聴講者からの質問に三重県、静岡県浜松市、北海道森町のSlack導入担当者が回答
自治体のSlack導入はどう進める? 3つの自治体がノウハウを語る
2021年11月22日 08時00分更新
Slackが2021年11月に開催した、自治体におけるSlack活用の取り組みを紹介するオンラインイベント。イベント後半ではパネルディスカッションを実施し、三重県、静岡県浜松市、北海道森町のSlack導入担当者が、聴講者からのSlack導入についての質問に答えた。
「自治体ならでは」のIT環境問題が存在する
まず、庁内におけるこれまでの連絡手段(メールなど)からどのようにSlackへ移行してきたのかという質問に、3者それぞれが答えた。
三重県の岡本氏は、これまで“庁内専用”で利用してきたメールシステムの問題点について説明した。
「三重県は独特で、既存の連絡手段としてインターネットメールとは別にパッケージソフトの庁内専用のメールシステムが稼働しており、これが非常に使いにくいという声が庁内から届いていた。添付ファイルの容量に制限があり、パッケージのためカスタマイズもできない。『Outlook』などの一般的なシステムを使っていなかったこともあり、まずはチャットツールを使ってみようということで始めたのがSlackだ。Slackはまだ50人規模での導入だが、今後全庁で希望する部署に導入することになっているので、その反応を見ながら考えていきたい」(岡本氏)
浜松市の村越氏は、LGWAN(総合行政ネットワーク)環境による庁内/外部の“分断”という課題を指摘する。
「LGWANという地方自治体にお決まりのネットワーク分離もあり、庁内と外部との連絡が完全にシームレスには行えない問題がある。そのためツールも考慮が必要で、庁内および他の自治体との間で使用するチャットは、Slackとは異なる別のツールを使っている。Slackはあくまで『官民の連携ツール』として、外部の方と庁内スタッフとの連携手段に使用している。住民サービスを担当する部署と、我々のようにスタートアップなど外部を相手にする業務とでは相手が異なり、まず相手に合わせてツールを選び、できるところから始めている」(村越氏)
こうした自治体ならではのIT環境問題について、北海道森町の山形氏は「ツールを使い分ける」意識が必要だと語った。
「我々も(Slackへの)移行というよりは使い分け。森町は庁内の標準ツールとしてMicrosoft 365を使っている。また私自身は個人的なプロジェクトでGoogle WorkSpacesなどを使っている。その点からSlackの強みは、やはり他のアプリケーションとの連携にあると思う。Outlook、Slackは言ってみれば『電報と会話』のような違いなので、それぞれ役割がある」(山形氏)
代表アドレスあてのメールはSlackに転送して共有
山形氏が所属する北海道森町では、グループメールや代表アドレスあてのメールをSlackに転送している。多人数に同報されるメールでは、往々にして「返信対応したかどうか」「誰が対応したか」がわからなくなる。Slackに自動投稿させることで、対応する担当者がわかりやすくなり、職員間の連携がうまく進むようになったという。
「役所はバックオフィス側で会話することが相当多いと思うので、出社できない状況でも、SlackとOutlookの連携で業務がうまく回るようになった」(山形氏)
続いて、組織にチャットツールを入れてみたがなかなか利用率が上がらない、どうすればよいか、という質問が届いた。
村越氏は「これはもう『使ってください』としか言えないところ」だと答える。「ただ、ひとつの方法としては、リーダーの立場の人の業務(使用ツール)を変えることだと思う。上司がチャットで送ったものに、メールや電話で返事する部下はいないと思う。上の人が変われば、全体が変わっていく」(村越氏)。
中央と地方、県庁と市町村などのコミュニケーション環境のズレはあるか、という質問も出た。
これについては「三重県庁に対してチャットを使いましょうと提案してくる市町村もあり、試験が始まっている。一方的に中央から決めるということはなく、相互のやりとりが進んでいると思う」(岡本氏)、「昔と違って、誰の手元にも高性能なデバイスがあり、ツールも使えるので、便利なものを使えばいいと考えている。私自身はまず『連絡手段はチャットがいい』と話して、少しずつ変わってもらうことを促している」(山形氏)とコメントした。
「高齢者は使えない」という先入観を捨てるべき
庁内コミュニケーションだけでなく、住民との連絡にチャットツールを使うことの可能性はどうか。地域コミュニティでも活動している山形氏は次のように語る。
「『高齢者はスマートフォンを使えない』というイメージがあるが、実はかなりの数が利用している。孫の写真がほしくて持つ人が多い。そうした背景があるので、私はコミュニティに参加するときに、役所の業務と同様に『連絡はチャットを使わせてくれない?』と頼んでみることにしている。それでだいたい、始めることができる」(山形氏)
職員のSlack利用では、年齢による差などはあるのだろうか。これについて村越氏は「とくにない」と述べた。「プライベートでLINEなどを使っている人がほとんどで、とくに難しいことはない。すでにリモートワークの中で『出勤しました』『休憩に入ります』といった連絡が行われており、使えなければ仕事ができない状況になっている」(村越氏)。
Slackはクラウドサービスのため、データの保存場所などセキュリティ面での抵抗はなかったかという質問に対しては、「クラウドのセキュリティに関しては、組織内で議論するいい機会だと思う。私は、今ではメール環境もクラウド上にあるのが普通。それと同じと考えて、ルールを決めていけばいいのでは、と話している」(村越氏)と回答した。
庁内のSlack画面は「公文書」なのか? 使うための検討も必要
自治体でSlackを利用する場合、メンバー全員にオープンなチャンネルでも行政についての内部限りの情報が行き交うケースが生じる。そのため「チャットの中に書き込まれるテキストが、公文書として情報開示請求の対象になるのか」といった議論も起きている。
岡本氏はこの課題に関して、「現在試験運用をしている三重県では、本格運用に切り替えるまでに、セキュリティを含めたルールを決めていく必要があると考えている。だからといってSlackの活用をやめるというわけではなく、『使っていくためにどうするか』という検討をしていく」と話す。
山形氏は、「自治体は、単純にこわいからやらないというのではなく、何が想定されるから、どう対策すべきか、しっかりと検討しなければいけない。それがDXを前に進める力になる」と続ける。
村越氏も、「山形さんが講演で話されたとおり、コミュニケーションのコストは高い。たとえば電話して不在のときに、別の人が仕事を止めてメモを書いて渡す行為は、どれだけコストがかかっているかを想像してほしい。一方、Slackなどのツールのコストは驚くほど安く、無料で試せて、だめならやめることができる。それならはじめてみればいいと、本当に思う」と話した。