経営/マネジメント職が大量の業務をさばく方法、人事担当者が申請処理を自動化する方法
Slack社員の活用術から学ぶ職務ごとの「デジタルHQ」実践【前編】
2022年04月26日 08時00分更新
Slackが2022年4月20日、オンラインイベント「Digital HQ 体験ウェビナー」を開催した。コロナ禍によりオフィス勤務とリモート勤務が混在するハイブリッドワークの重要性が高まってきている中、コラボレーションツールとして「Slack」の活用が広がっている。効率の悪いメールのコミュニケーションをシンプルなSlackに移行することで、より生産性を高められるのだ。
このイベントでは、Slack社員5名から、自らが実践しているデジタルHQ(デジタル本社、デジタルな働く場所)での働き方を紹介する「バーチャルオフィスツアー」も披露された。マネジメント、人事、営業、カスタマーサポート、マーケティングと、それぞれの職務内容や役割に応じた活用ノウハウがあるようだ。今回は前編/後編記事に分けて、セッション内容を詳しくレポートしよう。
メンションを活用して多数の業務をスムーズに進める
イベントの司会を務めたSlack 事業統括 マーケティング本部 プロダクトマーケティングディレクターの伊藤哲志氏は、「私は2020年5月入社なので、入った時点でSlackは“完全リモートワーク”状態でした」と語る。
コロナ禍の影響を受けて、Slackでは2020年3月からグローバルの全社員がリモートワークに移行した。社内のチームメンバーどうしだけでなく、顧客やパートナーとも直接会う機会がなくなった。それでもSlackを働く場所(=デジタルHQ)として活用することで、生産性を下げることなくビジネスを成長させている。
自らの働き方を紹介するトップバッターは、エンタープライズ本部 執行役員 本部長の熊谷喜直氏だ。「経営層やマネジメントにとってのデジタルHQとは」という切り口で、デジタルHQにおける2つのテーマを紹介した。
まずは「組織内のさまざまな事柄を同時進行で進める」ノウハウについて。多数のプロジェクトや業務が並行して走っている中で、マネジメント職には、それぞれがどのような状況なのか、何が課題なのか、誰が何をやろうとしているのかといったことを俯瞰的、かつ網羅的に見ることが求められる。だがSlackというデジタルHQでは、商談やプロジェクトの状況などを必要な時にすぐ確認できるので、わざわざ「これどうなってる?」と聞く必要がない。支援に入るべき状況なら、すぐに対応できる。
とは言え、一度にできることは限られているので、優先順位を見極めることが重要だ。そこで重宝するのが「メンション」機能だという。チャンネル一覧で白く太字になっているチャンネルがあるが、これは未読があることを表している。その中でも、自分宛のメンションがついている場合はメンションの数が赤い数字で示されるので、これを優先的に確認していけばよい。
ここで、重要性や緊急性が高いものはその場ですぐ対応するが、後でやればよいと判断したものは「ブックマーク」したうえで後回しにし、次のタスクにとりかかるという。時間があるときブックマークの一覧を開き処理すれば、対応を忘れていたという事故も防げる。
メンションがつく中でも、比較的早い対応が求められるのが承認作業だ。Slack社内では、承認プロセスを「Approvals」ボットに集約しているという。承認申請が行われると、承認者にメンション通知が届き、システムを切り替えることなく承認項目を確認して承認/差し戻しの判断ができる。もちろんSlackのモバイルアプリでも使えるので、外出中でもプロセスを止めることなく業務を進められるのがポイントだ。
2つめは「企業カルチャー」についてだ。全社員が毎日異なる場所で仕事をする中で、企業カルチャーや仲間意識をどう醸成していくのかは難しい課題だ。その課題に取り組む施策の一環として、Slackでは経営会議の課題や決定事項を全社員にオープンにしているという。オープンにすることで、物理的なオフィスで空間を共にしていなくても意識の方向性が統一されて、社員の一体感が高まると考えるからだ。
チーム全体の優先事項や目指すべき方向性も、動画を共有する「クリップ」機能を使ってパブリックチャンネルで発信している。よくある全社集会のように、全社員を同じ日時で束縛することから解放される。また、社員がリアクション絵文字やコメントで気軽に反応できるのも、社員の一体感を高めるうえでの利点だ。
さらにSlackでは、異なるチームの社員同士が業務上の学びや気づきを楽しく共有できる文化作りにも取り組んでいるという。
「先日、リモート形式で、グローバル営業組織全体のキックオフミーティングが開催されました。そこで得た情報をジャパンの営業チームの壁を越えて共有していこう、と投げかけたところ、たくさんの賛同がリアクション絵文字で得られました。こうしたオープンカルチャーを作ることも意識しています」(熊谷氏)
Slackでは組織や階層の垣根を超えて、「縦串だけでなく、横串で物事を進めること」を重要視しながらデジタルHQを実現している。熊谷氏自身は、主に「営業」と「外部(社外の顧客)」という2つの領域のSlackチャンネルを使って仕事をしているが、そこにいながら全社共通のアナウンスを受け取ったり、他部門と案件を進めたり、外部の顧客やパートナー企業とセキュアにスピーディーにやりとりすることができていると語った。
ワークフロービルダーを活用して定型化されている業務を自動化する
2人めに登場したのは、人事本部マネージャーの脇田理未氏だ。
人事の担当者には、仕事を進めるうえでより効率良く、なおかつ社員にも喜ばれるようなオペレーションが期待されているという。そこで作ったのが「help-people-japan」という専門チャンネル。これは“人事がいる部屋”という位置づけのチャンネルで、社員がここで人事関連の質問をすると人事担当者から回答が得られるようになっている。
「パブリックチャンネルにしているので、質問と回答を社員全員が自由に見られます。蓄積すればFAQになるので、同じ質問がある人は質問する必要がなく、人事としても個別に対応しなくて済むので効率的です。便利だというイメージの訴求と、聞きやすい環境作りのために、なるべく早くわかりやすく回答することと、絵文字を使ったフレンドリーな対応を心がけています」(脇田氏)
業務の自動化にもチャレンジしている。定型化されているプロセスは「ワークフロービルダー」や連携アプリをセットして属人的な対応を減らすことで、ムダやミスを減らす仕組み作りをしていると説明した。
例えば、押印が必要な在職証明をリクエストしたい社員がいたら、社員自身であらかじめ用意されているショートカットをクリック。フォームに詳細を入力すると、その内容が自動的にSlackの「押印」チャンネルに流れる。内容を確認した担当者が承認すると、人事部門に通知が飛び、書類の作成を行う――という流れが出来ている。
以前は人事部門が申請書類を紙で受け取り、詳細を社員から聞き取って、それをSlackのメッセージにまとめて承認に回すという非効率的なワークフローだったそうだ。シンプルなワークフローを作るだけで、以前とは比べものにならないくらい生産性が高くなっているのがわかる。
「デジタルHQでは情報を定型化した形で得て、それをどう自動で動かすか、という流れを意識しています。『面倒臭い』と思うことをチャンスと考えて改善しています。こういったプロセスは業務量や対応状況をデータとして取れるので、プロセス改善や今後のプランニングに役立てられます」(脇田氏)
社員の帰属意識の向上につながる施策でも、Slackのワークフロービルダーやアプリを活用している。例えば、新入社員どうし仲良くして欲しいので、新入社員が特定のチャンネルに入ったら「同期社員どうしでチャンネルを作って、仲良くしてください」というメッセージを自動で送信するようにしているという。
ボットから送信することで、人事担当者が主導していると思われないため、新入社員にプレッシャーをかけることもなく、気軽に参加してもらえる。ちなみに、このワークフローは「5分くらいで作ってしまった」という。
「私のデジタルHQでは、より効率がよく、社員に喜ばれるオペレーションを作り、運用してもらえると思って、日々楽しみながら仕事をしています」と脇田氏はまとめた。
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今回の前編記事ではまず、2人のSlack社員によるバーチャルオフィスツアーをご紹介した。多数の業務を並行してこなすために、ブックマークを活用しながら届いたメンションにすべて対応する、簡単な定型業務でもワークフロービルダーで積極的に自動化するなど、さすがの使いこなし術が見られた。また、経営課題をオープンにして社員の仲間意識を醸成する、パブリックチャンネルで質問を受付けてFAQに育ててしまう、といったノウハウは、どんな会社でもまねができるだろう。
次回の後編記事では、営業、カスタマーサポート、マーケティングのSlack社員3名によるツアーを紹介する。こちらも連携アプリやハドルミーティング、クリップといった機能を使いこなす内容になっており、見応えありだ。