クライアントとの新しいコラボレーションにチャレンジ
大谷:クライアントの方々とのコラボレーションはどうでしたか?
山本:お客様側も、アクセンチュア側も、自分たちの従来の仕事のやり方が染みついているので、最初のうちは担当の線引きや責任分掌みたいな政治的なことを駆け引きするシーンもそこそこ見られたのも事実です。でも、MVPと呼ばれる大きなリリースを重ねていくごとに、そういった緊張がどんどん解消されていった気がしますね。
青柳:僕はもともと全銀とか、CAFISとか、渋いところを担当していたので、行員さんとやりとりする機会が多かったのですが、基本的に細かいですし、今のホストでやっている重厚長大なシステムを想定するので、そのギャップは感じていましたね。当初は細かく、複雑で、機能要件をとにかく満たせるものにしたいという発想でした。一方で、佐藤さんたちのデザインチームは、とにかくシンプルにという発想。だから、開発の立場で両者を取り持つのは、なかなか大変でした。
大谷:板挟みだったんですね。
佐藤:今までの銀行のシステムって、対象が全人類。老若男女問わず、すべての人に均等によいサービスをという思想で作られていたのですが、今回はあえて「デジタルネイティブなミレニアル世代」を対象としています。18~30代前半想定なので、僕も想定する年齢から外れています(笑)。そういった人たちが、どういった使い心地を望むかが、すべての出発点です。
もちろん、若い人が使うSNSのようなアプリも研究していますし、なぜ銀行のアプリを使っていると使いにくさや違和感を感じるのか、デザイナーが棚卸しをしました。棚卸しした結果、いくつかの課題を解消するために、「サクサク動く」「親指だけで操作できる」「バイブレーションや音で操作する実感を持てるように」など、全体のUXガイドラインを作りました。
大谷:クライアント側のリクエストってざっくりどんな感じなんですか?
佐藤:基本的なリクエストとしては、盛り込む情報量が多いんです。われわれも、想定しているユーザーの8割はこれで問題ないというレベルで作ってみたものの、銀行の感覚としては、この文章は必要だとか、ここは朱字で書かないとみたいな感じで、どんどん増えてしまう。用語の使い方レベルで散々議論をして、受け入れたところもありますし、譲らなかったところもあります。
青柳:文言争いはすごかったですね(笑)。
でも、結果的にデザインチームが率直に言った意見をかなえられてよかったと思っています。今までは行員さんの意見をずいぶん重視していましたが、全部盛り込んでいたら、結果として重くて使いにくいアプリになっていたと思います。
妥協しなければ前進できないこともある
大谷:難しい質問をしている自覚はあるのですが、どうやって取り持ったのですか? 片方はシンプルにしたい、片方は全部盛りたいと思っているわけで、普通に考えたら、落とし所があるのか、不思議に思うのですが。
青柳:うーん。取り持っていたか、自信はないですし、行員さんたちも譲れない部分あったと思うのですが、「シンプルに作ろうよ」という方向性は定まっていました。行員さんと意見が対立するときもありましたが、特に操作に関する部分では、行員さんたちも「システムやデザイン担当の話を信じようよ」と思ってくれていたのではないかと。
山本:この議論は、スプリントが始まるまでに片付いているかというと、そんなこともないので、開発中も継続していました。マインドが変わる方もいますし、変わらない方もいますが、変わりたい人をサポートするというのは私はだいぶ意識しましたね。
特にスクラムにはお客様側からプロダクトオーナーとして行員の方が参加するのですが、僕のチームの方はすごく勉強熱心な方でした。スプリントやMVPを重ねていくうちに、ITやシステムで気にすべきポイントはどこかすごく学んでくれたんです。ちょっと上からになりますが……成長してくれたし、システムをわかろうとして歩み寄ってくれました。
プロダクトオーナーとしていろいろな意思決定をする大変な立場だったと思うのですが、きちんと全うしようというプライドを持っていました。だから、スクラムマスターとしては、サポートしがいがありますね。
高:僕のスクラムの担当プロダクトオーナーの方は、逆にアジャイル開発にはピンと来ないタイプの方でした。だから、こうすべきというやり方の説明をするよりも、とにかく結果を出し続けて、信頼を得るしかないと思いました。実際、スプリントをいくつもこなし、品質も自明だったので、結果的には信頼してくれたと思っています。
あと、先ほど青柳さんが話したとおり、シンプルvs全部盛りという議論もあったのですが、短期的な目標vs長期的な目標という議論もありました。
これは理想と現実というアーキテクチャの話でもあります。理想のアーキテクチャを目指しつつも、現時点でなにかしらを犠牲にしなければならないケースがある。将来的にはいいことだと思っても、現時点では誰もそれを証明できないので、お客様やプロダクトオーナーからするとその犠牲が認められない。こういったジレンマがありました。
大谷:いやあ、なんだか大人の開発話ですね。もっと美辞麗句だらけになると思っていました。
高:正直、妥協しなければ前進できないところもある。ところどころ妥協しつつも、大方針はぶれない。進めることで、信頼関係は構築できたし、お互いの考え方も理解できるようになったのではないかと思います。
山本さん、青柳さんと私はアプリ開発のスクラムマスターですが、先ほど話したとおり、別途アーキテクトチームもいます。アーキテクトチームは当然ながら理想のアーキテクチャを目指すのですが、アプリ開発としては、現時点では別の実装をせざるを得ない。
だから、アプリ開発チームとしては、お客様に対しても、アーキテクトチームに対しても、合意をとらなければならないのですが、そこに至るまでは本当に大変でした。
大谷:高さんとしてはどうやって乗り切ったのですか?
高:単なる板挟みだと思ったら辛いだけで前に進まないので、「トレードオフをバランシングする」という少しポジティブな考えのもと、なんとかがんばった感じですね(笑)。結果、お互い理解し合うようなバランスができたので、よかったです。