強化の方針に基づいて、社内組織の変更や新たなプログラムの提供、パートナーエコシステムの拡充なども行っているという。

 「2023年は『クラウド化の実践の年』と位置づけている。SAPがクラウドカンパニーになるということは、お客様の変革のジャーニー(道のり)にずっと寄り添い、経営価値を実現するところまでしっかりと支援していくことだと考えている」「お客様に相対する営業、コンサルティング、ポストセールスなど全てのメンバーが、お客様がSAPの製品/サービスをどのように導入し、それがどのようなかたちで価値を生み出すのかを理解して、全力で伴走していく」

 まずSAPジャパン社内では、クラウド専門の担当者である「Customer Success Partner(CSP)」部門を昨年新たに立ち上げた。このCSPが、顧客企業におけるビジネス変革のジャーニー全体に伴走していくかたちで、導入準備段階から運用保守までさまざまな段階に対応するサービスをサブスクリプションベースで提供する。今年は引き続きサービスを拡充させていく方針だ。

顧客企業の変革の道のりを伴走型でサポートする組織を構成

 パートナーエコシステムについても、クラウドビジネスの拡大を前提とした強化策を展開していく。すでに昨年には、パートナーとのクラウドビジネスが76%増と大きく拡大し、パブリッククラウド版S/4HANAの認定コンサルタントも50%増加したという。

 パートナーエコシステム拡大については、昨年スタートした中堅中小企業向けの「100%間接販売」モデルの継続、パブリッククラウド版S/4HANAを中心とした新たなパートナーの獲得、既存のSAP技術者のリスキリング/トレーニング強化、地方で展開する「でじたる女子」など新たな領域からの人材確保、パートナー間でのビジネスマッチングなど、全方位的に施策を展開していく。

 また鈴木氏は、パートナー各社がそれぞれ持つ「強み」を生かした顧客企業への伴走モデルも確立していきたいと語る。パートナー内にも継続的な顧客支援を行う専任担当が必要になるため、その体制づくりや活動を支援するプログラムを拡充する。さらにパートナー独自のソリューションについても、「SAP Industry Cloud」のSAPストアからの販売を拡大したいと述べた。ちなみに現在、日本の30社がこの仕組みでソリューション販売を行っており、昨年は売上を84%増加させたという。

 最後の「サステナビリティ」に関しては、気候変動対応、循環型経済対応、社会的責任対応、総合的な意思決定/レポーティングの各領域において、SAP自身の実践とソリューション提供の両面で取り組みを推進していることを紹介した。

「パートナーエコシステム拡大」「サステナビリティ経営支援」の具体的な取り組み成果、方針

仕事のやり方をグローバル標準に合わせることが競争力回復の近道

 鈴木氏は最後に、SAPジャパンが「企業の変革推進パートナー」を目指すうえで、そこにかける自身の「想い」を語りたいと述べた。そこで率直に述べられたのは、日本の競争力低迷、生産性低迷に対する危機感と、日本企業でSAPのカスタマイズ導入が続けられてきたことへの反省、そして日本企業の業務プロセスを“Fit to Standard”型に強く変革していく必要性だった。

 「SAPジャパンは今年、31年目を迎えた。日本のお客様には、30年以上にわたってSAPを導入していただいてきたことになる。しかし(当初は)SAP導入を『業務変革』と位置づけて『業務をグローバル標準の形にしたい』『シンプルにしたい』と導入を進めたものの、結果的に多くの企業では自分たちの仕事のやり方を変えられず、『自分たちの仕事のやり方に合わせてSAPを入れる』というかたちでどんどんアドオンを開発し、ガチガチのかたちで運用されている」

 鈴木氏は過去の経緯をこうまとめたうえで、国際競争力の低い状況を打開するためには、日本企業が「自分たちの仕事のやり方を、世界標準のベストプラクティスに合わせて変えられるか否かにかかっている」と強調した。これが今年、SAPジャパンとしてパブリッククラウド型のS/4HANA Cloudを強く推進する方針を掲げた理由でもあるという。

 そうした日本企業の変革を「現場から」推進していく次世代のリーダーを育成するために、2021年から無償の「COO養成塾」を開催し、SAP自身が10年間行ってきた変革の経験やノウハウ、推進体制づくり、成功のためのポイントなどを伝えているという。これまでに35名の変革リーダーが卒業しており、自社の社長直下で全社的な変革プログラムを立ち上げた卒業生もいるという。

 「SAPの導入という大きな投資を決めていただいたからには、プロジェクトを着実に成功させて期待以上の効果を出していただきたい。そのためにSAPジャパンは全員一丸となって伴走し、支援をしていくが、やはり大事なのはお客様自身の変革推進力だ。経営トップはもちろん、実際に現場で推進していかれる方の力も非常に大事だと考えている」

企業変革の現場リーダー育成を目指した「COO養成塾」も開催している

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