日本オラクルが2021年7月8日、6月からスタートした会計新年度(2022年度)の事業方針説明会を開催した。同社 執行役 社長の三澤智光氏は、昨年度(2021年度)は日本市場でも「Oracle Cloudの採用が飛躍的に加速した年」になったと振り返ったうえで、2022年度もその勢いを維持、拡大していく方針を示した。特に、さまざまな国内採用事例を示しながらミッションクリティカルな基幹システムのクラウド移行先としての強みを強調し、それらを支援する新たな施策として「Oracle Support Rewards」や「Oracle Cloud Lift Services」などを紹介した。
「昨年度はOracle Cloudとして大きな広がりを残せた」
三澤氏はまず昨年度を振り返り、「2021年度は日本でも世界でも、Oracle Cloudの大きな広がりが残せた年だったと思う」と語った。Oracle Cloudは、クラウドアプリケーション(SaaS)スイートの「Oracle Cloud Applications」と、IaaS/PaaSを提供する「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」で構成されるが、そのいずれでも多数の採用実績を残せたという。
三澤氏は、国内におけるOracle Cloudの採用事例をいくつか紹介した。たとえば三井住友フィナンシャルグループでは、グループ約200社で共通の会計/購買システムを実装し、コスト構造の可視化を図る「Oracle ERP Cloud」の導入を決定した。「日本でもほとんど類を見ない非常に大規模なプロジェクトであり、そこに“ピュアSaaS”であるOracle ERPが適用可能であると市場に認知いただける、エポックメイキングな事例になるのではないか」(三澤氏)。
そのほか、NECの共通顧客データ基盤(CDP)における「Oracle Unity」SaaSの採用、野村総合研究所(NRI)における“OCI顧客専有リージョン”「Oracle Dedicated Region Cloud@Customer」の採用、エディオンにおける大規模基幹システムのクラウド(OCI)全面移行、オカムラのデータ分析基盤における「Autonomous Data Warehouse」への移行などを紹介した。オカムラの事例では、従来オンプレミス導入していたDWHアプライアンスと比較して「レスポンスタイムを60分の1に改善し、36%のコストダウンに成功した」という。
また、ソフトウェアベンダー(ISV)におけるSaaS提供基盤としてのOCI採用事例(ワークスアプリケーションズ、スーパーストリーム、ラクラス、サイバーリーズン)や、社会基盤を支える採用事例(NTT西日本、小田急電鉄、三島市、富良野市)の拡大についても紹介した。海外では、ドイツ銀行における数万データベース規模の基幹レガシーシステムをクラウド移行するプロジェクト、オーストラリア政府向けデータセンター(Australian Data Centers)におけるOCI Dedicated Regionの採用などがある。
三澤氏は、Oracle Cloudを選択した顧客の声を取り上げるかたちで、Cloud Applications、OCIのそれぞれにおける競合優位性を説明した。
Cloud Applicationsでは、費用対効果が高く短期間導入ができるというクラウド本来のメリットだけでなく、AI/機械学習技術を機能として組み込むことによる業務の自動化、クラウド側でのアップデートにより常に最新機能が使えること、処理性能や拡張性、背キュリティに対する不安が軽減されることを挙げた。
またOCIについては、NRIやドイツ銀行の事例に見られるような「クラウド化は無理だと思われていたようなミッションクリティカルシステムのクラウド移行、これはOCIならではの事例」だと強調する。また、現在のOCIが採用するアーキテクチャが完成したのは“第2世代クラウド”を標榜し始めた2018年であるとの見方を示し、コストパフォーマンスの高さや安定した性能といった点で「20数年前に作られたアーキテクチャを増改築してきた」他社クラウドとは一線を画するものだと述べた。
「Cloud Lift Services」も提供開始、基幹システムの本格的なクラウド移行を支援
日本オラクルにおける今年度(2022年度)の重点施策としては、Cloud Applicationsの提供による「デジタル・トランスフォーメーションの加速」、OCIによる「ミッション・クリティカルなシステムのクラウド化」、「次世代社会公共基盤の実現支援」、そしてこの3つを支える「パートナー・エコシステムの拡充」の4点を挙げた。
特に、2022年度は「(これまでよりも)さらに充実したクラウド化支援サービスを行っていきたい」と三澤氏は語る。日本におけるミッションクリティカルシステムのクラウド化はまだこれからの段階であり、さらには「基幹システムの安易なクラウド化、OSS化による失敗事例を山のように見てきた」からだと、三澤氏は説明する。
「なぜ安易なクラウド化が危険であり、失敗するのか。それは、基幹システムの特性を無視してクラウド化しているからだ。基幹システムではヒト/モノ/カネの複雑なエンティティを集中処理する能力や、データベースの高い処理性能が求められる。しかし、汎用クラウドが得意なのは分散処理ワークロードであるため、特性の異なる基幹システムを無理に汎用クラウドに載せた結果、大幅な改修が発生して、予算を大幅超過するプロジェクトを何件も見てきた。また、必要な性能が出ないためにより高価なクラウドを使うことになったり、クラウド化を諦めることになったりするケースもある」
従来オラクルでは、オンプレミスのアプリケーションライセンスをそのままSaaS利用に振り替えることのできる「Customer to Cloud」、IaaS/PaaSをすべて1つの契約/クレジットで利用できる「Universal Credit」、オンプレミスのソフトウェアライセンスをOCIに持ち込んだりPaaSへ変換したりすることのできるBYOLといったサービスを提供してきた。
ここに今年度、新たなサービスとして追加するのが、6月に発表されたOracle Support Rewardsおよび「Oracle Cloud Lift Services」である。Support Rewardsは、オンプレミスからクラウドへの移行期における顧客のコスト負担を軽減するため、OCI利用料の25%(100円につき25円分)を、サポート料金に充当できるリワードとして還元するものだ。
もうひとつのOracle Cloud Lift Servicesは、同日、国内での提供開始が発表された無償サービスとなる。ミッションクリティカルシステムのクラウド化に対するノウハウが不足している顧客の現状を鑑みて、オラクルのサポートサービス部門が、ケーススタディやフィジビリティスタディ、PoC、早期立ち上げなどの支援を無償で行うサービスだ。対象とする主なワークロードとしては、オンプレミスの「Oracle Database」や「VMware」環境、ハイパフォーマンスコンピューティングなどを挙げている。
また、社会公共基盤を支えるという目的に向けて、OCIのISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価精度)への登録を完了したことも紹介した。
加えて、サステナビリティに関するグローバルでの取り組みとして、2025年までにOracle Cloudとオラクルのファシリティのすべてを100%、再生可能エネルギーでオペレーションするというコミットメントを発表している。日本では環境省の実証事業として、住環境計画研究所と共に、家庭における省エネ行動を促す実証実験を行い、およそ30%の行動実施を実現したと紹介した。
「2021年度は非常に良い年だったと思うし、2022年度はわれわれオラクルのクラウドトランスフォーメーションをより加速できる年になると確信している。日本オラクルのビジョンとして“Be a Trusted Technology Advisor”という言葉を掲げているが、単なるITベンダーではなく、顧客にアドバイスしていけるような会社になっていきたいと考えている」