まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第78回
〈前編〉アニメの門DUO 数土直志さん(新潟国際アニメーション映画祭プログラムディレクター)に聞く
「アニメはまだ映画として見られていない」という現実を変えるための一手
2022年11月21日 15時00分更新
『千と千尋~』の受賞が世界で話題になった理由は
アニメは賞レースに挑戦すること自体できなかったから
数土 たとえば最近までカンヌ、ベルリン、ヴェネチア映画祭にアニメーションは入りませんでした。
『千と千尋の神隠し』がなぜ画期的で世界的に話題になったのかと言えば、もちろん日本のアニメというのもあったかもしれないけれど、ベルリンのオフィシャルコンペにアニメーションが出品されたのはたぶんあれが初だったと思うんですよ、間違っていたらごめんなさい。
けれども、グランプリは初です。つまり、アニメーションがベルリンのグランプリを獲った、ということに対する驚きで、たぶんそれは日本のアニメーションというよりもアニメーション業界の人にとってのサプライズだったと思うので、それが宮崎駿さんの名前を世界的に高めたのだと僕は思います。
まつもと 逆に言うと、それまでアニメはレースに挑戦すること自体できなかった。だから、千と千尋はノミネートからして想定外の事態だったと。
数土 アメリカのロサンゼルスで「Animation is Film」という映画祭が開催されているんです。ちょっと不思議な名前ですよね。でも、明らかにそこには彼らの主張があるわけです。つまり、「アニメーションは映画だよ」って言いたいわけです。それは、裏返せば「アニメーションはまだ映画として見られていない」というメッセージですよね。
これは日本の僕らが実写とアニメのあいだに溝があると感じているのと同じように、北米でもそれは感じられているということです。
まつもと 日本以上に、かもしれないですよね。海外では未だに「アニメは子どもが見るものである」という位置付けだったりするので。
そして、さらにこの問題をややこしくするのが、いわゆるアニメファンが真っ先にイメージする“アニメ”というのはTVアニメである、ということ。(オリジナルの)劇場アニメはここ数年で急速に人気が出てきて作品数も増えてきたジャンルであって、この2つには違いもあるじゃないですか。
このトピックについては藤津さんと「アニメにおいて評論は成立するのか?」という議論をさせていただいたときに、“TVアニメは無料で見られてしまうので、評論あるいは映画賞との相性があまり良くない”というような話をした記憶があります。
逆に劇場アニメはお金を払わないと見られないので、(消費者ではない者が)事前に評価をチェックするという文化があって、だからこそ評論・評価というものが成立している。この違いもあるので結構、根が深い。
TVアニメが評論しづらいのはなぜか?
数土 はい。ただ、両者の違いを語るとき、評論は批評するときに“監督主義”があることも大きいと思うんです。これは、作品にどのくらい監督が関与したのかということですが……やはりTVアニメは各話ごとに作監と演出がいて、その上に監督がいる体制なので、それを監督の作家性に戻すというのが批評あるいはアワードでの評価時にとても難しいような気が。
一方、作家性の強い監督の撮ったアニメーション映画だと、監督あるいはシナリオライターといった軸で評価しやすい。必ずしもそうじゃないんだけど、違いがあるような気がするんですよね。
まつもと TVアニメの場合は確かに監督が立っていても各話ごとの演出さんの影響が大きかったりしますからね。
数土 そう。だからTVアニメを評価するなら各話ごとの評価をしなければならない。けれど、評価できるほどたくさん見ている人ってそんなにいないじゃないですか。
まつもと 極めて難しいですね。このあいだ藤津さんが「20歳が観るべきアニメ38タイトルを選んでみた」という記事を発表されましたが、のちに“本当は各タイトルの話数まで示したかった”という旨をおっしゃってました。
数土 そうですよね。でもそれを求め出すと厳しいと思います。
まつもと データベースの整備も必要ですし。「誰がどのように関わったのか?」なども後から検証するのは非常に難しい。……ともかく、TVアニメと劇場アニメの違いとして“監督主義”というキーワードがあることがわかりました。
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