買収完了に伴い両社サービス間の密な連携による新たな機能、新たな働き方を紹介
SalesforceとSlackが統合で目指す“デジタルHQ”とは何か?
2021年08月20日 07時00分更新
Slack Technologiesの買収を完了した米Salesforce.comが、両社製品の連携プランについて初めて明らかにした。目指すのは“デジタルHQ(デジタル本社)”。すでにIBMなどの共同顧客が、実現に向けて歩み始めているという。
Salesforce.comが約277億ドルでSlackを買収することを発表したのは2020年12月。買収取引は2021年7月21日に完了した。2社は米国時間の8月17日、買収完了後初めてのオンラインイベントを開催し、2社の合併によって実現する未来を語った。
「世界ナンバー1のCRMと、働き方を変えたSlackが合体する」
Salesforce.comのプレジデント兼COO、ブレット・テイラー氏はまず、「世界ナンバー1のCRM企業と、働き方を変えたSlackが合体する」と両社のポジションを説明する。2社の合併で目指すものは「デジタルHQ」。テイラー氏は、「デジタルセールス、デジタルカスタマーサービス、デジタルコマース、デジタルマーケティングを支援するプラットフォーム。従業員、パートナー顧客がどこにいても、成功と成長に必要なツールが揃っている」と説明する。
Salesforce自身もすでにSlackを活用して、働き方を変えているという。例えば、あらゆる従業員がアプリにログインすることなくHR(人事)と直接やり取りできるアプリをSlack上で構築しているほか、顧客サポートチーム、財務部門などでもSlackを活用しており「四半期決算(の業務)もSlackで行った」という。
Slackを2009年に共同創業し、CEOを務めるStewart Butterfield(スチュアート・バターフィールド)氏は、Salesforceに加わることを決めた理由として、顧客の成功、イノベーション、イクオリティといったSalesforceが掲げる価値観との一致、そして2つの(両社の)プラットフォームが持つパワーを挙げた。「2つのプラットフォームを相互接続することで、顧客をエンパワーし、既存の投資やソフトウェアからさらなるバリューを引き出すことができる」とバターフィールド氏は語る。
Salesforceは以前から、顧客に関するあらゆるデータを1カ所に集めて、顧客を“全方向”から捉える「Customer 360」を提唱してきた。Slackが合体することで、このコンセプトは「Slack-First Customer 360」に進化するという。
これは従業員、パートナー、顧客などが、すべてデジタル化された環境でCustomer 360を実現するというもので、Slackを中心にデジタル顧客サービス、デジタルセールス、デジタルコマース、デジタルマーケティングといった機能を構築する。
「すべてがデジタル化され、どこからでも働くことができる世界になった。そうした世界の中で、SlackとCustomer 360によって成長し成功するためのデジタルプラットフォームを構築できる。これが『デジタルHQ』という言葉の意味するところだ」(テイラー氏)
Marketing Cloud、Sales Clod、TableauなどとSlackを連携
この日は、Marketing Cloud、Tableau、Sales Cloud、Service CloudといったSalesforceの製品とSlackの機能連携について紹介した。
Marketing Cloudでは、Tableauを使ったマーケティングキャンペーン動向について、たとえば「キャンペーンを強化する必要がある」といったインサイト(洞察)がSlackで担当者に届くよう、自動アラートを設定することができる。もちろん、このインサイトに基づいてSlack上の議論をしたり、「ハドルミーティング」機能を使って簡単なミーティングをしたりすることもできる。
Sales Cloudでは、営業担当は毎日、自動化されたその日のサマリを受け取ることができる。その日のタスクやミーティング、優先させるべき案件などがまとまったものだ。
また「Deal(取引)」「Account(会計)」といったSlackチャンネルを作成し、各営業サイクルに関連する各部署の担当者がそこに集まることで、営業担当者はスムーズにコラボレーションを進めることができる。さらにSlackのワークフロービルダーを利用すれば、特定のワークフローを自動化することも可能だ。
Service Cloudでは「Swarm」や「Expert Finder」などの連携機能が加わる。顧客対応中に何か問題が発生した場合、SlackチャンネルにSwarm(ケース)を作成して必要な情報を入力し、Expert Finderを使って問題解決に必要なスキルや知識を持つ社内のエキスパートを探すことができる。顧客の単一ビューがあるため、ケースが作成されると解決されるまではその顧客に対するマーケティングやセールスのメール配信は停止され、営業担当者にも自動で連絡が届く。
「デジタルへの置き換えではなく『変革』を」
これらのデモは、SalesforceとSlackの共同顧客であるIBMを想定して行われた。リモート参加したIBM 会長兼CEOのアービンド・クリシュナ氏は「コロナ禍の前から働き方の変革を進めていた」と明かす。
IBMでは4年前にSalesforce Service Cloudを導入した。Slackについても「4~5年前から社内でSlackを使う社員が増えたので、標準ツールとして採用した」という。現在はグローバル35万人の社員が利用しており、1日1600万件のSlackメッセージが行き交っているという。
Slackのメリットの1つとして、「履歴が残ることから学びを共有できる」ことをあげた。Slack botの活用も盛んだという。
同社の社員はリアク字(リアクション文字)や絵文字を積極的に利用しているという。「Slackは生産性を改善するだけでなく、使うことが楽しい」とクリシュナ氏は述べた。
Salesforceのテイラー氏が強調するのは、デジタルへの置き換えではなく「変革」を起こすことだ。「コロナ禍によって働き方の変更を余儀なくされたが、重要なことはデジタルに変えることではなく、デジタルで変革すること」(テイラー氏)。その例としてオンライン会議を挙げ、会議の代わりにオンライン会議を選ぶのではなく、「非同期コミュニケーション」という変革を実現するSlackが重要な役割を果たすとした。