今回のひとこと
「『やわらかいインフラ』の実現が、2023年度のシスコの重点戦略になる。ビジネスや環境の変化にあわせて、動的にインフラを拡張、運用でき、企業のIT環境に俊敏性、強靭性、高い生産性を実現することができる」
やわらかいインフラ
シスコシステムズ(シスコジャパン)は、新たなメッセージとして、「やわらかいインフラ」を掲げた。
「やわらかいインフラ」とは、ビジネスや環境の変化にあわせて、動的にインフラを拡張、運用できるインフラのことを指し、企業のIT環境に、俊敏性、強靭性、高い生産性を実現できるとする。
シスコジャパンのカスタマーエクスペリエンス部門の技術者たちが、社内用語として使ってきた言葉であり、これを対外的なメッセージとして発信することにした。
シスコシステムズの中川いち朗社長は、「『やわらかいインフラ』の実現が、2023年度のシスコの重点戦略になる」と宣言。また、シスコシステムズ カスタマーエクスペリエンス担当の望月敬介副社長は、「『やわらかいインフラ』を構成する要素は新しいものではないが、DXの世の中で、何が足りていないかを言い表した言葉である」と定義する。
裏を返せば、従来のITインフラは、「やわらかいインフラ」でなかったということになる。強いて言えば従来のITインフラは「かたいインフラ」だっということだ。
では、なにが、かたかったのか。
シスコシステムズの望月副社長は、最新のデジタル競争力ランキングにおいて、日本がさらに順位を落とし、29位となったことを例にあげ、次のように指摘する。
「日本のデジタル競争力は先進国では最低レベルとなっている。なかでも課題となっているのが、ビジネスのアジリティであり、アジリティの足かせになっているのが従来型のITインフラである」
シスコシステムズが、2022年7月に、日本の市場を対象に実施したDXに関する独自調査では、「サーバーやネットワークといった開発環境を、ニーズに応じて素早く提供できるIT基盤になっているか」という質問に対して、「クラウド基盤はすぐに提供できるが、ネットワークの設定は手動なので時間がかかる」と回答したソフトウェア開発者は29.1%に達し、「新たな開発環境の提供には数週間から数カ月かかる」との回答も19.7%を占め、あわせて半数近くのソフトウェア開発者が、ITインフラに課題があることを指摘している。
「従来のITインフラは、5年以上維持することを前提として、サーバーやネットワークをデザインしている。これは変化に弱く、アジリティの足かせになっている」と、望月副社長は指摘する。
コロナ禍において、社会環境と働き方が大きく変化し、ITインフラに求められる要素も変化しているが、それにITインフラが追随できていないことが、日本のデジタル競争力を下げる要因になっているというのが、シスコシステムズの見方だ。
仕事をする場所はオフィス中心から、オフィスとリモートのハイブリッドに変わり、仕事に使用するデバイスは会社支給のPC主体から、モバイルデバイスの活用が増え、BYODも増加している。データへ保管場所もオンプレミス中心から、クラウドとオンプレミスを組み合わせたハイブリッド環境となり、アプリケーションの開発サイクルは、3~5年というサイクルから、毎週、毎日、場合によって数時間でアップデートを行うといったことも起きている。また、セキュリティの考え方もファイヤーウォールのなかであれば安全という考え方から、社内であっても信用しないゼロトラストの考え方が前提となっている。
こうした変化に、日本の企業のITインフラは十分に対応できていないのが現状であり、これを「やわらかいインフラ」で打破していく必要があるというのが、2022年8月からスタートしたシスコシステムズの同社2023年度の提案になる。
米国での調査によると、やわらかいインフラに移行したことによって、従業員の生産性は13%向上し、新たな取り組みにあてられる時間は203%増加、収益は24%増加したという。また、ネットワークの運用費用は36%削減されるという成果もあがっている。
「『やわらかいインフラ』によって、生産性向上や収益増加といったビジネスパフォーマンスの改善、ネットワークの運用費用の削減など、ネットワークの効率化といった効果に加えて、セキュリティリスクの低減、イノベーションの加速、ビジネスアジリティの向上が実現でき、DXの足かせを取り払うことができる」と望月副社長は語る。
従来のITインフラに5つの要素を加える
シスコシステムズでは、従来のITインフラを、やわらかいインフラに移行させるために、コネクト、セキュア、オプィティマイズ、オートメイト、オブザーブの5つの要素を加える必要があるとする。
コネクト(ネットワーク)では、BYODやIoTデバイス、5G、エッジといったあらゆる接続ニーズに対応。セキュア(セキュリティ)では、複雑化するITシステムのなかで、セキュアなインフラ基盤の確立や、安全の確保に対応。オプティマイズ(最適化)では、アプリケーションやクラウドの構造が動的に変化することにあわせて、最適にチューニング。オートメイト(自動化)では、運用の自動化によって、省力化やオペレーションミスの低減を実現。そして、オブザーブ(監視)においては、可視化や自律運転を通じて、障害時の対応やビジネス変革のスピードに対応する。
望月副社長は、「既存ITインフラを『やわらかいインフラ』に移行するためには、カスタマサクセス(伴走型)モデルが必須になる2025年度までにすべての顧客に対して、ライフサイクル型伴走サポートを提供することを計画している」と述べる。
伴走型サポートを実現するために、カスタマーエクスペリエンス部門には、各業界に精通した約800人の社員を擁し、パートナーとともに、「やわらかいインフラ」への移行提案を進めるという。
「シスコは数々の買収によって、『やわらかいインフラ』を実現するためのテクノロジーや製品を準備してきた。自社製品でこれを提案できる競合企業はない。より多くのお客様に対して、『やわらかいインフラ』へとマイグレーションするための支援を行い、DXの加速に貢献したい」と述べる。
クラウド時代のDXプラットフォーム、日本企業のデジタル変革
一方、シスコシステムズでは、2022年度からスタートした3カ年の中期経営計画「Project Moonshot」を、2023年度からの新たな3カ年計画へと見直すことを発表した。
中川社長は、「市場の変化に機敏に対応するため」と、1年で計画を見直した理由を説明。新たに2023年度から2025年度までの「Project Moonshot」を打ち出すとともに、今後、毎年見直しを行うローリング方式へと移行する考えを示した。
2023年度は、日本におけるコミットメントとして、「信頼されるベンダーから、常に寄り添う戦略的ビジネスパートナーになる」ことを打ち出すとともに、2022年度の「Project Moonshot」で掲げた「日本企業のデジタル変革」、「日本社会のデジタイゼーション」、「営業/サービスモデル変革」、「パートナーとの価値共創」の4つの重点戦略を継続。さらに、「クラウド時代のDXプラットフォーム」に注力する姿勢を示した。
「クラウド時代のDXプラットフォーム」は、先に触れた「やわらかいクラウド」を実現する取り組みとなり、ネットワーク、セキュリティ、クラウド、コラボレーション、5Gの5つのテクノロジーで構成するDXプラットフォームを、2023年度にはクラウド型に進化。「シスコは、提供するインフラを、クラウド時代のDXプラットフォームにマイグレーションすることを目指す。クロスアーキテクチャーで利用してもらい、価値を高めることができるスイートソリューションとしてDXプラットフォームを提供していく」(シスコジャパンの中川社長)と述べる。
「日本企業のデジタル変革」では、IT部門だけでなく、経営企画部門、人事部門、事業部門に対しても働き方改革を支援してきたほか、中堅中小企業のDXにも注力していることを強調。「日本社会のデジタイゼーション」では、グローバルでの戦略的投資プログラムであるCDA(カントリーデジタイゼーション・アクセラレーション)を通じてカーボンニュートラル、デジタルソサエティ、デジタルヘルスケア分野にも投資を進めていることを示した。また、「営業/サービスモデル変革」においては、オンライン販売で扱う製品数が70品目に拡大し、販売実績が1.5倍に成長したことを報告。「パートナーとの価値共創」では、クラウドサービスを拡大し、各種マネージドサービスを提供。さらに、2022年7月には新たなパートナープログラムを発表し、GX(Green Transformation)やIoT、医療などの特定領域においてアプリケーションを持つパートナーとの協業も強化しているという。
日本法人の設立から30周年の節目に
シスコシステムズは、1992年5月22日に、日本シスコシステムズとして日本法人を設立してから、今年は30周年の節目を迎えている。
社員数は創立当初の8人から、1300人以上に、13社のパートナーは950社以上に拡大し、事業規模は約200倍に成長したという。
「日本法人を設立した1992年は、日本初の商用インターネットサービスが開始された年である。シスコシステムズの日本における歴史は、日本のインターネット発展の歴史そのものである。日本の働き方や生活の仕方、学び方、遊び方も変えてきた30年である。顧客やパートナーの成功がシスコの成功である」とし、「もはやシスコはインフラだけを提供する会社ではない、ビジネスを支援する会社になりたい。ビジネスをデジタルによって長期的に支援する。これが、これからの30年間を見据えたシスコのコミットメントである」と中川社長は語る。
シスコシステムズの次の30年に向けた一歩が始まった。
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