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業務を変えるkintoneユーザー事例 第113回

より多くの人を笑顔にできる業務改善を進めた日本エイジェントのやり方

kintoneで受付業務の業務改善とペーパーレス化を実現! 愛媛の不動産会社が始めた不動産DX

2021年08月06日 10時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 2021年6月16日、愛媛県松山市のWstudioREDにて「kintone hive matsuyama」が開催された。kintone hive(キントーンハイブ)は、kintoneを業務で活用しているユーザーがノウハウや経験を共有するイベントだ。全国6ヵ所で開催され、その優勝者がサイボウズの総合イベント「Cybozu Days」で開催される「kintone AWARD」に出場できる。

 登壇したのは5社で、今回は4社目に登壇した株式会社日本エイジェントの経営企画推進室 戸田昭仁氏のプレゼン「kintoneを活用したNo.1業務改善」の様子を紹介する。

日本エイジェントの経営企画推進室 戸田昭仁氏

愛媛県の不動産会社の悩みは受付と紙での管理

 日本エイジェントは愛媛県で1981年に創業した不動産会社。今年1月に創業40周年を迎えている。従業員は149名で、賃貸の仲介や管理業務を手がけ、松山周辺で1万3422戸を管理しており、愛媛エリアではNo.1となる。賃貸の仲介も1年間で5552戸でこちらも中四国エリアでNo.1となっている。

エリアNo.1の実績を残している日本エイジェント

 kintone導入前の課題は大きく2つあった。管理物件の解約業務において、受付がスムーズにできていない点と、すべての業務を紙で管理していた点が問題だったという。

「当社の解約は電話で受付ができませんでした。入居時に渡してある解約通知書に名前と解約時期、アンケートの回答などを書いて、郵送もしくは持参してもらって、初めて解約を受け付けができます」(戸田氏)

 とは言え、入居後何年も経ってからだと、当時の書類をなくしてしまう人も多い。そんな時は、電話で連絡を受け、解約書類と切手を貼った返信用の封筒を郵送し、記入後に送り返してもらっていた。そして、到着した書類を見て、システムに入力していた。この一連の作業のコストと手間は大きな負担になっていたのだ。

解約通知書は入居時に渡していた

書類の紛失、郵送のコスト、システム入力の手間といった課題があった

 社内の業務をすべて紙で管理していたため、手続きに時間がかかるという課題もあった。解約通知書を受け付けてデータをシステムに入力し、退室精算明細書を作成・印刷する。この書類を社内便で退去立ち会い担当に回し、立ち会いし、リフォームの情報を手書きして、最後に精算担当が精算処理をするという流れになっている。

「全部社内便で回すのですが、けっこう時間がかかるのです。手書きが手間ですし、字が下手だと文字が読みにくいということもあります。当社は1~3月が繁忙期ですが、この時は書類の山ができます」(戸田氏)

退室精算明細書を社内便で回し、手書きで書き込んでいた

社内便の時間、手書きが手間、書類の山という課題があった

 1年ほど前、同社はちょうど基幹システムの入れ替えを行なっていた。その時に入っていたコンサルタントに相談したところ、基幹システムの入れ替えだけで、解約受付の細かな業務フローを改善するのは難しいと言われたそう。その代わりに、kintoneを使った同業他社の導入事例を教えてもらい、戸田氏は「うちでもやれるんじゃないか」と考えたそうだ。

 同社ではサイボウズOfficeを使っているので、同じサイボウズ社製ということでkintoneも感覚的に使えるのではないか、と期待したそう。また、社内便もkintoneに置き換えられそうなのも決め手の一つとなった。

「実はこの機会に、私たちの仕事のやり方も変えようと決めました。解約業務に関わるすべての人を巻き込み、自分たちが目指す業務改善を実現させていこうと思ったのです。やったことに対する効果が高く、やりがいが持てて、より多くの人を笑顔にできる業務改善をしていこう、と決めました」(戸田氏)

部分最適より全体最適を目指す業務改善へ

 戸田氏は部分最適ではなく、全体最適という考え方で業務改善に着手した。部分最適だと、「会社全体はよくなったが、私たちの部署は大変になっただけだよね」と不満が生まれることもある。「現場のことを知らない人間が、何を言っているんだ」と言われることもある。これは「業務改善で誰もがぶつかる壁」だと戸田氏は語る。

「だいたい、ここでストップします。業務改善で一番難しいところが、人間の感情なんです。そこで、私は誰もできない、この業務改善をやり、ダントツの結果を出していこうと考えました」(戸田氏)

業務改善は部分最適ではなく、全体最適で行おうと決めた

 まずは、第1回目の打ち合せを行い、参加者の1人に言いたいこと言えましたか、と聞くと、半分も言えなかったという。そこで、来週も会議があるので、その時に全部言おうと言ったところ、「会社がやっと私たちに目を向けてくれた」という反応があったという。解約受付の担当者も、これまでも現場でいろいろな改善をしてきたのだが、それを会社が見てあげられていなかったのだ。

 会議を重ね、kintoneでシステムを作り上げた。フォームブリッジというプラグインを利用し、解約通知書を同社のウェブサイトで受付できるようにしたのだ。さらに、社内を回っていた退室精算明細書もkintoneで作って、運用することになった。kintoneで検索できる仕組みを作ったので、社内便が不要になった。

 基幹システムに保存されている建物や顧客の情報をkintoneに二重入力するのは手間がかかるし、ミスも発生する。そのため、無料で使えるコマンドラインツールを利用し、1日1回、情報をコンバートするようにした。

部署間の社内便をkintoneアプリに置き換えられた

 導入効果はあったのだが、「10数年間も紙を使って運用していたのに、今更なくされても困る」とか、「紙を残して欲しい」「紙の方がいい」などといろいろと声が寄せられたのだ。

「正直、何か間違ったことをしたのだと思っていました。現場にとって大切なものを見落としているのではないかと考えて、つらかったです。そんな時に、kintoneに積極的な社員から、運用がスタートしているので、やると決めたんだったら、やってくださいと言われました。自分自身の感情も超えていかなければいけないな、と感じました」(戸田氏)

 以前は紙1枚なので視認しやすかったのに、kintoneの画面をスクロールしたくない、という人もいた。そこで、JavaScriptを使い、画面をタブで切り替えられるようにした。簡単に移動できるように、ボタンも設置。楽に検索したいと言うので、簡単検索プラグインを入れたり、データをまとめて修正したいというので、一括レコード更新プラグインも導入した。

社員の要望に応えるためにいくつものプラグインを導入した

 精算処理では、紙の時代からお金の記入ミスが多かったそう。しかし、紙の時は横に注意書きを書いたりして、ミスを発見できた。kintoneになると、そんなアナログさがなくなるので、担当者は間違いが起きるかどうか不安で仕方がないという。しかし、このままでは完全に業務が属人化してしまう。

「それどうするんですか、次の人に引き継げますか?と聞くと、できませんと。だったら、ここでやれるようにしていきましょう、と特に彼女には親身につきあって、改善を進めました」(戸田氏)

デジタル化の土俵ができた 改善を続けることで競争優位な状態へ

 2020年11月からkintoneによる業務改善をスタートし、現在までのウェブサイトからの解約受付は768件、Web退室明細書の作成は1688件という実績を出し、実運用に乗せることができた。

 導入効果も大きかった。返信用封筒に切手を付けて送る作業が減り、年間17万円削減できた。アンケート回答の入力は、ウェブサイトで受付できるのでゼロになった。精算作業も62.5%削減でき、処理後には明細書をスキャンして物件に紐付けていたが、この作業も不要になった。

 さらに、簡単に検索できるので、大量の書類の中から書類を探すという作業がなくなった。以前は2~3日かかっていた社内便も不要になり、リアルタイムで検索できる。紙のままだと自宅に持ち帰ることはできなかったが、kintone上で仕事ができるようになり、テレワークも実現したという。

kintoneの導入で大きな業務改善を実現できた

「業務を一気になくしていくことができました。デジタル化の土俵ができたので、メールやショートメールを送りたいとか、入力したデータを基幹システムでも見えるようにしてほしい、など紙の時にはなかった言葉が現場からたくさん出てきました。未来の可能性を作り上げられたと思っています」(戸田氏)

 解約受付の業務改善が成功したので、他の部署の業務改善にも活用しはじめた。建物の巡回点検でも以前は紙を使っていたが、アプリを使って報告できるようにしたり、社宅の契約を今まではFAXやメールで行っていたところを、kintoneのゲストユーザーを使って情報をやりとりをするようになった。

「kintoneを使って業務を改善し、皆さんの新しい価値をどんどん作っていきます。お客さまはいろいろなサービスを受けて、お部屋を決めていただけます。精算までの時間を短くすることで、オーナー様の収益アップにもつながります。そして、その土俵の上で、さらに改善を続けることで不動産会社として競争優位な状況をつくることができます。そして、一番大切なのは、しっかりと仲間の声を聞いてあげることです。そうすることで、不動産DXを達成できると思っています」と戸田氏は締めた。

kintoneで付加価値を高め、不動産DXの実現を目指すという

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