このページの本文へ

なぜKubernetes/コンテナは重要なテクノロジーなのか 第5回

Kubernetesが高めるITスキルの価値

2021年11月16日 11時00分更新

文● 古舘正清/ヴィーム・ソフトウェア 執行役員社長(寄稿)

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 オープンソースでクラウドネイティブなコンテナ管理プラットフォームであるKubernetesは、開発、テスト、本稼働の各フェーズにおけるプラットフォーム間での一貫性をより高めたいと計画している企業にとって、大きな変革をもたらします。

 AIや機械学習に関して問われているのと同じ質問が、Kubernetesにもすでに投げかけられています。コンテナ化された環境を「オーケストレーション」し、管理を「自動化」する能力を持つKubernetesは、ITチームの役割を脅かし、チームを代替してしまうものになるのでしょうか? 考えるべきことは、新しいテクノロジーは機会を奪うのではなく、機会を生み出してきたという事実です。今回は、本連載第2回で紹介した、米Veeam Software シニア・グローバル・テクノロジストのマイケル・ケード(Michael Cade)とともに、Kubernetesが拓くITスキルの価値について考察していきましょう。

 IDC社が今年7月に発表した調査によると、開発者は、ITシステム導入の意思決定においてかなりの自由度、独立性、影響力を持つようになっています。70~79%の開発者はこの種の投資に対して、かなりの影響力がある、あるいは完全な影響力があると感じています。また、コンテナ技術の発展と業界の連携を支援する非営利団体のCNCF(Cloud Native Computing Foundation)の調査によると、世界には650万人のクラウドネイティブ開発者がおり、そのうちのおよそ270万人がKubernetesを使用しています。これは、ITチームがコンサルティングやサポートをする必要のある人材ベースのかなりの部分を占めていることになります。クラウドネイティブ開発者のベースも拡大していることから、実際には、これらの次世代技術が、IT管理およびソフトウェア開発業界の人材に取って代わるのではなく、さらに多くの人材を呼び寄せていることがわかります。

 開発サイクルの高速化と自動化が進展し、さまざまな場所でコンテナが稼働することによって2つのことを考える必要があります。それは「コスト」と「データ」です。しかし誰がこれらのプラットフォームのコストを管理・制限し、誰が膨大なデータを管理・保護するのでしょうか?その答えは、高度なスキルを持った人間以外にありません。

開発を民主化する

 今までの常識を覆すような他の破壊的技術と同様に、Kubernetesは教育とテストなしには導入と管理ができません。企業は、Kubernetesを導入して新しいことを試すという、刺激的でありながらも時にはフラストレーションのたまる段階にあります。ITチームがすでに目にしてきたのは、アプリケーションを構成するコンテナを論理的な単位にまとめたときに、Kubernetesがもたらす価値が中核的な機能の1つになるということです。アプリケーションを中心としたKubernetesのアプローチにより、ITチームは人的ミスのリスクなしにアプリケーションのデリバリーを加速および拡張することができます。つまりより速く、より大きなスケール、より高い精度でアプリケーションを提供できるのです。

 ケードは、さらに驚くべきことは、Kubernetesが可能にする事象より、もっと広いレベルで成果を生み出せるかもしれないということだと指摘します。基本的にKubernetesは、ソフトウェア開発者のためにインフラストラクチャを民主化し、コモディティ化する、最新のクラウドネイティブアプリケーションの中核として機能します。これにより、テクノロジーの次の段階に進むことができます。Kubernetesは、ほぼすべてのプラットフォーム上で動作します。また、同じアプリケーションをそれらのプラットフォーム間でほぼ自由に実行することを可能にします。

 この柔軟性によって、ITチームは、コンテナ、仮想マシン、クラウド、SaaS(Software-as-a-Service)に対して、別々の管理レイヤーを使い分けるのではなく、Kubernetesを使ってインフラストラクチャ全体を一元管理できるようになります。このような強力な管理機能は、インフラストラクチャに対して真のコントロールレベルを得られるという点で、ITチームにあらゆる影響を及ぼします。たとえば、企業がコストを管理し、関連するデータ規制を確実に遵守する方法が変わるかもしれません。それだけではなく、ソフトウェア、アプリケーションの開発サイクルの速さの面でも大きな意味を持ちます。これは、Kubernetesが企業のIT機能やITスキルの価値を大きく向上させる可能性があることを示す、ほんの一例にすぎません。

 金融サービス、小売、製造などの業界では、アプリケーション開発において、「誰が何をできるか」ではなく、「誰が最初にできるか」が問題となっています。誰が最も早くイノベーションを起こし、変化する市場の需要や、顧客の期待の変化に数か月ではなく数日で対応することができるでしょうか?このシナリオでは、ITがデータセンターから取締役室へと移り、すべてのビジネスの未来に対して戦略的に関与することになります。

ITスキルをアップする

 大きな力には責任が伴います。この機会を両手でしっかりと掴むために、ITチームはKubernetesがもたらす機会を最大限に活用する権限、ツール、スキルを身につける必要があります。インフラストラクチャ担当者は不安な気持ちになるかもしれませんが、組織として思い切って未知の世界に飛び込めるようにしなければなりません。そしてすでに多くの企業がこの挑戦に取り組み始めています。Veeamが今年9月に発表した「Cloud Protection Trends Report」によると、世界の61%もの企業が、すでに本番環境でコンテナを使用しているか、積極的にテストしている、あるいは来年中に使用する予定であることがわかりました。懸念を訴える一部の人々に対しては、とにかくどのプラットフォームに対しても、「それは何に基づき、どうすれば適切で必要なアーキテクチャを実現できるのか?」と最善を尽くして自問するようにと答えています。プラットフォームやインフラストラクチャのレベルから見ると、個々のアプリケーションに対処しようとしているのか、それとも物理層、仮想層、クラウド、Kubernetes、さらにより広範なクラウドネイティブエコシステムに関する特定の課題に対処しようとしているかは問題ではありません。いずれも長所と短所がありますが、だからといって最も重要なワークロードを最適なプラットフォームに移行することが妨げられるわけではないのです。このシナリオでは、「できるからといって、すべきだというわけではない」という古い格言がこれ以上ないほど当てはまります。

 Kubernetesがすでにもたらしている機会、そして今後もたらしうる機会を理解すると同時に、リスクのないプラットフォームは存在しないということにも留意すべきです。可用性やレプリケーションでは対処できないデータ損失のシナリオは、Kubernetesでも起こります。そのため、企業は依然として、広範なKubernetesアプリケーションスタックとデプロイメント手法に対応するバックアップソリューションを必要としています。たとえば、「Kasten K10 by Veeam」は、アプリケーションに焦点を当てて構築されたKubernetesネイティブソリューションであり、複数のクラウドやオンプレミスのクラスタで実行でき、データサービスに対応しています。より多くの「ステートフル」なコンテナアプリケーションが本番環境に導入されるにつれて、データを総合的に保護する必要性(つまり、単なるストレージリポジトリではなく、コンテナ内のネイティブなものを保護する必要性)が高まる可能性があります。それに伴い、サードパーティのネイティブに対するバックアップの必要性も高まります。

 バランスのとれた現実的な見方をすれば、Kubernetesとクラウドネイティブは、今日のすべての課題の解決策にはなり得ないでしょうし、それは将来も変わらないでしょう。しかし、ITチームは、十分な情報に基づいた意思決定を行うために、Kubernetesが何を可能にし、どのようなメリットがあるかを比較して理解する必要があります。それらは、私たちが長年使用してきたプラットフォームと比べて、怖くもなければ、理解するのが難しいものでもありません。既存のプラットフォームと同様に優れた機能を備えていて、かつ、今まで以上かもしれません。特定のシナリオでは上手くいき、他のシナリオには適さないこともあります。また、データが消失した場合に備えて、すべてのデータをバックアップして保護する必要があることに変わりはありません。アプリケーション開発サイクルのスピードと品質を向上させ、新機能、新サービス、新製品を市場に投入し、顧客に驚きと喜びを与えることに関しては、Kubernetesの可能性を最大限に引き出すことができるチームが大きな成功を収めることになるでしょう。Kubernetesが単にアプリケーション開発を高速かつ効率的にするだけでなく、同じプラットフォームを使用してビジネスの他の領域、仮想マシン、クラウドベースのIaaS、およびその他のワークロードをオーケストレーションするシナリオを想像してみてください。すべてが同じオーケストレーションエンジンから恩恵を受けることができるのです。

(寄稿:Veeam Software)

■関連サイト

カテゴリートップへ

この連載の記事