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「SAP Business Technology Platform(BTP)」が可能にするものとは

SAPの担当幹部に聞く、BTPの役割とローコード/ノーコード戦略

2022年06月01日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 SAPが「S/4 HANA」を通じた顧客のクラウド移行を促すうえで、重要な鍵を握るのが「SAP Business Technology Platform(BTP)」だ。「BTPはSAPアプリケーションを拡張可能にするプラットフォームであり、SAPに対する投資効果を最大化できる」と説明するのは、SAPのAI&アプリケーション開発担当 SVPを務めるサンドゥ・バラット氏である。

 2022年5月に同社が開催した年次イベント「SAP Sapphire 2022」の会場で、バラット氏にBTPの最新情報を聞いた。

SAP シニア・バイス・プレジデント, AI&アプリケーション開発担当のサンドゥ・バラット(Sabdhu Bharat)氏

――SAPでは「S/4 HANA」や「RISE with SAP」において、BTPを重要な技術と位置付けています。BTPの役割について教えてください。

バラット氏:BTPは「SAP HANA Database」「SAP Data Warehous」などの既存技術を含むものだが、既存技術を再パッケージしたのではなく、S/4 HANAシステムと接続するプラットフォームとして新たに構築したものだ。クラウドに移行するにあたっては、クラウドアプリケーションを拡張できるクラウドプラットフォームが必要に。プラットフォームがあることで、さまざまな機能をモジュラーとして再利用できる。

 BTPの役割は顧客によるSAPへの投資効果を最大化すること。具体的には、4つの能力を提供する。

 まずは「SAPアプリケーションの拡張とアプリ開発」だ。SAP自身もSAPアプリケーションの拡張のためにBTPを利用しているが、同じように顧客もBTPを使ってアプリケーションをカスタマイズできる。

 SAPがSaaSとして提供する業務アプリケーションは、顧客のユースケースのうち典型的な80%をカバーする。そして残る20%のユースケースは、BTPを使ってカバーできるというわけだ。

 さらに「統合」の能力も持つ。たとえば導入したS/4 HANAをSAPやサードパーティのCRMと統合したい場合に、BTPを使って統合することができる。そうしてサプライチェーンとECを統合することで、EC側で生じた変化にサプライチェーン側が対応できるようになる。

 そのほかに「アプリケーションに関するデータアナリティクス、プランニング」といった能力もある。

 このように、BTPを利用することでSAPソリューションと他社ソリューションを統合したり、ソリューション間のギャップを埋めたりすることが可能になる。またSAPデータ上でクイックにアプリケーションを構築することができ、データを分析して理解を深めることを可能にする。

 こうした役割に加えて、BTPはさらに2つの特徴を備える。

 まずは「コンテンツ」という、事前構築済みのテンプレートを提供していること。たとえば「S/4 HANAとWorkdayの接続」といった統合のコンテンツ、「インボイス処理の自動化」といったプロセス自動化のコンテンツがあり、顧客はそのまま利用できる。プロセス自動化のコンテンツだけで、すでに400以上のものを用意している。

 もう一つの特徴が、AWS、Azure、Google Cloud、Alibabaといったハイパースケーラーのクラウドで動くこと。顧客はどのパブリッククラウドで動かすかを選択して、その上でBTPを拡張していくことができる。もちろんSAP Cloudもサポートする。

――従来のオンプレミス環境ではなく、ハイパースケーラーのクラウドが“土台”になることは、SAPの開発チームにどのような影響を与えているのでしょうか?

バラット氏:「どのハイパースケーラーでも同じように動くようにする」というのは簡単な作業ではない。SAPは抽象化レイヤーを構築し、どのクラウドでも関係なくシームレスに動くようにしている。実は、すべてのクラウドに中立な態度をとるSaaSベンダーは少ないが、われわれはそれが価値のあることだと考えて、投資している。

――BTPではローコード/ノーコード開発をプッシュしています。この領域で最新の取り組みを教えてください。

バラット氏:プロコード用のツールも用意しているが、ローコード/ノーコードに投資する理由は、ビジネスユーザーがクイックに開発できることが重要だからだ。この分野で2021年にAppGyverを買収しており、現在では深いレベルでの統合を図っている。

 今回のSapphireでは、AppGyverを「SAP Service Cloud」に組み込み、ユーザーはSAP Service Cloudを拡張するインターフェイスを構築できる。またSAPアプリケーションのデータを容易にコンシュームできるように改善した。

 クラウドバックエンドの機能により、ドラッグ&ドロップでビジネスロジックを組み合わせながら、複雑なアプリケーションを開発できるようにする計画も発表した。

 また2月に発表した「SAP Process Automation」は、ノーコードでビジネスユーザーがワークフローとRPAを定義できるソリューションとなる。このソリューションが重要な理由として、企業にはまだレガシーシステムが動いており、ここと接続する必要がある。Process Automationでは「SAP Business Automation Studio」を用意しており、ビジネスユーザーと開発者とが協力してプロセス自動化を構築できる。

 このように、ガバナンスを保ちながらビジネスユーザーと開発者が協力して開発を行う“フュージョン開発(Fusion Development)”は、今後増えてくるだろう。今回は、SAP BTPの無料ティアでもSAP Business Automationが利用できるようにした。

――ローコード/ノーコードは各社が力を入れている分野です。SAPとして、ビジネスユーザーにはどのようにアプローチするのでしょうか?

バラット氏:SAPのビジネスユーザーをターゲットにしており、簡単に構築できるようにコンテンツを充実させている。新しく学ぶことなく開発できるように、これからも機能を拡充する。

 これはABAP(SAP開発のためのプログラミング言語)からのシフトでもある。ABAP開発もまだ活発だが、今後SAPが(ABAPでやったように)独自の言語やフレームワークを導入することはしない。

――AI領域では、どのような新機能が追加されたのでしょうか?

バラット氏:ビジネスプロセスにAIを組み込み、エンドツーエンドのビジネスプロセスを最適化する。Sapphireでは「Lead-to-Cash」「Design-to-Operate」「Recruit-to-Retire」「Source-to-Pay」という4つのビジネスプロセスを発表した。

 たとえばRecruit-to-Retireは、募集から退職までに及ぶ典型的な人事プロセスを支援するデジタルアシスタント機能を提供するものだ。Design-to-Operateでは、「S/4 HANA」顧客が過去の配送パターンから顧客やサプライヤーのコンテナ数をフォーキャストする機能などを提供する。これにより、出荷コストを最適化できる。

 SAPではすでにAI分野で130ものユースケースを用意しており、もちろん今後も拡充していく計画だ。

――SAPの顧客では、オンプレミス環境でSAPを利用する顧客がいまだに多数を占めます。クラウドでSAPを利用する顧客とのバランスをどのように取りながら、SAP自身の移行を進めるのでしょうか。

バラット氏:オンプレミスで稼働するERPをクラウドに移行するのは簡単な作業ではない。移行を促すために、われわれはクラウドにさらなるバリューを加えていく。たとえば現在の、AIやノーコード/ローコードへの投資もその一環だ。

 すでに複雑なERPを稼働させており、クラウドへの移行が難しいという顧客に対しては「RISE with SAP」も用意している。顧客企業が自社に最適なかたちで変革を進められるよう支援するものであり、発表から1年あまりで2000社以上が契約している。

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