地方自治体内部/組織間、民間企業や住民などとのコラボレーションに向けた取り組みを紹介
自治体DXの実際:三重県、浜松市、北海道森町がSlack導入事例を語る
2021年11月11日 08時00分更新
すでに企業におけるコラボレーションプラットフォームとして利用が進んでいるSlackだが、地方自治体での利用も拡大している。Slackが2021年11月に開催したオンラインイベントでは、三重県、静岡県浜松市、北海道森町の3つの自治体担当者が登壇し、それぞれの自治体における取り組みを紹介した。
三重県:“昭和96年”状態の働き方を変え、まずは職員にゆとりを生み出す
最初に登壇したのは、三重県庁の岡本悟氏。三重県庁は2021年4月1日、自治体DXを進める中心組織として「デジタル社会推進局」を新設した。総勢50名の組織で、設立と同時に外部から招聘した最高デジタル責任者(CDO)の下で活動している。同局は3つの課からなり、岡本氏が所属する「スマート改革推進課」は、県庁内のDX推進と、県内29市町のDX推進の両方を担当する。
デジタル社会推進局が目指すのは「みんなの思いを実現する『あったかいDX』」だと、岡本氏は説明する。「DXというと、デジタルを活用して時間短縮や付加価値の向上を実現する経営改革的なイメージを持っていた。だが、本当はそれに『生活者の視点』も加えなければいけない。職員も生活者であり、DXによって余裕が生まれ、その時間を家族と過ごす時間や自分の学びに活用できるようになることを目指している」(岡本氏)。
しかしDXに取り組む前の状態は、その正反対だった。岡本氏は行政が直面する課題を次のように語る。「どの地方も同じだと思うが、採用者は減り、退職者は増えている。税収も減り、財政状況は悪化している。逆に、行政に対するニーズは多様化しており、職員の仕事は増えている。その結果、自ずと政策の立案にかける時間が圧迫されているのが実態だ。職員は疲弊している」(岡本氏)。
デジタルを活用してこの状況を改善し、まず職員のウェルビーイング(幸福)を実現する。そのうえで職員の仕事の質を上げて、県民目線の行政サービス向上を進めるのが、三重県のDXの考え方である。
では具体的にどう自治体DXを進めるのか。岡本氏は次のように語る。「DXの実現には2つの柱があると考えている。1つは何をおいても『人材の確保』。民間登用を含めた採用を進め、職員のDX人材への育成にも力を入れる。もう1つが『DXの基盤整備』だ。ネットワーク環境やPCの刷新を図り、統合プラットフォームも導入する。また、コミュニケーション基盤も新たに導入する。それがSlackの採用だ」(岡本氏)
コミュニケーション基盤導入の狙いは、古い業務プロセスの変革だ。岡本氏のチームでは「“昭和96年”からの脱却」と呼ぶ。これは平成から令和の時代になっても、県庁のワークスタイルが依然として昭和のまま変わっていないことを自虐的に表現したものだ。
「“平成35年”ではインパクトが足りないということで、“昭和96年”という表現になった。事実、対面会議や紙資料などが未だに残っており、欧米から大きな差を付けられてしまった。それほど行政のIT化は進んでいないという危機感をもってあたっている」(岡本氏)
改革の取り組みの中心が、Slackの試行導入である。試行期間は2021年8月から2022年6月末の予定で、現在も実施中である。デジタル推進局のワークスペースを設定し、局員全員の50名が参加している。岡本氏は、「メールに変わるツールとしてSlackを使うことで『意識の余白』を生み出し、本来の業務に集中することを目的としている」と語る。
三重県では8月27日から9月30日まで、コロナ第5波の影響で緊急事態宣言が発出された。その間、デジタル社会推進局の職員の在宅勤務率は90%に達していた。このテレワークの原動力となったのがSlackだ。宣言中、Slackは非常に稼働率の高い状態が続き、ピーク時には1日で734メッセージ(9月16日)を記録した。
やりとりに時間がかかるメールの代わりにSlackを使うことで、コミュニケーションロスが解消された。特に、テーマ別にメッセージをまとめて管理できるスレッド機能を便利に使っているという。また、チャンネル内ですぐに音声通話ができるハドルミーティングも利用が拡大している。「局内でも一時『今からハドりましょうか』というのが流行った」(岡本氏)。
局内で好評を得たことを受けて、11月からは庁内の希望する部署全てにSlackの試行導入を拡大することを決定した。コミュニケーションのデジタル化からはじまった三重県庁のDXは、着実に裾野を広げている。