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業務を変えるkintoneユーザー事例 第108回

ヤンマーエンジニアリングで試したkintoneへの巻き込み方

社内にkintoneを広めるなら、点から面への働きかけが効果あり!

2021年07月01日 09時00分更新

文● 柳谷智宣 編集●MOVIEW 清水

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 2021年4月21日、大阪のなんばHatchにて「kintone hive osaka vol.9」が開催された。今回は5社がエントリーし、今回はトリを務めたヤンマーエンジニアリング 企画管理部 企画管理G 紀平智志氏によるセッション「チームの改善→会社の改善風土づくりへ~社内展開に悩んだら~」の様子をレポートする。

ヤンマーエンジニアリング株式会社 企画管理部 企画管理G 紀平智志氏

時間がかかりすぎる資料作成に課題

 ヤンマーエンジニアリングは1958年に設立され、兵庫県尼崎市に本社を置いている。ヤンマー製船舶エンジンの修理や部品を販売しており、アフターサービスに特化した業務を手がけている。人員は232人で、国内外に多数の拠点を持つ。その中で紀平氏は2018年に中途入社し、企画管理部として経営層への報告や営業活動決裁などによる管理業務を行なっていた。

 以前の企画管理部では、月が明けた段階で、前月のデータを集計・分析して資料を作成していた。その後、各拠点にヒアリングして、内容を報告。その内容を元に、月の最後に経営会議で意思決定が行なわれていた。当時のカレンダーを見ると、最初の2週間は資料作成に追われていたことがわかる。

 資料作成に稼働日の多くが費やされることで、拠点へのヒアリングが十分に取れなかったり、検証や分析が不十分になり、経営層の知りたい情報を提供できず、意思決定の遅れなどの影響をきたす恐れが出てきたという。

2018年4月当時は月の前半は資料作成と拠点へのヒアリングに追われていた

「そこで、特にExcel資料の作成と配信、拠点へのヒアリングによる情報収集の部分をなんとかしたいと考えました」(紀平氏)

財務情報と経営情報を集めた2つのスペースをkintoneで作成

 紀平氏は、この課題をkintoneで解決するために、2つのスペースを作成した。「損益情報」アプリなど定量的な財務に関する情報を集約する「財務情報ポータル」と「拠点月次報告」アプリなどの定性的な情報を集約する「経営情報ポータル」だ。

 「財務情報ポータル」の画面には、損益や在庫などの数値的な在庫を集めた。スペース作るにあたり、スペースの目的をしっかりと記載した。何の目的でこのスペースを使うのかが伝わらないと、使う側が困ってしまうからだという。さらに、グラフが見切れたりする人のために、拡大縮小のショートカットキーなど注意点も記載した。これも、利用者のために、操作が分からず離脱するのを防ぐためだ。

スペースにはスペースの目的や注意点を記載した

 従来は、会計システムからデータを出力して、Excelで資料を作成して、メールで送信し、受け取ったらPCに保存していた。それが、kintoneを導入することでCSVファイルをアプリに読み込むだけで済むようになった。アプリで自動的に表やグラフができるので、各部門長は見たいときにアクセスすればいい。こうして、資料作成と配信の手間を削減することができた。

 さらに「krewDashboard」(グレープシティ)というプラグインを利用し、見たい切り口の分析を手軽に行えるようにした。例えば、部門長のニーズによって、「○○視点」だけの実績推移やFY18とFY21の比較資料、○○(株)からの受注実績といった切り口で確認できるようになった。

プラグインも活用して、必要な分析をすぐにできるようにした

 「経営情報ポータル」ではExcelの報告書をkintoneに置き換えたことで、外出先で承認フローを進められるのが大きなメリットとなった。同社はエンジニアが多く、外出することも多いので、承認機能は重宝しているという。

「主キーを作ることで、他のアプリへスムーズに連携できるように工夫しました。他には、どんな情報を入力して欲しいかをラベル機能を使って、補足しています。何より、報告書のコメント欄で、部門をまたいでコミュニケーションできるという気付きも得られました」(紀平氏)

報告書の承認をkintoneで行なえるようにした

 報告書では、お互いに情報を持ちより、連携の意識も生まれた。各部門長が財務情報ポータルの情報をふまえて報告書を作成したあと、企画管理部がコメント機能で情報を追記するといったやりとりが発生したという。これは「更新の手間が少なくて、コミュニケーションが取りやすいkintoneだからできることだと思います」と紀平氏。

 これまで、Excelで報告書を作成し、課長と部長にそれぞれメールで電子印をもらい、その後アップロードしていた業務フローが、kintoneにアクセスするだけでよくなり、大幅な手間の削減が実現した。

kintoneの導入で大幅な手間の削減ができた

kintoneを広めるべく、個別アプローチ、面での働きかけへ

 結果的に日々の業務がスムーズになり、資料の作成日数は改善前の15日から改善後は5日に短縮された。内容も、表面的な事実しか分析していなかったところから、要因まで追及できるようになった。会議の日程も、毎月25日から毎月17日に前倒して開催できるようになったといいことずくめだ。

 さらに、企画管理部の業務に対するマインドも変わった。以前は従来方法に従って業務を遂行していたが、改善後は日々、効率化や工夫を考える習慣ができたという。そのため、仕事をすることで、どんどんkintoneの活用ノウハウが蓄積されるようになった。そして、そのノウハウを他部門に教えることで、他部門の業務効率化にもチャレンジした。

「アドバイス活動でkintoneの活動が広がっていく一方で、新たな課題もありました。他部門にkintoneファンができたのですが、使ってない人は使ってないという障壁があり、なんとかしたいと考えました」(紀平氏)

 新しいITシステムを導入する時、社内からの反発を受けるのはよくあること。同社も似たような状況になったという。そんな中で、いきなり多くの社員に影響するような業務をkintoneに置き換えるのは難しい。

 そこで、紀平氏は影響力のある人や積極的に使ってくれそうな人に、個別アプローチをした。個別に当たるので社内の反発にあいにくく、丁寧に説明するので、kintoneの使いどころを理解してもらいやすい。その結果、kintoneファンを着実に増やすことができた。

「部長などの影響力のある人だと、さらにその人から他の人に伝播していくというメリットもあります。一方で、個別のアプローチだと、どうしても利用拡大のスピードが遅いという課題がありました」(紀平氏)

まずは点での働きかけでkintoneファンを増やした

 そこで、次のフェーズでは、全員が行なう業務にkintoneを組み込んだ。紀平氏はこれを「面での働きかけ」と呼んでいる。多くの社員が日々、決裁をあげる「営業活動決裁」業務にkintoneを導入したのだ。

 もちろん、一斉に全員がkintoneを体験するので、利用拡大のスピードは早くなる。その分、社内の反発も大きくなるのだが、先に点での働きかけでファンを増やしていたため、どうやら便利そうだなという雰囲気になったそう。

点での働きかけのあとに面で働きかけることでkintoneの利用拡大スピードを早めた

 「営業活動決裁基準スペース」では、ブラウザ内検索のショートカットキーなど、ちょっとした便利情報を載せることで、できるだけ利用のハードルを下げたという。加えて、決裁に関する質問がとても多かったので、「質問箱」アプリも準備して、問い合わせの手間も削減した。

「kintoneで決裁画面を作るメリットは、柔軟な通知や申請ルートを実現できることです。個人的に面白く感じているのは、自動でアドバイスを表示してくれる機能です。他のフィールドの情報を読取って、この場合は、こういう決裁ですよ、というコメントを文字列のIF文を使うことによってカスタマイズなしで開発しました」(紀平氏)

 これで申請・承認や差戻・修正、問い合わせなどの手間を削減し、仕組みの柔軟化が実現した。しかし、利用者が満足しなければ逆効果になるので、利用者に優しい仕組みの工夫をすることに加え、迅速な問い合わせ対応をモットーに活動したという。

「今は「多くの社員が日常的に業務改善に取り組む風土」という目指す将来像に向けて、次のステップに進もうとしている状態です。今後も様々課題が出てきて、その課題を乗り越えた後の気付き、が多く得られるのかなと感じています」と紀平は締めた。

障壁を壊れたので、目指す将来像に向けて進んでいく

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