2024年のパリ五輪に向けスマートエネルギー分野のスタートアップがピッチ
6月19日までフランス・パリで開催されたスタートアップイベント「VIVA TECH 2021」では、2024年に同市で開催されるオリンピック&パラリンピックに向けた動きを感じることができた。企業や組織が課題を出して募るピッチのうち、パリ大会でテクノロジーとイノベーションのパートナーを務める米Intelが、スポーツイベントでのスマートエネルギー管理をテーマにピッチコンテストを開催した。
Intelのピッチコンテストは「スマートなエネルギー管理がどのようにスマートなスポーツイベントにつながるか」がテーマ。エネルギー管理に関係していること、IoT、AI、エッジコンピューティングなどのハイテク技術を利用していること、オリンピックなど大規模なスポーツイベントだけでなく、スマートシティにつながることなどが条件。すでに提供を開始しているか、今後数年で実装可能なものを対象とする。
4月に公募開始、5月末にファイナル5社に絞り込んだ。ファイナルに選ばれたのは、仏Octopus Lab。大気汚染に対する空気質(IAQ)を管理するソリューションを開発するベンチャー企業だ。創業は2017年で、センサーからの情報をベースに、屋外の大気汚染の状況を見ながら屋内の空気質を予測する「INDALO」ソフトウェアスイートを提供する。ビルの設計者はこれを利用して、テナントに高い空気質を提供することができる。
創業者兼CEOのマクソンス・メンデズ(Maxence Mendez)氏は、「新型コロナにより、需要はさらに高まっている」と説明する。
すでにパリ市、エンジニアのEgisなどが採用しているほか、パリ・オリンピックでは病院、報道向けの建物での採用が決定しているとのこと。Intelとの協業により、予測時間の短縮を測ってきた。メンデズ氏によると、当初は4万平方メートルの建物で2時間程度だった予測時間は、5分レベルにまで短縮できているという。
VIVA TECHのステージでは、Octopus Labのほか、仏Ezymob、仏Olenergies、ポーランドBin-e、仏Accentaの4社がファイナルとしてピッチを行なった。
5社のなかでエネルギーが直接関係していなかったのがEzymobだ。視覚がい者向けに公共輸送機関やイベントでの道案内を行なうアプリを開発するベンチャーで、すでに20万ユーロを調達済み。「スマートシティではモビリティーが重要になる。Ezymobにより、すべての人にモビリティを提供できる」とCEOのロビン・ル・ギャル(Robin Le Gal)氏。
公共輸送機関は別途の設定は不要で、視覚障がい者はスマホにある音声入力機能、カメラ/スキャナをフル活用して、地下鉄のドア、座席、通路などのガイドをしてくれる。
すでにフランス国内で15の都市でソリューションの実装を進めており、パリ五輪やスポーツイベントの主催者とも協業を進めているという。
仏Olenergiesは、インテリジェントバッテリーシステムを開発するベンチャー企業。再生可能エネルギーの蓄電ができるコバルトフリーのリチウムイオン電池で、データセンター、風力発電所などを想定している。
「ロンドン五輪では400万リットルのディーゼルが使われた。パリ五輪は、ディーゼル発電機セットを使わないことを目指している」と創業者兼CEOのジュリアン・ル・ゲネック(Julien Le Guennec)氏。20年使用も視野に入れるなど持続性も特徴とし、「データとAIで改善している」とのこと。
すでにパリ郊外にあるオフィス地区ラ・デファンスで設置しており、データ収集と分析でIntelとの提携を活用している。
5社中、唯一フランス企業ではないBin-e(ポーランド)は、オフィスやビル向けのゴミ自動分別システムを開発するベンチャーだ。
「わずか数分の間に、世界では1万トンの廃棄物が生まれているが、そのうちリサイクルされるのはわずか30%」というのは同社の事業開発マネージャー、ジャコブ・サコウスキ(Jakub Sakowski)氏。「適切で効果があり、同時に面倒くさくない廃棄物収集インフラがないためだ。Bin-eはAIを使って自動で認識、分類、圧縮する」と売り込んだ。分類の精度は90%以上、廃棄物の圧縮コストは最大で70%を達成可能という。フタは自動開閉し、センサーとクラウドを利用することで、ゴミ箱がいっぱいになったなどの通知を受け取る「面倒くさくない」は大きな特徴という。
Ikea、Auchanなどと提携しており、商業施設やオフィス向けにカスタマイズも可能。ドイツでは駅でも採用されている。すでに100以上のユニットが出荷済みで、欧州のほか、カナダ、ロシア、中国でも実装されており、今年は米国、ブラジル、オーストラリアに進出する。
仏Accentaは、建物のCO2排出の70%を占める冷暖房に着目、地中熱などを活用してこの問題に挑む。研究機関との協業により、地中熱の保存技術や予測アルゴリズムを組み合わせることで、CO2排出を最大80%削減できるという。
すでに仏トゥールーズにあるAirbusの本社、仏ルーベ市などで実装されているとのことだ。
「2024年のパリ五輪、2028年のロサンゼルス五輪は、地球を巨大なバッテリーとして使うことができる」と同社でセールスエンジニアを務めるマノン・ディラン(Manon Dirand)氏は述べた。
ファイナルに選ばれたOctopus Labは、Intelがドイツ・ミュンヘンにもつIntel Ignite StartupインキュベーターやIntel Olympicプログラムオフィスとのミーティングを持つことができるほか、マーケティングのコーチングなども受けられる。