業務を変えるkintoneユーザー事例 第101回
あなたのエゴは、業務改善の種になります
愛犬ともっといっしょに過ごしたい!ある事務員の”エゴ”が会社を変えた
2021年05月26日 10時00分更新
業務改善とは、業務に携わる人が「もっとこうしたい」という思いを形にしていく作業だ。つまり、従業員のエゴを実現していくことだ。会社の利益に反しない限り、どんなエゴだって、改善の種になる。そんなことを教えてくれたのは、相互電業の今野 愛菜さんだ。今野さんはkintone hive sendai 2021で、「愛犬と一緒に過ごしたい」というエゴを形にすることで、業務改善を進めた話を聞かせてくれた。
愛犬「茶々丸」ともっと一緒にいたい、そのためには在宅勤務制度が必要だ
今野さんは、柴犬の茶々丸(ちゃちゃまる)と暮らしている。茶々丸を留守番させる時間を少しでも短くするため、販売職から定時で帰れる総務事務員に転職したというから、茶々丸への愛情の深さがわかる。しかしある日、今野さんは考えた。
「定時で帰れるとはいえ、暗くなってから帰宅することも多いです。時間は短くなったものの、茶々丸は相変わらず1日中留守番をしています。こんな生活で茶々丸は幸せなのでしょうか」(今野さん)
茶々丸ともっと一緒にいたい、仕事もがんばりたい。そう考えた今野さんがいきついたのは、在宅勤務だった。これなら茶々丸と一緒に過ごしながら、仕事ができる。しかし当時は周囲に在宅勤務をしている社員はおらず、当然ながらノウハウもなかった。どうすればいいのか、調べていくうちに今野さんは、サイボウズが自社の働き方について発信する「サイボウズ式」というWebサイトにたどりついた。そこでは「100人100通りの働き方」が掲げられ、それを実現するための仕組みも紹介されていた。
「そこで私が見つけたのが、kintoneでした。誰でも作れて、業務改善ができるクラウド。これだ!とテンションが上がりましたが、導入は簡単ではありませんでした」(今野さん)
今野さんの勤める相互電業は十勝・帯広の電設会社で、10代から80代まで30人ほどの従業員がいる。工事の情報を持っているのはそれぞれの担当者だけ、30人30通りの業務フローが展開される属人的な現場だった。別のクラウドシステムを導入したものの現場に浸透せず、それどころか「これ以上システムを変えて現場を混乱させないで欲しい」と、システムアレルギーを起こしていた。社長は、良い会社を目指してシステムを導入するけれど、使ってもらえない。現場は工事に集中したいと言い、変化を嫌う。それぞれ、自分の世界だけを見て仕事をしていた。
システムアレルギーを乗り越えkintone導入を成功に導いた3つのポイント
kintone導入に当たり、今野さんは3つのポイントにこだわった。
「私が気をつけた3つのポイント、それは問題解決メソッド、ざつだん、そしてkintoneです」(今野さん)
問題解決メソッドとは、サイボウズ式でも紹介されている課題解決へのアプローチ方法だ。この方法では、「問題=理想と現実のギャップ」と定義される。つまり、理想から現実を引き算すれば、理想へ辿り着くために解決すべき問題、課題が明確になるというメソッドだ。
2つ目のざつだんは、文字通り雑談。今野さんは社長と話してみることで、会社として目指すべき理想を描き出した。続いて、「システム移行プロジェクト」と題して現場の人とも話をした。脱属人化、効率化で残業を減らしたい。誰でも対応できるようにして、顧客満足度を高めたい。思い描く理想は社長も現場の人も大きく変わらなかった。一方でシステムアレルギー問題に関しては、いろいろなシステムが導入され、情報が散らばっていてわかりにくい、担当者しか情報のありかを知らないので協力したくても協力できないなどの声が上がった。
kintoneならこれらを解決できるが、いろいろなことを一気にやろうとすればシステムアレルギーを悪化させかねない。今野さんたちは、移行しやすく、なおかつ効率化が見込める、生産請求業務から手を付けることにした。ざつだんの3ステップ目として、ワークショップを開催。生産請求業務の良いところ、やめたいこと、理想を語り合った。kintoneアプリを作ってみて使ってもらい、改善された部分は一緒に喜び、改善されていない部分はその場で変更を提案するか、宿題として持ち帰った。
これらの対応が、今野さんがこだわったポイントの3つ目、kintoneの部分だ。システムアレルギーに配慮して、入力のハードルを可能な限り下げた。プロセス管理も図解してアプリ内に表示し、手続き全体をわかりやすくした。
「入力する順番と項目名がわかりにくいという声があったので、番号と項目名をラベル機能でわかりやすく表示するようにしました。ルックアップの操作がわかりにくいという声もあったので、ルックアップ操作をする場所にラベルで補足説明を書き込みました。わかりやすくなっただけではなく、自分の意見が反映された『わたしのkintone』になったことで、アレルギーなく親しんでもらえるものになりました」(今野さん)
生産請求アプリにより、関連する作業時間は半分になり、kintone導入は大成功でスタートを切った。茶々丸と一緒にいられる生活に向けて、一歩前進だ。
改善したい一心で作ったアプリは使われず、失敗を活かして次のステップへ
生産請求アプリの成功で、今野さんは奮い立った。kintoneを使って、もっと問題を解決していこう。もっと働きやすくしていこう。その一心で、日報と議事録をアプリ化した。しかしこれらのアプリは、なかなか使ってもらえなかった。
「アプリの使い方も説明したし、呼びかけもしました。けれど使ってもらえませんでした。反発もなく、無反応でした。愚痴すら聞こえてきませんでした」(今野さん)
今野さんは生産請求アプリを作ったときのことを思い出し、呼びかけるのではなく話を聞くことにした。そこでわかったのは、現場の人は日報や議事録について、今の方法が問題だと思っていないことがわかった。さらに話を聞き、問題解決メソッドに当てはめて比較してみたところ、成功と失敗、明暗を分けた理由が浮き上がってきた。
「生産請求アプリ導入時は、みんなが同じ理想を見て、同じことを問題だと感じていました。しかし今回は、私が見ていた理想と現場の人が見ていた理想にずれがあったのです」(今野さん)
失敗したら、それを次の改善に活かせばいい。現場のリアルな意見は、現場でしか共有されていない。部門をまたいだ問題意識の共有や解決もできていない。みんなで同じ理想を見てみんなで改善する方法を、今野さんは模索した。たどりついたのは、ボトムアップで理想や課題を共有し、現場主導で業務改善を進めていくスキームだった。
まず、ひとりひとりの意見を引き出すため、部門内でKPTワークショップを実施。今後も続けていきたいよかったこと(Keep)、いま問題だと感じていること(Problem)、次にチャレンジしたいこと(Try)を書き出して、部門内で問題意識を共有した。次に部門代表同士が集まり、業務改善ざつだん会を開いた。いま一番大きな問題は何か、課題を解決するにはどうすればいいか、それをどのレベルでやるのか。部門を超えて視点を揃えることで、現実と理想、そのギャップを埋めるための課題を共有していった。
現場の人が改善を意識するようになり、いい流れも生まれた。たとえば案件管理では、スペースに専用のスレッドを作って書き込むことからスタートした。すると、案件が見えるようになったことで「その工事なら得意だから、一緒に行こうか」と先輩社員から声がかかるなど、自発的なチームワークが生まれた。さらにアプリに移行すると、感覚で捉えていたことが数値やグラフで可視化できるようになった。どのステータスで止まっている案件が多いのか、誰が困っているのかがわかるようになり、みんなで助け合おうとさらにチームワークは深まった。
「こうして、理想にむけてひとつずつ課題を解決していった結果、2年間で127のアプリ、57のスペースができました。自分ひとりでどうにかする30人30通りの業務フローから、30人が協力しあう1通りの業務フローへと変わったのです」(今野さん)
念願の在宅勤務を実現し、茶々丸幸せなのか問題も解決!
この2年間で、社内には大きな変化が生まれていた。現場からどんどん意見が出てくる、現場主導の業務改善が定着した。理想を共有できたことで、「やらないこと」も決められるようになった。また、30人30通りの人事制度を導入。スポーツクラブに入っている社員に追加の有給休暇と活動費を支給するスポーツ支援制度や、事務所に犬を連れて出勤できる犬連れ出勤制度、そして念願の在宅勤務制度も制定された。
「ついに、茶々丸と一緒にいられる在宅勤務ができるようになりました! 子どもが生まれたので在宅勤務をしたいという人も出てきて、いまでは5人も在宅勤務制度を利用しています。犬連れ出勤制度を使っているのは私だけですが」(今野さん)
これらの変化により茶々丸は幸せになったのか。それを今野さんは次のような数字を挙げて説明した。散歩距離は年間で620キロ増加、写真枚数も1000枚増加。一緒にいる時間は、年間で約1ヵ月も増加した。留守番時間が1ヵ月も減るなんて、茶々丸はきっと幸せになったに違いない。
「最初は、犬と一緒にいたいという、事務員のエゴでした。でも、そこから業務改善の種が生まれたのです。あなたのエゴは、業務改善の種になります」(今野さん)
オンラインで視聴する参加者にそう語りかけて、今野さんは登壇を締めくくった。
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