業務を変えるkintoneユーザー事例 第120回
情報システム部と違うICT推進部がkintoneで現場課題を解決
高田工業所がkintoneで挑んだ「サイボウズのようになれるか?」というテーマ
2021年10月06日 10時00分更新
kintoneユーザーの事例を発表する「kintone hive fukuoka 2021」の事例講演、ラストバッターは高田工業所の松本次郎氏になる。「高田工業所は、Cybozuになれるのか?」という斬新なタイトルで、kintoneによるシステムを活用したトランスフォーメーションをわかりやすく解説した。
情報システム部とは異なるICT推進プロジェクトが挑む企業の改革
高田工業所は北九州市に本社を置く建設会社で、国内外のプラントの建設やメンテナンスを手がけている。従業員は1500名規模。昨年、創業80周年を迎え、20年後の100周年までにどのような会社に成長しているかを若手が提言するというプロジェクトも実施したという。松本氏は、そんな高田工業所のICT推進部の責任者として、各部の課題ヒアリングや業務改善を洗い出す役割を果たしている。
さて、kintone導入前の課題として、コーポレートガバナンス機能の再構築、コンプライアンス意識の醸成、透明性の高い業務プロセスの再構築などを推し進めた結果、会社全体が「なんとなくシュリンクしている雰囲気」があった。どちらかというと後ろ向きの施策が多かった中、今後はICTをイノベーション手法として、付加価値の高い業務へのシフト、企業風土や働き方の改革を進めていくことになった結果、ICT推進プロジェクトがスタートしたという。
もともと社内にはICT導入を担う情報システム部があったが、4年に1度の基幹システムの更新作業のために、つねに忙しいという課題があった。当然、数年後の作業完了まで待てないため、ICT推進プロジェクトが自ら手を動かすことにした。そして、ICT化に取り組むためのキーワードが、すぐにシステムを使うための「サブスクリプション」、外部からアクセスするための「クラウドサービス」、内製化を実現するための「ローコード」、そして迅速な開発を進めるための「アジャイル」という4つだった。これらのキーワードからkintoneの出会いにつながる。
「私のkintoneとの出会いはサイボウズのセミナー。有給申請のアプリをものの数分で作ってくれたのに驚いた。SEじゃなくても、システムが作れるのがよいと思った」と振り返る松本氏。さっそく社内で説明会を実施して、導入にこぎ着け、アカウントを作成してみたものの、目の前の仕事に忙しい現場はなかなか使ってくれなかった。高田工業所でも最初は旗振れども現場が動かずという「kintoneあるある」からスタートした。
Garoonをポータルにkintoneによる営業管理システムを構築
そこで、松本氏は営業本部に解決したい課題をヒアリングするスタイルに変更した。具体的な作戦としては、まず営業本部長のバックアップを得るようにしたほか、kintoneの設計思想を理解すべく、経営陣や幹部をサイボウズ本社へ見学に連れて行った。また、現場で利用できるよう費用をICT推進部が負担することとし、7割の完成度でも充分使えるkintoneのメリットを説いたという。そして、営業本部には、「過去に解決しなかった課題がkintoneなら解決できる」と説明し、kintoneシステム化の了解を得た。
とはいえ、実行にあたっては社内のSEリソースが不足しているという悩みを抱えていた。これに関しては、松本氏の長年の知り合いであるインフォメックスの奥田健寛氏が実はサイボウズの「セールスアドバイザー・オブ・ザ・イヤー 2017」を受賞している猛者だったという逸話があった。「『サイボウズのkintoneすごいよね』と話していたら、『実は私、kintoneけっこう詳しいです』という答えが返ってきた。『早く言ってよー』といった感じでした」(松本氏)。
過去の営業履歴をより活用したいという要望に応え、営業支援システムとして構築したkintoneのシステムは、基幹システムのデータを活用しつつ、スケジュール管理を行なうGaroonと連携するものとなった。
Garoonはポータルサイトとして機能し、登録された情報を一元的に可視化できる。kintoneは営業情報を溜めるアプリと、活用するアプリの2つを作成した。名刺管理の「ホットプロファイル」と連携して、最新の名刺情報を得られるほか、基幹システムとの連携で最新の工事情報もkintoneから確認できるようになった。
また、営業活動報告面談メモアプリでは、これらGaroonのスケジュールや名刺情報、工事情報を利用することで、作業時間も大きく短縮できた。kintoneが得意なデータの取得、ルックアップ、関連レコードなどを活用しつつ、帳票出力プラグインの「RepotoneU」を用いることで、レポートを簡単に作ることが可能になった。
こうしたkintoneのシステムについて、営業本部長からは「アイデアさえあれば非常に速くアプリが開発できる」という評価を得る一方、「kintoneを用いた改革に意欲のある者とそうでない者の差は、従来に比べて加速度的に拡がっていく」というコメントも得られた。「システムを作っている立場としてはうれしく感じる反面、ドキッとしました。みなさんはどうお感じになりますでしょうか?」と松本氏は聴衆に問いかける。
続いて決算や棚卸しを効率化したいという調達部の課題を解決したkintoneの活用法も披露された。こちらは固定資産をkintoneで管理するもので、ブラザーのラベルプリンターからQRコードを出力し、固定資産に添付。作業員は、これをスマートフォンで読み込み、kintoneアプリから登録すれば資産の登録は完了する。kintoneでは、元々持っている固定資産管理データと、新たに登録された資産のデータを照合すれば、棚卸しは完了するわけだ。
kintoneで未来を見据えている会社にトランスフォーメーション
こうしてkintoneのシステムが利用されるようになると、事務作業の削減はもちろん、よい情報も、悪い情報も包み隠すことなく社内で共有されるようになった。情報共有が進むと、コミュニケーションが促進され、安心感が生まれ、意識も統一されるようになる。当初目指していた風通しのよい職場が実現されるようになり、企業風土も変わっていったという。
成果を感じ始めた最中に起こった今回のコロナ禍でもkintoneは活躍した。テレワーク中に営業本部からの依頼があったアプリは30分で作成完了。標準機能を使って、コロナウイルスの対応状況や指示事項を共有するアプリ、そして工事情報への影響を営業本部で共有するアプリを作り、テレワーク下でもきちんと情報共有ができた。
現在、同社は11のプラグインを用いて、162のアプリが社内で運用されている。ポータルとしてのサイボウズGaroonとアプリ開発を行なうkintoneは、社内のインフラ基盤として全面採用。ここに至るまで、ICT推進部がアクセル、情報システム部がブレーキの役割を担うことで、攻めと守りを組み合わせて、同じゴールに向かうことが可能になったという。また、基幹システムとkintoneに関しても、「トップダウンとボトムアップの関係で、全社システムの中でうまく共存できる」と松本氏はコメントした。
最後、松本氏は「kintoneを使うとこでデジタルトランスフォーメーションは始められます」とアピール。その上で、kintoneを作っているサイボウズは「新しいことにチャレンジする、チームワークがいい、未来に向かって取り組んでいる」というイメージであり、そんなサイボウズが開発したkintoneは未来を見据えている製品だと評価する。「高田工業所は、Cybozuになれるのか?」というタイトルも、そんなサイボウズのような会社になれるのかという問いかけであり、そのトランスフォーメーションのツールがkintoneという気づきだったわけだ。最後、松本氏は「kintoneを使って、未来を見据えている会社にいっしょにトランスフォーメーションしていきましょう」と講演を締めた。
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