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世界1万人のナレッジワーカー調査、従業員は「働く場所/時間の柔軟性」や「透明性」を重視

ポストコロナの人材競争には「経営層の意識のズレ」を正す必要―Slack調査

2021年10月07日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 東京などで緊急事態宣言が解除され、宣言期間中にテレワークを実施してきた企業ではこれからの勤務体系をどうするのかの決断に迫られている。これからの働き方はどうなるのか? Slack Japanが発表した最新の調査からは、経営者と従業員の間にある大きな“意識のズレ”があらためて確認できる。

 Slack Japanは2021年10月5日、Slack内のシンクタンクであるFuture Forumがまとめた最新のグローバル調査報告書を発表した。セールスフォース・ドットコム Slack アライアンス本部 シニアディレクターの水嶋ディノ氏は今回の調査結果から、ポストコロナ(コロナ禍以後)の大きな課題は人材獲得や人材定着であり、その競争を勝ち抜くには企業が「柔軟な働き方」「インクルージョン」「透明性」を実現することが重要だと説明している。

最新版Future Forum Pulseレポート(2021年7~8月調査)の調査結果サマリ

セールスフォース・ドットコム Slack アライアンス本部 シニアディレクターの水嶋ディノ氏

経営層の75%は「週3~5日はオフィスに戻りたい」、だが従業員は……

 Future Forumは、Slackがコロナ禍真っただ中の昨年(2020年)、「未来の働き方」を探る目的で設立した組織で、四半期に一度「Future Forum Pulse」レポートを発行している。今回の調査は2021年7月末から8月にかけて、世界6カ国/1万人以上のフルタイムナレッジワーカーを対象に行った。回答者の半数が米国だが、残りは日本、オーストラリア、フランス、ドイツ、イギリスが約1000人ずつ参加している。

 現在テレワーク中の人にオフィス勤務へ戻ることについて尋ねたところ、「週に3-5日はオフィスに戻りたい」とした回答者は経営層で75%に達したのに対し、従業員は34%にとどまった。

 水嶋氏は、この結果から「オフィス勤務に戻ることに対して、経営層と一般従業員の意向に大きなズレがある」と指摘する。

 さらにこのズレを解消することが、ポストコロナの人材獲得において重要なポイントになるとの見解も示した。今回の調査ではグローバルで57%の従業員が「1年以内に新しい仕事を探す可能性がある」と回答、この比率は3カ月前の前回調査から増加しているという。

「1年以内に新しい仕事を探す可能性がある」従業員が前回調査よりも増加。企業は人材獲得や定着に取り組む必要がある

 これに関連し「仕事の満足度につながる要素」として、テレワークができるなどの「柔軟性」が、「報酬」に次ぐ2番目に挙がっていることも紹介した。また76%が「働く場所」の柔軟性、93%が「働く時間」の柔軟性を欲しいと回答しており、場所と時間にとらわれることなく働く「柔軟な働き方」への強いニーズが浮き彫りになった。

 オフィス勤務については、国別の調査結果も紹介した。日本は「毎日/オフィスのみで勤務したい」という回答者が31%と、6カ国中で最多。それに次ぐ「ほぼ毎日(週に3~4日間)」も23%を占め、今回の調査において、この設問が最も他国との違いが出たところだという。

設問「週に何日間程度オフィスで勤務するのが理想的か」。日本の31%は「毎日」でもオフィス勤務したいと考えている

 ただし、日本のナレッジワーカーがオフィスに十分満足しているわけでもないようだ。「職場環境に対する全体的な満足度」をリモート/ハイブリッド(リモート+オフィス)/オフィスという勤務体系ごとにスコア付けした調査から日本の回答者のみを切り出すと、リモートが18.7、ハイブリッドが7.7、オフィス勤務が1.1という結果だった。満足度につながる7つの要因を個別に見ても、すべてリモートの満足度が最も高く、オフィスの満足度が最も低い。

日本で勤務場所別に「満足度」をスコアリングした結果。右下の「全体的な満足度」をはじめ、すべての項目で「リモート」が「オフィス」を上回る

柔軟な働き方は職場のインクルージョンを促進する

 同調査からは、柔軟な働き方ができる職場環境が「インクルージョンを促進する」ということもわかった。インクルージョンは「組織内の誰もがビジネスの成功に参画/貢献する機会があり、個々人に特有の経験やスキル、考え方が認められ、活用されている状態」を指す言葉だ。

 リモートワーク中の回答者のうち、女性の85%、男性の79%が「より柔軟かつハイブリッドな働き方」を希望している。特に「子育て中の人はこの要素を重要視している。(働き方の)柔軟性は重要なポイントだ」と水嶋氏は強調する。

 それでは、冒頭で紹介した「オフィス勤務に戻すこと」に対する経営層と従業員の意識のズレを分析すると何が言えるのか。今回の調査では、現在リモートワークを実施している回答者中、44%の経営層が「フルタイムのオフィス勤務」に戻すことを望んでいるのに対し、そう考える従業員は17%と、わずか3分の1にとどまることがわかっている。

「完全オフィス勤務を望む」意識において、経営層と従業員には大きなギャップがある

 水嶋氏は、経営層と従業員のこうしたズレを招いている要因として、次の3つを挙げた。

(1)仕事への満足度の相違
(2)偏った意思決定プロセス
(3)透明性の欠如

 (1)については、経営層における仕事の満足度のほうが従業員よりも高いことがわかっている。(2)は「ポストコロナの働き方をどうするか」という会社の意思決定プロセスに、従業員が関与できていないという指摘だ。実際に、調査では「経営層のみで話し合っている」と回答した経営層が66%に上った。また、従業員の意見を比較的よく理解している人事責任者(CHRO)がその意思決定プロセスを主導している企業はわずか3%にとどまる。

 この(2)に関連するのが(3)だ。ポストコロナのリモートワーク方針について、経営層の66%は「透明性が非常に高い」と自負しているが、従業員は42%しかそれに同意していない。水嶋氏は、経営層はこれからの働き方の方針について社内全体への透明性を高め、従業員とのつながりを築く必要があるとアドバイスする。

 調査結果のまとめとして水嶋氏は、ポストコロナで予想される人材獲得競争に企業が勝ち残るためには「柔軟性を備える」「インクルージョンを育み奨励する」「透明性を高めてつながりを築く」という3つが重要だと述べた。

人材競争に勝つためには「働く場所」「働く時間」の両方で柔軟性を持つことが重要だと指摘

 自身も管理職という立場から、水嶋氏は「コロナ前にうまくいっていた方法に戻りたいという気持ちはわからなくもないが」としながらも、労務管理の方法を変えていく必要があると説明した。「働いた時間(の長さ)で管理するのではなく、仕事の成果を計るような生産性の管理手法を取り入れなければ、以前の働き方管理手法に戻ってしまう」(水嶋氏)。

 また、リモートワークを支援する仕組みとしてITツールの導入が重要であることは間違いないが、「会社の構内ネットワークにつながなければ仕事ができない、といったオフィス出勤が前提のデジタル環境であれば、場所と時間にとらわれない働き方はサポートできない」と述べ、単にITツールを導入するだけでは不十分であることを強調した。

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