ハッシュレートリミッターの効果
Ethereumマイニング時のハッシュレートも比較しておこう。前述の通りRTX 3070 Tiにはハッシュレートリミッターが搭載されているが、上位/下位の非LHRなGeForceに比べ、どの程度“弱体化”されているのか見てみよう。
マイナーは前回と同じNanominerのCUDAバージョンを利用し、特にPower Limitなどの制約はかけずに10分間マイニング、10分後のハッシュレートのほか、その時点でコンソールに表示される「GPU Power」を比較する。
RTX 3070 Ti FEは3070 FEよりもGPU Powerが60W増えているのに、ハッシュレートはおよそ26%も低い値に収束するようになっている。マイニング開始直後から徐々にハッシュレートが下がっていくという挙動は、先に発売されたRTX 3080 Tiと同じである。
消費電力や発熱、クロックを俯瞰する
では、RTX 3070 Tiを含めた全6種類のGeForceの消費電力をチェックしてみよう。まずはシステム全体の消費電力を比較するが、ラトックシステム「RS-WFWATTCH1」を使用し、システム起動10分後の安定値(アイドル時)と、「3DMark」Time Spyデモ実行中の最高値(高負荷時)を計測した。
消費電力の多い方から眺めてみると、CUDAコア1万基以上を誇るRTX 3080 Ti FEおよび3090 FEのGA102コンビがダントツで高く、その次にメモリーバスの太いRTX 3080 FE、そしてRTX 3070 Ti FEと続く。
RTX 3070 Ti FEの高負荷時の消費電力がRTX 3070 FEと3080 FEのちょうど中間に位置していることと、これまでの検証結果を合わせ考えると、RTX 3070 Ti FEの消費電力は性能が向上した結果増えたと同時に、ワットパフォーマンスという観点で言うとRTX 3070 FEや3080 FEよりやや燃費が劣っているといえるだろう。
さらに、消費電力について詳しく見るためにNVIDIAのビデオカード専用電力測定ツール「PCAT」を利用し、ゲーム(Cyberpunk 2077)を実際動かしている時のTBP(Total Board Power:ビデオカード単体の消費電力)を測定してみた。画質設定は前述のベンチそのままの条件だが、解像度は描画負荷をある程度引き上げるために4Kで統一している。計測時間はゲームの画面が表示されてから約15分間とした。
RTX 3070 FEのTBPは平均217W(TGP220W)なのに対し、RTX 3070 Ti FEは平均282W(TGP290W)であり、システム全体の消費電力に対する増加はほぼGPUの消費電力増であることが確認できた。GDDR6Xの採用とCUDAコア増量&クロック引き上げによって、RTX 3070 Tiは3070無印よりも性能を引き上げることができたものの、ワットパフォーマンスではやや後退したと言ってよいだろう。
このTBPを測定している裏で「HWiNFO Pro」を利用し、各GPUの温度やクロックの推移も追跡してみた。室温は約27℃となる。
まずGPU温度の推移だが、最も温度が高くなったのはRTX 3080 Ti FE、続いてRTX 3070 Ti FEと、クロックを引き上げたぶん温度も上昇したという至極当たり前の結果が得られた。特にRTX 3070 Ti FEは冷却システムも大きく変更し、RTX 3070 FEとは別モノのカードに仕上がったが、性能引き上げで発熱量が増えたことを考えると妥当な選択といえる。
GPUクロックの推移は線が重なりすぎて大分分かりにくくなってしまったが、RTX 3070 Ti FE(黄)のクロックは1860〜1875MHzで安定し、これはRTX 3080 FE(灰)や2070 SUPER FE(緑)とほぼ重なる。続いてRTX 3070 FE(水色)と3090 FE(青)、一番下にRTX 3080 Ti FE(橙)と続く。RTX 3070 Ti FEのTBPの高さはクロックの高さの裏返しであるが、メモリーバス256bitのままでなんとかしてRTX 3080 FEに近づけるために必要であるといえるだろう。
まとめ:フルHD〜WQHDなら十分戦力になるが、
RTX 3070無印に対する特別感は薄い
これまでNVIDIAは既存GPUの間に割り込むような製品を投入する際、末尾に「Ti」や「SUPER」といった単語を追加(BOOSTという製品もあった)するのが常であり、無印はTi/SUPER付きより下というルールがあった。
今回のRTX 3070 Ti FEもこのルールを守るどころか、RTX 20シリーズのSUPER付きよりもさらに正確に性能を調整してきた。ただ、RTX 3070 Ti FEのパフォーマンスは“RTX 3080 FEに近いもの”ではなく、“RTX 3070 FEをやや強化したGPU”の域を出なかったのは少し残念だ。
GDDR6Xの採用は良い要素だったが、メモリーバス256bit、8GBのままという点が色々な面で厳しい(ただし、メモリーバスの仕様はCUDAコア数と連動しているので、単純にバス幅のせいとも言い切れない)。RTX 3080 Tiを筆頭に、過去のRTX 2070 SUPERやRTX 2060 SUPERに共通している要素、即ちTiやSUPERが付くことによる特別感、もっと言えば上位GPUを食えそうな要素が希薄なのが、RTX 3070 Tiの泣き所といえる(この意味ではRTX 2080 SUPERの再来だ)。
ただ、フルHD〜WQHD環境で最高画質(DXR入り)でフレームレート高めのプレイを志向しているなら、RTX 3070 Tiは決して悪いGPUではない。今のGeForce搭載カードの相場はRTX 3080が15〜20万円ほど、RTX 3070で9〜14万円ほどという感じだが、10万円前後の値付けなら、RTX 3070のパワーアップ版として良い買い物になるのではないだろうか。
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