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業務を変えるkintoneユーザー事例 第105回

営業マンと事務員の特性に注目し、情報の受け渡しを再定義

情報はバトン 取りこぼしていたアドレスがkintoneで試したこと

2021年06月14日 09時00分更新

文● 重森大 編集●MOVIEW 清水

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営業マンからの不満を書き連ねたメッセが夜中に

 kintoneを導入してから、大きなクレームは減った。kintone導入は成功、うまく使ってもらえていると感じていた、ある月曜日。定期的に部門長が集まって、それぞれの考えや現場からの声を共有する会合が行なわれた。その日の夜、LINEに社長からのメッセージが届いたという。そこには、部門長から上がった不満の数々が書かれていたと高木 純花氏は振り返る。

アドレス 高木 純花氏

「夜遅くに社長からメッセージが来るだけで、恐ろしいですよね。しかもそこには、営業マンからの不満が書き連ねてあるんですから」(高木氏)

 kintone導入により以前より手間が増えた、アプリが多すぎる、何のためにkintoneを導入したのか伝わっていない、モチベーションは下がり、ストレスは増えている。そんな不満が現場から上がったと、綴られていた。会社を良くしたいと思ってkintoneを導入し、良くなったと思っていたのは自分たちだけだった。いったい現場では何が起こっているのかと見返してみて、大事なことに気づいたという。

「情報はバトンのようなもの。このバトンをうまく渡せなければ、分業化なんてできないし、会社が良くなることもありません。私たちが考えたシステムでは、バトンの取りこぼしがあちこちで起きていました」(高木さん)

 改善のためにまず高木氏らが取り組んだのは、現場を観察することだった。業務について聞き取りをし、実際の業務の様子を観察し、kintoneアプリのどこでつまずいているのかチェックした。業務をつぶさに観察することで、わかったことがあった。それは営業マンと事務員との特性の違いだ。

「営業マンは外出が多く、自分のタイミングで情報を確認します。情報がどこにあるのか探したり、入力したりという作業を嫌います。事務員はつねにPCの前にいて、情報をすぐに知りたいと思っています。営業マンからの依頼で仕事がスタートするからです。そして入力作業が得意な人が多いです。これだけ特性が違うのに、それをまったく無視してアプリを作ったり改善したりしていたんです。うまく行く訳がありませんよね」(高木氏)

 当初、業務の流れはアプリ制作陣だけで考え、「たぶん現場ってこうだよね」という認識で開発していた。実際の現場の業務の流れと異なっていることがわかったので、ホワイトボードツールにみんなで書き込みながら業務と情報の流れを見直した。その結果、スタートからゴールに向けた業務の流れが明確になってきた。

再作成された設計図では業務のスタートとゴールが明確に

「導入時に私たちが考えた図では、あっちに行ったりこっちに行ったり、業務の流れがわかりにくくなっていました。現場の業務を理解できていなかったからだと、今ではわかります。スタートとゴールが明確になり、それに基づいて設計図も再作成、アプリ追加やアプリ修正のおおまかな方針を共有できました」(小林氏)

欲しい情報を欲しいタイミングで届ける、手渡しと宅配ボックス

 営業マンと事務員の特性の違いに着目して、情報のバトンの渡し方にも新しい工夫を取り入れた。キーワードは、「手渡しと宅配ボックス」だ。

「事務員はいつも同じ場所にいてすぐに情報が欲しいので、情報をその都度手渡しします。一方、営業マンは外出が多く自分のペースで情報を受け取りたいので、荷物を宅配ボックスに届けるイメージです」(高木氏)

それぞれに適した方法で情報を受け渡せるよう工夫した

 具体的には、事務員向けにはレコード条件通知を利用して、条件に合致するレコードが登録されただけで通知が届ける。営業マンならうんざりするほどの量の通知だというが、早く情報を得られることを優先した。営業マン向けには、必要なときに必要名情報を取り出せるよう、工夫をこらした。いま欲しい情報がどのアプリにあるか探さなくて済むように、一番よく使うアプリに必要な情報を関連項目としてまとめて表示するようにした。また、自分の未達成タスクが一覧表示される、営業マン確認スペースも用意した。目の前の仕事を優先してつい後回しになりがちなタスクの取りこぼしを防ぐのが目的だ。

自分のところで止まっているタスクをひと目で確認出来る営業マン確認スペース

「ほかにも営業マンからの不満の声にひとつずつ応えていきました。どこに入力すればいいのかわからないという声に対しては、入力項目をグループ化して、そのとき必要な項目だけを展開、表示するようにしました」(高木氏)

関連するグループだけを自動で展開し、入力すべき項目をわかりやすく示した

 使いたいアプリを探せないという声もあった。検索やお気に入りの機能を紹介したが、浸透しなかったので、業務ごとによく使うアプリをまとめたポータルを作り、わかりやすいアイコンをつけた。問い合わせがあっても「とりあえずライオンを押してください」と言えば伝わるようになり、サポートもスムーズになった。

「これらのことに取り組むうちに、チームの概念が変化してきました。以前は店舗や部署で1チームだったのが、会社全体でひとつのチームになりました。kintoneにより部署を超えた協力体制が生まれ、みんなで仕事をするという認識に変わったのです」(小林氏)

 また、12ヵ月に1店舗だった出店ペースは3ヵ月で7店舗となった。事務がkintoneで仮想化されたので、営業マンだけ居れば新店舗を出せるようになったためだ。今後はこれらのノウハウのバトンを、同業他社につないでいきたいと今後の抱負を語り、アドレスのセッションは終了した。

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