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400人体制で行なわれた新世代銀行システムの開発とは?

アクセンチュアのスクラムマスターが語る銀行システム開発の舞台裏

2022年05月27日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: アクセンチュア

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「言うの我慢しているでしょ」とみんなから突っ込まれた

大谷:山本さんは今回のアジャイル開発プロジェクトはどうでしたか?

山本:僕もここまで大規模なアジャイル開発は今回が初トライです。もともとトップダウンで降りてきた指示をメンバーにディスパッチするみたいな役割が板についていたのですが、自分が全部指示しなくても、メンバーが能動的に動いてくれるというボトムアップのアプローチに変えるというのが大きなチャレンジでした。

リーダーがすべてを把握し、メンバーに指示するようなやり方は、1週間や1日単位で課題解決する必要がある今回のような現場には合いません。メンバー自身も言われたことだけやるというカルチャーに染まってしまいます。

これを自分たちで考えて、行動できるようにすれば、自分たちにもプロジェクトを推進する感覚が生まれてきて、楽しいし、ワクワクする。新卒の人や外からプロジェクトに参画したメンバーを、誰かの決めたことをやるのではなく、自分たちで自分事として物事を進めていくという感覚に染めていく。これは人材育成という観点で、とても楽しかったですね。「なるべく口を出さない」という苦しさもありましたけど。

大谷:ありますよねー。私とか、ついつい口出しちゃいます。

山本:ここのメンバーからはよく「山本さん、言うの我慢してるでしょ」と突っ込まれました(笑)。答えは明らかだけど、言うのを我慢して、本人に気づいてもらうように。これはずいぶん気をつけましたね。それでも我慢しきれず言ってしまうことも多いのですが。

大谷:でも、その方法って、時間がかかるやり方ではあるじゃないですか。だから、現場やプロジェクトが許容してくれたという意味ですね。

山本:ここで働いたメンバーはみんな、業務スタイル自体も劇的に変わったはずなんですよ。今までのように3ヶ月等で開発を完了させる一発勝負のプロジェクトだったら、議論の余地はなく、「いいからこうやって」という指示出しになると思います。でも、今回のように長いスプリントで、次のスプリントでも同じようなことをやってもらう場合、今答えを教えるより、時間が多少かかっても本人が答えを編み出す力を身につけてもらったほうがいい。この点は、コストと期間、制約、本人の意欲を見ながら差配する必要があるので、リーダーやスクラムマスターによると思うんですけどね。

大谷:実際に「この人は変わったな」と思うメンバーが山本さんの頭の中に何人もいるということですよね。

山本:います。モバイル系で2~3人のチームリーダーだったメンバーが、今はスクラムマスターをできるまで成長していたり。脱皮するスピードが他のプロジェクトよりも速い印象がありますね。

アジャイル開発も、スクラム開発も、教科書通りじゃなかった

大谷:高さんもアジャイルやスプリント開発の経験はあったのですか?

高:僕はアジャイルプロジェクトの経験はあったのですが、スクラムマスターは初めて。こうなると、最初に考えるのは「世の中でスクラム開発はどうやっているか?」なので、いろいろ勉強しました。

一般的にはアジャイル開発では、まず期間と人数が決まります。開発期間は3ヶ月、かけられるリソースは10人と決まったら、次にやるべき業務のスコープを調整します。一方、ウォーターフォール型はまったく逆で、開発のゴールがあって、そのために必要な期間と人数を調整します。これが教科書で書かれた内容で、僕もこれで進められると思っていました。

大谷:「思っていました」(笑)。じゃあ、違ったんですね。

高:はい。たとえば、銀行のシステムは金融庁からのライセンスが必要なのに加え、全銀接続のタイミングが決まっているので、年に2回しか開業のチャンスがありません。しかも、最低限の機能要件を備えていなければならないので、後でアップデートでなんとかする、みたいなことは無理なんです。こうなるとアジャイル開発と言いながら、期間やスコープはあまり変えられない。「教科書と違うのでは?」という戸惑いから僕のスクラムマスターは始まったんです。この戸惑いはたぶん僕だけじゃないと思います(笑)。

でも、あとから冷静に考えると、そういうものだなと思います。確かに世の中の多くのアジャイルプロジェクトは、教科書的なやり方で実現できる。でも、アクセンチュアがやっているようなビジネスの根幹となる分野のプロジェクトは、期間やスコープの制約を受けるので、教科書的な知識では太刀打ちできないと感じました。

大谷:でも、2~3年やってきたら、さすがに板についてきたのではないですか?

高:そうですね。昨年のリリース以降は世間で言うアジャイル開発らしいプロジェクトになっています。さすがにスタートアップやWebサービスのリリースとはちょっと違いますが、機能を小出しにできるようになりました。プロジェクトの回し方もまた変化させていきたいと思っています。

大谷:山本さんから見て、アジャイルとウォーターフォールとの違いはありましたか?

山本:この期間までにここまで終わらせなければならないというスコープが見えている限りは、ウォーターフォールとタスクのこなし方で劇的な違いがあるわけではないんです。ただ、このスコープからあふれてしまうものを、どうやって調整していくか。これをお客様と同じ目線で話せるのはずいぶん違いますね。

私も20年くらいの職歴があるので、過去には「それはアクセンチュアがやってくれないと困る」と言われたことは何回かありますが、今回のようにお客様がいっしょの目線を持ってもらえるとだいぶ違いますね。違う立場で対峙するのではなく、同じ立場で考えてもらえたのは本当に助かりました。

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