業務を変えるkintoneユーザー事例 第126回
「絶対失敗しない、ではなく、絶対失敗したくない!」
突如任命された税理士法人のIT担当が、はじめてのkintoneで挑んだ業務改善
2021年11月25日 10時00分更新
「kintone hive Nagoya」の3本目の講演は、税理士法人畠経営グループの嶋長雄大氏が登壇し、「絶対失敗したくない! kintoneでの業務改善」と題して話した。嶋長氏は、「タイトルは、絶対失敗しない、ではなく、絶対失敗したくない!というkintone開発者の願望を表している。当社はkintoneを導入してまだ10ヵ月ほどだが、この間の導入から運用に進んだ経緯をお話ししたい」と説明を開始した。
定型業務と期日の管理が、エクセルでは限界に
畠経営グループは石川県金沢市に所在し、職員は約70名。業務内容は税務の申告と、各種コンサルティングとなっている。中小企業のお困りごとにワンストップで対応することをモットーにしている。
税理士法人の仕事は、顧客の毎月の会計帳簿の作成を支援するのが基本。1円のズレも許されない世界である。データや紙の形で資料を回収して、それを処理して納品することがルーティン作業になる。顧客の取引もそれほどイレギュラーなものが発生することはないので、8割以上は同じ業務が繰り返される。定型業務をいかに効率よく処理していくかが、収益力にも直結する。
税理士法人の仕事でもう1つ重要なのが、期日管理だ。顧客の企業には決算日があり、その2カ月後には申告期限がある。仮にその申告期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や延滞税が発生するなど、ペナルティが発生する。場合によっては、青色申告の承認取り消しということもある。決算申告に限らず、期日の管理は極めて重要になる。定型業務を期日までにきちんとするのが税理士法人の業務の中心ということだ。
次に嶋長氏は、同社が抱えていた課題について説明した。従来はエクセルをベースに業務の管理を行なっていたが、近年、社内インフラのキャパシティの不足が発生した。
「当社はここ数年で職員の数が約1.5倍に増えた。今まではエクセルに記載し、それを別の人がチェックする形で回していたが、人数が増えたことでチェックのしようがなくなった」(嶋長氏)
ほかにも、「誰かのための重複業務」が発生していた。毎月2、3時間かけて、似たような業務の書類を作っているが、これは誰のために作っているのかわからないものがある。「業務がブラックボックス化し、全体のボリュームが見えない、そして残業が増えるという悪循環に陥っていた」(嶋長氏)
最初に感じたいやな予感は、すぐに払拭
そのなかで、「なんとなくITに強そう」という理由で嶋長氏は業務改善を任される。同時に経営者から、このツールを使えと持たされたのがkintoneだった。
「トップダウンでITツールが先に決まっていた。これは失敗するパターンだと、非常にいやな予感がした。だが今思えば、代表が選んだツールがkintoneで本当によかった」と嶋長氏は振り返る。
嶋長氏はもともと業務改善には興味があったので、kintoneを使っていこうと思った。同時に、せっかく業務改善をするなら絶対に失敗したくないと考えた。だが、どこから手を付けていいのかがわからない。どうやって社内を巻き込むのか、またそもそもkintoneはどうやって使うのか…。嶋長氏は何もわからない状態だった。
時間だけが過ぎるなか、嶋長氏は2020年の11月、幕張メッセで開催された「Cybozu Days 2020」に参加してみた。「会場はお祭りのような雰囲気で驚いたが、そこでkintone Awardの受賞者のスピーチを聞いて、kintoneは業務改善にかなり使えるということがわかった。同時に、業務改善にこれほど熱量を持った人がいるんだということも衝撃だった」(嶋長氏)
驚きの体験をした嶋長氏は、自分もとりあえずやってみようという気になり、幕張メッセからの帰り道の新幹線の中から、アプリ開発をスタートした。
とはいえ、同社は過去にISOを運用していたこともあり、社内の各業務が関連付けられていた。どれか1つを変えようとすると、全体を再構築する必要があった。そこで、その部分には手を付けず、独立した業務からアプリへの置き換えを検討した。
最初に着手したのが、外勤の社員から内勤の社員への処理の内部外注にかかわる依頼書作成だった。当時は部署ごとに紙のバインダーで管理していたため、依頼の件数、担当別の仕事の数や、1カ月の中でいつが忙しいのかなど、何も把握できていなかった。
そこで、アーセス社の業務依頼アプリ「KANBAN」を使って、業務ごとにカードを作成した。「担当者ごとにカードを管理して、誰がどれだけ業務を抱えているかを可視化した」(嶋長氏)
カード形式の業務管理アプリはkintone以外にもある。嶋長氏は「kintoneの強みは、一度アプリを作って使い始めると、そのデータが蓄積されていき、それを分析して活用できること」とメリットを語る。
実際、この業務依頼アプリでも、使い始めると現場からは「顧客ごとの実績時間を出してほしい」「依頼者が見込んだ予定時間と実際の作業時間の差を分析してほしい」といった要望が寄せられるようになった。これは、kintoneの中に見込み時間と実績時間のフィールドを作ることで解決した。これによって、たとえばA社に対して1月は誰が担当して何時間かかったのか、といったことが把握できる。
また、依頼者と処理担当の間の意識のギャップも見えてきた。「依頼者は3時間で済むと思って出したのに、実際の処理は4時間かかった。この差はなぜ生まれるのか、という分析が始まった。業務が可視化されることで、業務改善という次のステージ進むことができた」(嶋長氏)
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