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半固体電池!? エネルギー展示会で見たバッテリーの進化と次世代スマホ電池

2022年03月30日 12時00分更新

文● 山根康宏 編集●ASCII

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ファーウェイもスマートグリッド関連の出展を行なった

 2022年3月16~18日まで、東京ビッグサイトで「スマートエネルギーWeek春2022」が開催された。水素やバイオマスなどの次世代エネルギー、太陽光発電などの電力をコントロールするスマートグリッド、さらには資源環境に関する展示とカンファレンスなど、脱炭素社会・SDG'sを見据えたB2B向けのイベントだ。しかし、展示の中にはバッテリーの効率化や安全性を高める技術など、数年後のスマートフォンやノートPC向けに応用されるものも多く、モバイル業界にも関連性の高いイベントだった。

スマートエネルギーWeek春2022は東京ビッグサイトで開催された

 出展企業の中にはNECなど日本の大手IT系企業も目立っていたが、ファーウェイも大きなブースを構えていた。ブースの一角にはファーウェイが販売するPD対応のUSB充電器など、コンシューマー向けの電力関連製品が展示されていた。

65Wの急速充電器や布素材を表面に使ったワイヤレス充電台など

 しかしファーウェイブースの主力展示は蓄電池や電力管理ソリューションなどだった。ファーウェイがエネルギー関連の展示をするとは不思議に思えるかもしれないが、同社は世界各国に通信インフラを展開しており、基地局やデータセンターで使用するバッテリーや電力制御システムも自社で開発している。その技術の応用展開として、ビルに設置する蓄電池や電気自動車をワイヤレス充電する駐車場向けの充電ソリューション、空き地に設置された太陽電池の管理など、電力に関する様々な製品を展示していた。ファーウェイの製品やソリューションを組み合わせることで、都市のスマートな電力管理も可能になる。

ファーウェイの様々なエネルギー関連製品は都市のいたるところに利用される

 ファーウェイの展示はビルや都市向けの大型装置が目立っており、会場でも多くの企業が同様の展示をしていた。一方、スマートフォンなどをターゲットにした小さな製品もいくつか見つけられた。山形大学の有機イノベーションセンター(INOEL)は、有機素材を使った薄膜太陽電池など新しい電池を開発している。

山形大学有機イノベーションセンター

 同センターの次世代電池研究室が展示していたのが「半固体電池」だ。現在スマートフォンなどで使われているリチウムイオン電池は、電池の中に電解液、すなわち液体を満たした構造になっている。そのため高熱に弱く、また釘で穴をあけるなどするとショートや発熱・発火を起こす危険性を持っている。リチウムイオン電池は今後さらなる大容量化が進むだろうが、今の構造では安全性の問題が懸念されている。

 そこでリチウムイオン電池の電解液に特殊な樹脂を注入し、液体をジェル状に半固体化することで安全性を高めたものが半固体電池である。実験では穴をあけても発火などはせず、また30Vの過充電を行なうとリチウムイオン電池は破裂とともに表面温度が140度に達したのに対し、半固体電池は破裂のみで発火もなかったとのこと。

安全性の高い半固定電池。スマートフォン内蔵サイズも試作されている

 半固体電池の商用化は、まずはスマートフォンケースに内蔵する外付け補助電池としての売り込みを考えているようだ。山形で開発されたことから、米沢織をあしらったスマートフォンケースも試作しているとのこと。スマートフォンへの内蔵もいずれ実現されるだろう。

表面を米沢織にした半固体電池内蔵のスマートフォンケース

 ナノテクエナジーはまったく新しい素材を採用した電池を展示していた。それはグラフェンだ。グラフェンは炭素が六角形に結合したシート状の薄い素材であり、厚みは炭素原子1個分、0.335nmしかない。その構造から導電性が非常に高く、ナノテクエナジーはこれを電池の素材に応用したのである。

ナノテクエナジーはグラフェン使用の電池を出展

 ナノテクエナジーが開発した不燃性グラフェン電池は可燃性がなく発熱もしない。高温度(180度)でも安定して電力を出力できる。電池の寿命もリチウムイオン電池が300~500サイクル(約2~3年)なのに対し、1400サイクル(約10年)と大幅に伸びている。さらには1回の充電で最大3倍程度長持ちするという。金属部品も減らすことができ、製造時のエネルギーも削減できる。2022年1月にラスベガスで開催されたCES 2022で不燃性グラフェン電池はイノベーションアワードを受賞した。

18650型の電池(6.5Wh)。まもなく出荷される

 ブースには18650型のバッテリーが展示されており、近日中に出荷予定とのこと。またスマートフォンやタブレットなどに内蔵できるカスタムサイズの電池も受注可能とのことだ。

スマートフォンなどにサイズのカスタマイズも可能

 三井金属が展示していた電池は完全な固体の「全固体電池」。山形大学の半固体電池がリチウムイオン電池の電解液を半固体化したように、こちらは電解液そのものを固体の「電解質」に置き換えたもの。液体を使わないため温度に強く自由な形状の電池を作ることができる。もちろん安全性も高い。

三井金属ブース。全固体電池の過充電テストの様子を動画で流していた

 三井金属の全固体電池はアルジロダイト型硫化物固体電解質を使用する。この電解質は「A-SOLiD 」の商品名でマクセルや電気自動車メーカーにサンプル供与を始めているとのこと。実は全固定電池は電気自動車向けの次世代電池としても開発が進められている。発火の可能性のあるリチウムイオン電池より安全であり、また積層化などにより性能を高めることができるのだ。

全固体電池のサンプル。右奥がA-SOLiD

 現在は電解質の量産化が難しいこともあり、商用化にはまだ数年かかりそうだ。近年はスマートフォンの発火事故もおきており、肌身離さず使う製品だからこそ安全な電池を内蔵したいもの。全固体電池や半固体電池のスマートフォンへの応用は早い時期に進めてほしいものである。

次世代電池として三井金属も期待をかける

 こちらは内蔵型ではなく、外置き型電池だ。古川電工のマグネシウム空気電池は災害が起きたときなどの緊急用の大型電池である。特徴は水を入れるだけですぐに発電が始まること。水の種類は真水(水道水、風呂の残り湯など)だけではなく、海水でも同等の発電ができるようだ。また付近に水がない時は、尿や炭酸飲料を入れても効率は落ちるが発電できる。最大10年(メーカー保証は5年)の保存が可能で、標準モデルはスマートフォンを30回、スリムモデルは20回充電できる。すでに市販されており、どんなときでもスマートフォンを充電できる電池として今後普及が進むだろう。

古川電工のマグネシウム空気電池

 長い電柱を展示していたのはオーエスエム。この電柱には太陽電池が巻きつけられており、内部には蓄電池が内蔵されている。つまり昼間の太陽光で充電し、夜間はその電池を使ってライトなどを発光させることができるのだ。またLTE(LTE-M等)の基地局を搭載することも可能で、ネットワークのカバレッジを広げることもできる。いわゆる「スマートポール」と呼ばれる製品だ。

オーエスエムは太陽電池製品を出展

 同社は太陽電池関連の製品を多く展示しており、コンシューマー向けにはシート式の太陽電池パネルを開発。現在4連(10.8W)と2連(5.4W)のものを販売中だ。USB端子を備え、5000mAhの防水モバイルバッテリーも付属する。

4連式10.8Wのソーラーバッテリー

 作りはしっかりしており、ノーブランドメーカーの製品と比べると明らかに信頼できる製品であることがわかる。価格は4連が2万20円(税込)、2連が1万2980円(税込)。

くるくる巻いて持ち運びができる

 さて、エネルギーウィークではKDDIがオープンセミナーに参加していた。KDDIは電力小売りサービス「auでんき」を全国展開しているが、セミナーで説明が行なわれたのはその逆となるもの。家庭などの低圧電力をまとめて購入して売電する「低圧アグリゲーションビジネス」だ。

KDDIのセミナーに登壇したエネルギービジネス担当部長の浜口智洋氏

 KDDIは2016年から資源エネルギー庁の「VPP実証事業」へ参画をしている。VPPとはバーチャルパワープラント(仮想発電所)の略称だ。東日本大震災で東北各地の電力供給が寸断されたことから、従来の大規模な発電所(集中電源)への一極依存を見直し、電力需要に応じて工場や家庭に分散している余剰電力を束ね(アグリゲーション)、それを遠隔から制御し活用するのがVPPだ。

 VPPビジネスの日本での展開はここでは説明を省くが、KDDIはエナリスなどとともに行なっている実証実験で通信ネットワークを活用。5GとMECを国内で初めてVPP実証実験に使い、成果を上げている。低圧電力の購入元となる家庭の戸数は1000を超えており、それぞれの電力負荷状況を細かく監視・制御する必要があるが、従来のLTE回線では60秒おきのデータ取得が限界で、遅延速度も0.1秒であった。これを5G回線に置き換えることでデータは1秒間隔での取得が可能となり、さらにMECにAWSを使うことで遅延を0.05秒以下とすることが可能になった。通信技術の進歩が新しいビジネスを加速する、応用例の1つと言えるだろう。なお、今後VPPの商用化時には家庭に設置する5Gルーターのコスト低減などが求められる。

VPPの実証テストでは5GとMECで高精度な制御が可能になる

 通信系ではNTT InfraNetも出展し、自営ネットワーク関連ビジネスの紹介をしていた。通信キャリアならではのネットワーク構築のノウハウを企業向けに応用している

NTT InfraNet

 スマートエネルギーウィーク春2022ではスマートフォンそのものの展示はなかったが、関連技術の展示は意外と多かった。次回は半年後の秋に開催されるが、場所を幕張メッセに移動し規模が拡大されるという。都市設計とエネルギーは切っても切れない関係があり、データの転送には5Gネットワークも必要とされる。次回のエネルギーウィークでは5G関連の展示も増えていることだろう。

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