ほんの数年前までは、SSDといえばSATA接続が主流だった。性能面ではNVMeに対応したPCI Express(PCIe)接続のM.2 SSDのほうが圧倒的に高速だが、そのぶん価格も高いのがネックで、搭載できたのがハイエンドモデルに限られていたからだ。
しかし、PCIe接続のSSDが低価格化していくと、徐々にシェアを拡大。今ではほとんどのPCで、PCIe接続のSSDが使われるようになってきている。ここで気を付けたいのが、ひと口に「PCIe接続」といっても、さまざまな速度の製品が存在していることだ。
特にややこしいのが、インターフェースに違いがある事。PCIe接続のSSDが出た当初は、リビジョン3.0……「PCIe 3.0(PCIe Gen 3)」しかなかったが、今では速度が2倍に高速化された「PCIe 4.0(PCIe Gen 4)」の製品も登場している。
また、PCIeは複数のレーンを束ねて高速化できるため、これも明記されていることが通常だ。4つのレーンを使った「×4」が一般的だが、廉価な製品の中には2つのレーンしか使わない「×2」もある。インターフェース速度にどのくらいの違いがあるのか、転送速度の理論値を簡単にまとめてみたのが下の表だ。
接続方法 | 転送速度(理論値) |
---|---|
PCIe 3.0×2 | 約2GB/s |
PCIe 3.0×4 | 約4GB/s |
PCIe 4.0×2 | 約4GB/s |
PCIe 4.0×4 | 約8GB/s |
ただし、この転送速度はあくまで理論値。常時100%無駄なく使えることはないため、およそ8~9割くらいが転送速度の実質的な上限となる。
もちろんSSDの速度は、PCIe接続の転送速度だけで決まるわけではない。採用するフラッシュメモリーやコントローラーによっても大きく速度が変化するからだ。
Western DigitalのSSDで現在人気のある「WD Blue SN550」(PCIe 3.0×4)、「WD_BLACK SN750 SE」(PCIe 4.0×4)、「WD_BLACK SN850」(PCIe 4.0×4)の3つを例に、インターフェースと速度の違いを見てみよう。なお、ここではそれぞれの1TBモデルをスペックで比較している。
製品名 | リード最大 | ライト最大 | 実売価格 |
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WD Blue SN550 WDS100T2B0C (PCIe 3.0×4) |
2400MB/s | 1950MB/s | 1万2000円前後 |
WD_BLACK SN750 SE WDS100T1B0E (PCIe 4.0×4) |
3600MB/s | 2830MB/s | 1万4000円前後 |
WD_BLACK SN850 WDS100T1X0E (PCIe 4.0×4) |
7000MB/s | 5300MB/s | 2万8000円前後 |
WD Blue SN550とWD_BLACK SN750 SEは、インターフェースの転送速度が約2倍違うものの、読み込み/書き込みの差は約1.5倍。また、同じPCIe 4.0×4のWD_BLACK SN750 SEとWD_BLACK SN850では、インターフェース速度が同じなのに、速度は2倍近い差があることがわかる。
実際SSDを購入しようとする場合、この速度に注目すれば、WD_BLACK SN850を選ぶのが正解になるだろう。しかし、実売価格を見て欲しい。いくら高速とはいえ、WD_BLACK SN850は他より2倍以上も高いのだ。
WD_BLACK SN750 SEを中心に見ていくと、性能はWD_BLACK SN850の半分以上ありながら、価格は約半額。また、WD Blue SN550より2割も高くないのに、性能は約1.5倍となっている。つまり、少ない追加投資で最大の速度強化が行なえるという、コストパフォーマンスに優れたモデルということになる。
こうして考えてみると、PCIe 4.0×4のSSDとしてはそこまで速くはないものの、なかなか気になる製品だ。このWD_BLACK SN750 SEのパフォーマンスがどのくらいなのか、もう少し細かくチェックしていこう。
3つのSSDを使って実速度比較! 公称速度とどこまで変わる?
今回「WD_BLACK SN750 SE」の比較対象として用意したのは、先に公称速度の例で挙げた「WD Blue SN550」と「WD_BLACK SN850」。この3つのSSDで実速度がどのくらいなのかを見ていこう。
まずは定番となる「CrystalDiskMark」。条件を変えた4種類の速度(それぞれリード、ライトがあるため合計8種類)が測れるベンチマークソフトだ。条件はデフォルト(データは1GiBとし、5回計測した最大値)とし、このテストを3回以上行ない、値が中央となっていた回の結果を採用している。
なお、テスト用としてPCIe 4.0×4対応のインテル製小型PC「NUC11PAHi5」を使用。CPUにCore i5-1135G7を採用した小型のベアボーンキットで、8GB×2のメモリー(DDR4-2666)を搭載したうえで使用した。
グラフ化して比較すると、WD_BLACK SN850がいかに高速かがよくわかる。これには見劣りするとはいえ、WD Blue SN550に対してWD_BLACK SN750 SEは明らかに速く、価格差を考慮すればかなり魅力的な選択肢となってくれるのは間違いない。
これはストレージ単体での速度比較だが、実際、アプリを使った場合の速度はどうなるだろうか。これを調べるため、総合ベンチマークソフトの「PCMark 10」を使い、「Essentials」に含まれる「App Start-up Score」を比較してみた。
この値はその名の通り、アプリの起動時間から算出されたスコアーで、数値が高ければ高いほど高速となる。
最大速度となるシーケンシャルアクセスと違い、細かなデータへのアクセスが増えるアプリ起動速度では、思っている以上に差が出にくい。多少違いはあるものの、どれも違いは誤差の範囲。測るたびにスコアーが上下し、勝敗が入れ替わってしまっていた。当然ながら、明らかに体感できるような速度差はない。
もう1つ実速度として、ゲームのローディングタイムをチェックしてみよう。「ファイナルファンタジーXIV: 暁月のフィナーレ ベンチマーク」(以下、FF XIVベンチ)は、3Dグラフィック性能だけでなく、各シーン開始時のデータロードにかかる時間も記録できる。この機能を使い、合計ローディングタイムに変化があるのかを調べてみた。
なお、ローディングタイムはキャッシュが効くようで、連続して実行すると短縮されていた。そのため毎回PCを再起動し、最初の1回目の時間を3回計測し、その平均値で比較している。また、ベンチマークの設定は、画質を「最高品質」、解像度を「1920×1080」としている。
WD_BLACK SN750 SEとWD_BLACK SN850の差はほとんどないものの、WD Blue SN550より約1.5秒ほど高速化していることが確認できた。時間にするとわずかとはいえ、PCMark 10のスコアーと違ってブレが小さく、確実に待ち時間が減っているというのは間違いない。
扱うデータが大きくなるほど、ローディングタイムも長くなりがち。大型タイトルをよく遊ぶというのであれば、高速なSSDほど待ち時間は短くなっていくだろう。