Windows Insider ProgramのRelease Preview Channelで、Windows 10 Ver.21H2(以下、21H2と表記する)のプレビュー版の配布が開始された。ビルド番号は19044.1147。つまり、今秋のアップデートもマイナーアップデートだ。Windows 11が年内に登場するので、カーネルなどを合わせてくるのかと思っていたが、2020年から続くVB_Releaseのままのようで、今秋も高速アップデートを使ったものになる。
Windows 10 21H2の大型新機能はWSL2だけ?
今秋のアップデートも機能的には小規模なものになりそう
Microsoftのブログによると、Windows 10 Ver.21H2で導入される予定の新機能は以下の3つだ。
・無線LANのWPA3に含まれるHash to Element(H2E)のサポート
・Windows Hello for Business簡略化されたパスワードなしの展開モデル
・WSL2のGPUコンピューティングのサポート
無線LANのH2Eサポートは、WPA3の昨年末のアップデートに対応するもの。WPA3では、WPA2より高いセキュリティを実現しているが、問題も見つかっており、その対策としてWPA3 December 2020 Updateが策定された。このアップデートに対応したWPA3アクセスポイントに接続するのに必要な機能だ。「Windows Hello for Business」は、企業向けの機能の話なのでここでは説明しない。
これらは21H2の特徴とするには、ちょっと小さすぎる。結局、21H2の最大のアップデートは、WSL2のGPU対応となりそうだ。これまでWindows Insider ProgramのDev ChannelでプレビューされてきたWSL2の新機能は4つあった。そのうちの1つが「GPUコンピューティングのサポート」で、あとの3つは「外部ストレージのマウント」「Nested VMサポート」「WSLg」である。いずれも過去に本連載で扱っているので、ここでは特に解説しない。以下の記事を参照してほしい。
GPUコンピューティングサポート
●WSL2にCUDA on WSLをインストールする
https://ascii.jp/elem/000/004/020/4020410/
●Windows 10のWSL2からGPUが使えるようになった
https://ascii.jp/elem/000/004/019/4019541/
外部ストレージのマウント
●WSL2で外部ストレージをマウントできるようになった
https://ascii.jp/elem/000/004/026/4026714/
Nested VMサポート
●Windows 10の最新ビルドを用い、WSL2で仮想マシン環境を使う
https://ascii.jp/elem/000/004/039/4039729/
WSLg
●WSL2でのGUIアプリケーションを動かす「WSLg」の仕組み
https://ascii.jp/elem/000/004/054/4054049/
●WSL2でのGUIアプリ対応がプレビュー版で開始 実際に動かしてみた
https://ascii.jp/elem/000/004/053/4053659/
●WSL2ではRDPでLinux GUIアプリのウィンドウを表示する
https://ascii.jp/elem/000/004/041/4041422/
●LinuxのGUIアプリケーションに対応するWSL2
https://ascii.jp/elem/000/004/040/4040474/
なお、これらの機能についてはWindows 11ではサポートされているが、21H2では「外部ストレージのマウント」「Nested VMサポート」「WSLg」のアナウンスはない。実際に機能が実装されたのは、Windows Insider ProgramのDev Channelで配布された「FE_RELEASE」と「CO_RELEASE」だ。
時期 | リリース名 | ビルド番号 | 備考 |
---|---|---|---|
2019年~ | VB_RELEASE | 18836~19041 | Windows 10 Ver.2004 |
2020年1月~ | MN_RELEASE | 19536~19645 | |
2020年6月~ | FE_RELEASE | 20150~20279 | WSL2 GPU対応、外部ストレージ対応 |
2021年1月~ | CO_RELEASE | 21277~21390 | WSL2 NestedVM、WSLg |
2021年6月~ | (Windows 11) | 22000.51~ |
では結局のところ、Windows 10 21H2の中身は何?
ここで、昨年からのWindows 10リリース版とプレビュー版、そしてWindows 11の関係をまとめておこう。2020年春のWindows 10 Ver.2004は、「VB_RELEASE」と呼ばれたプレビュー版がベースになった。
Windows Insider ProgramのDev Channelのプレビュー版は、半年ごとにリリースが切り替わっており、2020年前期のVB_RELEASEのあと、MN/FE/COと半年ごとにDev Channelではリリースが切り替わったが、正式版のWindowsは、2020年春の20H1以降はずっとVB_RELEASEをベースにしたものだった。つまり、MN/FE/COはプレビューはされたものの、Windows 10としてはリリースされていない。
プレビューされたうち、一部の機能だけが正式リリースに含まれたものの、多くの機能がプレビューのままだった。これは新機能が新しいカーネルなど、他のWindowsのモジュールに依存しており、VB_RELEASEには対応できなかったのではと考えられる。
以下の画像は、20H1からのアップデートのカーネルサイズを示すものだ。今回の21H2プレビュー版のカーネルサイズは、21H1のものとほとんど変わらない。つまり、コアの部分は2020年春のアップデートで登場したWindows 10 Ver.2004(OSビルド19041)をベースにしたもののようだ。20H1から21H2までのビルド番号は、19041から1つずつしか上がっておらず、大きな変更がないのではと推測できる。
Microsoftのブログによれば、21H2に搭載予定の新機能は今回のプレビューには含まれてはいないとのこと。現状では、21H1をベースにしてわずかな変更のみを加えたものである可能性が高い。実際にこれまでも、最初のプレビュー版は公式版とほとんど同じものだったことが多かった。
また、Windows 11のWSL2では、Linuxカーネルのバージョンが「5.10.43」になっているが、21H2プレビュー版では、現行版のWindows 10(21H1)などと同じ「5.4.72」で最新状態だと報告してくる。おそらくWSL2自体が異なっているからだと思われる。
とりあえず、今回のプレビューは21H1とほぼ同じものと見て間違いないようだ。実際に21H2らしくなるのは、次回以降のプレビューになるだろう。
そして21H2も、21H1や20H2同様にマイナーアップデートと考えられる。とはいえ、バグ修正点は毎回少なくないので、安定感という点では前進している。もし、この調子が続いて、ずっとマイナーアップデートのままなら、今後のWindows Updateは月1回、数分程度の再起動で済み、長時間PCが操作できないという状態にはならないのかもしれない。
だとすると、Windows 10ユーザーは、Windows Updateに仕事を邪魔されない「安寧の日々」をようやく手に入れられそうだ。
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