業務を変えるkintoneユーザー事例 第137回
kintone hive fukuoka 2022レポート
目標はアカデミー賞! 社員の半数が辞めたアニメ制作会社がkintoneで魔法をかけられた
2022年06月28日 09時00分更新
「kintone hive 2022」の第1弾がZepp福岡で開催された。kintone hiveはkintoneのユーザー事例を共有しあうイベントで、優勝した企業は「kintone AWARD」に進出する。
最後の登壇はFOREST Hunting One代表取締役社長の森りょういち氏。「FHOに起きた、ある魔法の話」と題して、アニメ制作会社のナレッジ継承、コンテンツ管理に活用し、脱属人化を実現したストーリーを紹介してくれた。
社員を守るつもりが主要メンバー全員が辞めることに
森氏は3Dプリンターを使って立体造形物を作るのが趣味で、なんと自分で作った魔法の杖を持って登壇した。素人目にもクオリティの高さがわかる。そんな森氏が代表を務める株式会社FOREST Hunting Oneは福岡市中央区薬院に従業員10人ほどのオフィスを構え、3DCGアニメーションの企画、制作を行なっている。
映像制作会社の多くは受注の仕事がメインとなるが、FOREST Hunting Oneは作品のほとんどがオリジナルというのがユニークだ。企画から制作まで一貫して手がけており、全国的に見てもとても珍しいスタイルだという。
アニメを作っていると言うと、和気藹々として、楽しそうと思われるそうだが、そんなことはなかった。森氏はその裏で10年以上に渡り、大きな壁と戦い続けてきたのだ。その壁というのが「コミュニケーションの壁」だった。
「従業員のほとんどがクリエイターです。そして、アニメ業界あるあると言っても過言ではないと思いますが、クリエイターのほとんどはコミュニケーションが苦手です」(森氏)
アニメ制作はラインで動いている製造業だという。設計やデザインといった行程があるが、各工程の間に必ず、密なコミュニケーションが必要になる。FOREST Hunting Oneはそのコミュニケーション部分が致命的に弱かったそう。
そのため、コミュニケーションに端を発するミスが頻発していた。個人プレーで我関せずという状態が横行して、超属人化が起きていた。情報共有が積極的に行なわれず、会議をしても活発に意見が出ることもない状態が10年続いたのだ。
そんなある日、転機が訪れる。海外の子供向けアニメ、全52話を作るという超大型案件を獲得したのだ。大きなビジネスチャンスなので、引き受けたのだが、やはりコミュニケーション部分が足を引っ張ったそう。現場は大混乱し、作業はスケジュール通りに進まず、遅れに遅れて、連日連夜の徹夜という状況になる。
スタッフがどんどん疲弊していくので、森氏は何とかしなければとどこかに魔法はないのかと探し回った。そこでグロービス経営大学院に辿り着き、1年間通うことにする。そこで得た知識を現場に落とし込んで、制度化して改善を進めたものの、その奮闘空しく、社員の半分が辞めるに至ってしまった。
「かなりショックでした。社員の雇用を守ることしか考えないで、10年間やってきました。自分の作りたいこととかは全部押し殺してやってきたんです。その結果、当時守りたいと思っていた主要メンバーが全員辞めました。そして、その後に入ってきた若いメンバーだけが残るという事態になりました」(森氏)
ビジネススクールの先生に相談したところ、「森さん、だからだよ」と返ってきたそう。従業員のことを考えるのは大事だが、経営者やリーダーは理想を掲げなければならない。理想に対して、大きな旗を振る姿を見て、従業員はここだと面白い挑戦ができそうだ、と人が付いて来る。人は論理では動かずに感情で動く、と言われたのだ。
自分がしたいことを考えないことが経営者の仕事だと思っていた森氏にとって、真逆の指摘をされてしまうことになる。
「自分たちはアニメをやっている。その最高峰は何か、と考えた時に、やっぱりアカデミー賞だとなりました。アカデミー賞短編アニメーション賞にノミネートしてみたい、と思いました」(森氏)
そのためにはお金と時間が必要で、それを実現するためにはビジネスモデルを作り、制度を変えなければならない。やらなければいけないことが一気に整理されていった。
まだ海外案件が動いている中だが、森氏は自分の考えをスタッフにおそるおそる伝えてみた。すると疲弊しきっている社員の目が輝きはじめたという。コミュニケーションが苦手なクリエイターが「社長、それめちゃくちゃ面白そうです。やってみたいです」と言ってきた。人は感情で動くと言うことはこういうことなんだ、と森氏は実感する。
kintoneに出会った結果、魔法が起きた
残ったメンバーで力を合わせて海外案件を無事に終わらせると、目標を実現するために必要な要素を洗い出した。徹底した情報共有で脱属人化と業務の標準化を実現するために必要なツールを探し回ったところ、kintoneに出会うことになる。
最初に作ったのは「FORESTディクショナリー」というシンプルなアプリだった。社内の制度やルール、技術、ノウハウなどのナレッジベースを用意したのだ。これまでクリエイターの頭の中にしかなかったアニメの作り方や手順を言語化して蓄積していった。
レコードの中身はテーブルで、手順番号と中身を書いていくのだが、他の人にわかりやすいように文字の太さや色を変えるという工夫をしている。さらに、添付ファイルフィールドを用意し、画像も貼り付けられるようにした。
「FORESTディクショナリーを見たスタッフが手順通りにやっていけばある程度再現できる、というところまで推し進めていきました」(森氏)
「FORESTディクショナリー」の周知も徹底した。「FOREST掲示板」というスペースを作り、「FORESTディクショナリー」の新着や更新の情報を共有した。さらには、毎朝の朝礼でも「FOREST掲示板」の更新を共有した。
「その結果、魔法が起きました。ディクショナリーが現場から勝手にどんどん増えてきたのです。最初は僕がディクショナリーにしておいてね、と頼んでいたのですが、瞬く間に勝手にできるようになりました」(森氏)
kintoneを「FORESTディクショナリー」だけで使うのはもったいないということで、他のツールもどんどん開発した。ユニークなのがそのアプリ名。ソフトウェア管理アプリ「インストールくん」やイベント計画アプリ「イベントくん」など、●●くん、●●ちゃんという名前を付けて、気軽に使ってもらえるようにしていた。
例えば、「イベントくん」アプリはイベントの幹事が使うアプリで、4W2Hに則って情報を入力していくようになっている。「HOW」部分はテーブルになっており、時刻と催し内容を入力するとスケジュール表が完成する。このアプリを使えば、コミュニケーションが苦手なクリエイターでも幹事になれるという。
kintoneを活用して業務を大きく効率化できたので、スタッフは大きな自信を付けた。そこで、次のステップとして新規事業の開発に着手した。新入社員向けの教育動画コンテンツ「mitoite(ミトイテ)」というサービスを開発中で、2023年にリリース予定とのこと。
新入社員に動画を見てもらうことで、楽しく見られるのに社会人として必要なマインドセットが爆上がりするのがウリとのこと。もちろん、「mitoite」の顧客リスト管理はすべてkintoneで行なう予定だ。
「最後に、今kintone hiveを観られている方、実はすでにkintoneの魔法にかけられています。1社でも僕たちと同じ体験をしてくれたら嬉しいなと思います」と森氏は締めた。
海外案件が終わった後、実際に短編アニメを作成し、すでに国内外のコンテストに出しているそう。そしてなんと2022年5月にはニューヨークの映画祭「New York Cinefest 2022」で上映されたという。kintoneの魔法により、FOREST Hunting Oneは目標へ大きく近づいているのだ。
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