「SAP S/4HANA Cloud」最新版を販売開始、クラウド型導入の大幅増見込みパートナー拡充など図る
SAP「今後はパブリッククラウド版のS/4HANAが第一の選択肢」
2022年10月06日 07時00分更新
SAPジャパンは2022年10月4日、パブリッククラウド型のERP「SAP S/4HANA Cloud(Public Edition)」最新版を提供開始した。機能拡張手段の追加、製造業向け機能の拡充、システム運用保守性の向上といった強化点がある。
中でも今回は、開発言語のABAPを用いたカスタム機能の拡張が可能になっており、標準機能をベースとした“Fit to Standard”の導入を前提とするパブリッククラウド(SaaS)版でありながら、業種/顧客固有の要件にも柔軟に対応できるものとなっている。
記者発表会に出席したSAPジャパン バイスプレジデント RISEソリューション事業統括の稲垣利明氏は、SAPが昨年発表したサービスパッケージ「RISE with SAP」の中核をなすのがこのS/4HANA Cloudであり、「今後、新規に導入する顧客に対してはパブリッククラウド版を第一の選択肢として提案していく」と説明。同プロダクトの事業推進体制拡充やパートナーエコシステムの強化/拡大にも取り組む国内戦略を紹介した。
パブリッククラウド版S/4HANAを積極提案、大幅な伸びを予想
現在、S/4HANAにはオンプレミス型の「SAP S/4HANA」、プライベートクラウド型の「SAP S/4HANA Cloud(Private Edition)」、そして今回最新版をリリースしたパブリッククラウド型のSAP S/4HANA Cloud(Public Edition)がある。63カ国/39言語に対応したバージョンがあり、グローバルで2万社超(2022年7月現在)の顧客企業を持つ。
近年のSAPは、過去にオンプレミス導入されたERPのクラウド移行を積極的に推進してきた。その背景には、経産省のいわゆる“2025年の崖”レポートでも指摘されていたとおり、レガシーシステムの保守運用という重荷がDX推進の“足かせ”となっている現状がある。ERPをパブリッククラウドに移行して保守運用やアップグレードの作業負荷をアウトソース化/軽減することで、企業のIT部門やIT投資予算を“足かせ”から解放し、本来取り組むべきDX、ビジネストランスフォーメーションの推進に注力できるようにするのが狙いだ。
また、年2回の定期的なバージョンアップを通じて常に最新の機能を利用することができ、そのときどきの最新技術を用いた業務効率化が進められる点も、オンプレミス版と比較した場合のメリットとなる。
昨年発表したRISE with SAPにおいても、オンプレミスのS/4HANA顧客に対してはS/4HANA Cloudへの移行支援を行い、クラウドERP化を実現したうえで、そのデジタル資産を活用した企業のインテリジェント化を図るというロードマップを描いている。稲垣氏によると、SAPでは2021~2025年におけるクラウド売上の目標CAGR(年平均成長率)を24%とし、2025年には220億ユーロ(約3兆円)まで成長させることを目指している。
こうした背景をふまえて、稲垣氏は日本市場向けの戦略を紹介した。前述したとおり、まずは新規導入を考える顧客向けにパブリッククラウド型のS/4HANA Cloudを「第一の選択肢」として提案していく方針を掲げる。
「システムの軽量化(クラウド移行による運用負荷軽減)、Fit to Standardによりもたらされる将来の拡張性や柔軟性、俊敏性など、論理的に考えてパブリッククラウド版を提案させていただくのが、長い期間で見たときにお客様にとっての価値の最大化につながると考えている」(稲垣氏)
その導入を推進していくために、SAPジャパン社内での事業推進体制の拡充、パートナーエコシステムの強化/拡大にも取り組むとした。
「クラウドERPは『稼働して終わり』ではなく、使い続けていただく必要がある。そのために、稼働後の保守も含めてしっかり対応していける、ミッドマーケット(中堅企業向け市場)中心のクラウド再販を前提としたエコシステムを確立していく。さらに、今後は大幅な(導入案件の)伸長が予想されるので、新規導入プロジェクトに対応できるパートナーを拡大させていこうと考えている。12月にはパートナー募集のためのイベントも開催予定だ」(稲垣氏)
S/4HANA Cloudのビッグバン導入を行ったエイト日本技術開発が評価を語る
SAP S/4HANA担当COOのスベン・デネケン氏は、S/4HANA Cloudが可能にするリアルタイムなトランザクション処理と分析により実現する新たなビジネスプロセスの例、また次世代のUI/UXである「Fiori Next」により実現するカスタマーエクスペリエンスを紹介した。
今回のテクノロジーアップデートによって、新たにカスタムABAPコードによる開発が可能になったことも紹介した。これまで提供してきたものと合わせると3種類の機能拡張方法が用意されていることになる。
ただしデネケン氏は、こうした顧客固有の要件に対応できる拡張性を実現しながらも、S/4HANA Cloud自体のコアは「クリーン」な状態(これらのカスタマイズからは独立した状態)を維持していることも強調した。これにより、S/4HANA Cloudの将来的なアップグレードの影響を受けることなく顧客固有の要件に対応した拡張が行える。
なお同発表会には、建設コンサルタント業のエイト日本技術開発から取締役 常務執行役員の永田裕司氏が出席した。単体売上が259億円(2021年度)、社員数1037名(2022年6月時点)という同社では、DXの実現を目的としてS/4HANA CloudなどのSAPソリューションを導入している。
従来同社では、定常/定型レポートのために構築されたオンプレミスシステムを利用してきたが、そのデータをビジネス上の有意な情報に転換するためには多大な労力を強いられていたという。そこで「リアルタイム経営」「全体システムと統合された人材管理」などを目的として、S/4HANA Cloudへの刷新を決定した。この新システムでは26のシステム領域をカバーするという。
SAPソリューションを選定した理由については、DX推進のための基本システム要件を満たすこと、グローバル対応であるため今後のグローバル展開に生かせること、セキュアで堅牢なシステム構造を持つこと、クラウド時代に沿ったビジネスモデルとユーザーとの対話姿勢を持つことなどを挙げた。
「『クラウド時代に沿ったビジネスモデルとユーザーとの対話姿勢』は結構重要なポイント。ほかのさまざまなメーカーとも打ち合わせをしたが、やはりSAPはオンプレミスのユーザーをクラウドへ移行させる技術と組織力、牽引力が非常に大きかったと考えている」(永田氏)