このページの本文へ

前へ 1 2 次へ

業務を変えるkintoneユーザー事例 第133回

データ分析で服薬事故は前年対比4割減、転倒転落事故も1割減

膨大な事務処理をkintoneで減らした介護事業者 作業時間も事故も減る

2022年05月24日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 「kintone hive 2022」の第1弾がZepp福岡で開催された。kintone hiveはkintoneのユーザー事例を共有しあうイベントで、優勝した企業は「kintone AWARD」に進出する。3番目に登壇したのは介護事業を手がけるさわやか倶楽部の原野聖士氏。今回はセッション「業務効率化は通過点であり決してゴールではない。その先にある“究極のサービス”を届ける為に僕らはkintoneを選んだ」のレポートを紹介しよう。

さわやか倶楽部の原野聖士氏

膨大な書類に、このままでは限界があると感じていた

 さわやか倶楽部は福岡県北九州市に本社を構え、母体であるウチヤマホールディングスの子会社。2004年に設立され、高齢者の福祉事業、事業の障がい支援事業を行なっている。原野氏は2005年に介護職として入社し、現在は本部で社員の研修などを行なっているそう。

 介護職は食事や入浴、リハビリを支援業務を行なうが、同じくらいのウェイトで記録業務や書類作成業務も多いという。

「われわれは介護保険法というルールの元で運営しているので、書類がひとつでも欠けていれば、最悪の場合、業界からレッドカードで退場ということにもなりかねません」(原野氏)

 そのため、全国の各施設で、ルールに基づいて書類が作成されているかを北九州のスタッフが毎日確認をしていた。しかし、以前は紙がベースで確認する際は電話をしたりしていた。事業が拡大する中で、このやり方では限界があると感じていたそう。

書類の作成業務負担がとても大きいのが課題だった

 原野氏は加えて、介護施設で起きる事故の情報を集計し、分析する業務も担当していた。事故報告書は手書きで、FAXやメールで届く。文字が読めなかったら、現場に電話するなど、双方で非効率なロスが発生していたという。

 事故の集計をするだけでは再発防止にはつながらないので、次に詳細を確認してリスクマネジメントニュースを作成しなければならない。毎月500~600枚もの報告書が上がってくるので、原野氏の負担は大きかった。

「私は集計だけの担当ではないのですが、毎月30時間くらいかかっていました。なんとかしないと体が保たないと思い、どうにかして統一したフォーマットで効率良くデータの集計、分析ができないかと考えました」(原野氏)

事故情報の集計、分析、ニュースの作成と原野氏の業務負担が大きかった

 そんな時、内務監査室の室長が、2018年2月に福岡で開催されたkintoneの初心者向けセミナーに参加し、その情報を共有してくれたという。みんなでトライアル運用してみると、他のメンバーも使いやすい、見やすい、シンプルだと高評価が得られた。そこで、全社導入することとなった。

 最初はkintoneの導入パートナー企業であるインフォメックスに相談し、他社の導入事例や使い方の指導を細かく教えてもらったそう。社内で導入するにあたっては一部のメンバーが推進するよりも、あらゆる部署からメンバーを集めた方が多角的な意見が出るだろうと考えた。

kintoneを導入した際に立てた目標は3つ

 運用を開始するにあたり、まずはアプリ作成時の目標を立てた。「従来あるルールや様式を大きく変えない」「現場の負担軽減につながる」「誰でも使用できる簡易的なフォームに」の3つだ。

 kintoneを導入するメリットは何なのか、といった基本をしっかり考えて明確にしながら進めたという。対応相談窓口を設置したり、マニュアルを共有したり、無理のないトレーニング期間も設定した。また、若手の社員をキーパーソンに抜擢したのもユニークだ。その時点ではITに詳しくなかったが、非常にがんばってくれていたようで、今では社内一番のkintoneマスターに成長したそう。

kintone導入のキーパーソンに入社2年目の若手をアサインした

 ただでさえ慌ただしい介護の現場にkintoneが受入れられるのか不安だったので、サポート体制を充実させることにした。アプリを作る度にマニュアルを作成し、ホーム画面に貼り付けた。

 原野氏は事故報告アプリを作成したかったが、まずはハードル低めのアプリからチャレンジした。介護施設は四季折々にイベントを企画するが、ちょうどその時期はクリスマス。そこで、クリスマスケーキの発注アプリを作ってみた。以前はExcelファイルで行なっていた作業だ。

「Excelを使っていた時は、誰かが見ていると、その資料に入力ができないとか、計算式が間違っているとか、入力漏れがあったりしていました。また、現場に電話で確認するといった手間があったんですが、すべて瞬時に解決できました」(原野氏)

最初はハードル低めのアプリを作成した

 現場でも本社でもkintoneを活用するようになり、紙でやり取りしていた内容をコメント機能を活用することで、業務量を50%くらい削減できた。そこで原野氏は本命の「事故報告」アプリを作成する。プラグインを使って、なるべく以前のExcelフォームと同じような感覚で入出力できるようにした。

「これでやっと私も、地獄のような日々が改善されると思って、喜びに満ちあふれていました。最初は数施設に導入したのですが、その段階で、アプリは大変、手書きの方が絶対楽だ、という声がいっぱい来ました」(原野氏)

 そういった反応を予想していた原野氏は、一つ一つの声に向き合いながら、説明したり、意見をもらってアプリに反映した。説明会や勉強会を何度も開き、マニュアルが見づらいという意見が出れば、すぐにブラッシュアップして変えていった。そんな努力を積み重ね、最終的には全施設に導入したのだ。

事故報告アプリを導入したところ、不満の声が寄せられた

「それからも問い合わせは来ました。紙のマニュアルだけだとわかりにくい、というので、動画でマニュアルも作りました。導入して約2年が経った今では、ほとんど問い合わせもなく、苦手意識があった職員にも浸透しています」(原野氏)

前へ 1 2 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事