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業務を変えるkintoneユーザー事例 第97回

今年も始まったkintone hive sendai 2021登壇レポート

データ分析と可視化で未来農業づくりに取り組むクレアクロップス

2021年04月21日 11時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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 2020年に続き、オンライン開催となったkintone hive sendai 2021。北海道、東北エリアから5名のkintoneユーザーが集い、業務改善への取り組みをアツく語ってくれた。その中から今回は、農業生産法人クレアクロップス 代表取締役 馬場 一輝さんの登壇レポートをお届けしよう。農業を魅力ある仕事に変えていく強い意志とkintoneとが結びつき、有機的な成果を生み出している。

クレアクロップス 代表取締役 馬場 一輝さん

未来農業づくりに必要なことはやらされ感の解消、そのための業務可視化

 登壇した馬場さんは、自身がいま取り組んでいるのは「未来農業づくり」だと語った。馬場さんが経営するクレアクロップスが農業を行なっているのは、岩手県の南部、北上市。特産品であるアスパラガスを使った「北上コロッケ」を売り出すなど、農業の盛んな地域という印象がある地域だ。馬場さんらはそこで、レタスとニンジンを生産している。農家の長男として生まれ、農家の現状をよく知った上で、未来農業づくりへと歩みを進めている。

「日本の農業には多くの課題があります。そのひとつが、高齢化です。日本の農業従事者の平均年齢は67.8歳です。私は35歳と農家としては若造ですが、未来の農業を変えていくためには、今この瞬間から私たちが取り組み始めなければなりません」(馬場さん)

 変えていかなければならないことはいくつもある。その中から馬場さんは、特に大きな2つのボトルネックを取り上げた。1つは、考える人と現場で作業する人が違うので「やらされ感」が強いこと。もう1つは、扱うものが生鮮野菜なので、生産したらすぐに届けなければならないこと。2つめの課題は農業が根本的に抱える課題であり、簡単に解決できることではない。しかし1つめの課題であるやらされ感については、解決の方法があるはずだと馬場さんは言う。

「農業におけるPlan(計画)、Do(実行)、See(検証)のサイクルは、経営者と授業員で分断されています。Plan、Seeは経営者が担い、従業員はDoばかりということになりがちです。これではやらされ感が強くなって当然です。これを解消するために、従業員がSeeもできるようにしたいと考えました」(馬場さん)

 こうした想いからクレアクロップスは、ITを活用し、データを使った検証を行なう道を歩み始めた。

Plan、Do、Seeが分断されていることが現場におけるボトルネック

農業向けクラウドサービスの「物足りなさ」をkintoneで補完し、売上は2.2倍に!

 クレアクロップスでは「Agrion」という農業向けクラウドサービスを利用している。作業内容を1分単位で記録して可視化、給与計算もこれによるという。しかし、Agrionだけでは補いきれない部分があった。

「Agrionの集計グラフは見やすいのですが、物足りなさも感じていました。野菜の種類別や、昨年実績との比較もしてみたい。できれば現場で手軽に、スマートフォンでチェックしたい。そう思うようになりました。そこを補うために導入したのが、kintoneです」(馬場さん)

Agrionの集計グラフは見やすいが、物足りなさも感じたという

 作業の切り替わりごとに、スマートフォンからAgrionやkintoneにデータを入力する。Agrionのデータをkintoneに連携することで、自由な切り口で分析、グラフ化できるようになった。たとえば収穫記録アプリには、収穫終了後に畑名、収穫時間、収穫面積、収穫量をスマートフォンから入力する。このアプリにより週ごとの収穫量や、畑ごとの収穫進行状況がわかるようになった。また選別実績記録アプリには、選別後の規格や数量を記録している。畑ごと、規格ごとの収穫量がわかるようになり、新たな気づきも生まれた。

「この畑では大きなニンジンがたくさん取れる、この畑は小ぶりなニンジンがたくさん取れると、傾向がわかるようになりました。また、収穫の後期にかけてニンジンのサイズが大きくなっていると経験から感じていたのですが、これもデータで裏付けされ確信に変わりました。こうしたことがわかったので、欲しいサイズのニンジンをいつ頃、どの畑から取ればいいのか予定を立てられるようになりました」(馬場さん)

畑ごとに取れるニンジンのサイズが違うことがわかり、計画的な収穫が可能

 kintoneによる分析は、業務の改善にも役立っている。以前は労働時間をどのように振り分ければいいか、基準がなかった。しかし仕事量がデータ化されたことで、考える際の基準ができあがったのだ。選別作業を分析したところ、ほとんどの日で1時間あたり160キロ以上の作業が行なわれているとわかった。これを基準にして、より多くの選別ができた日は何がよかったのかと考えることができるようになった。

「Agrionとkintone、この2つのサービスを導入しただけで、良いことがたくさんありました。リアルタイムで状況がパッとわかるようになり、作業の効率が上がりました。分析する際には合計時間で考えているので、誰かのせいにすることなくチーム全体で作業効率を考えるようになりました。未来を予測して働けるようになったので、販売の面でも有利に動けます」(馬場さん)

 作業効率化の効果は、kintone導入からたった1年で大きなものになった。残業は減り、有給休暇は取得しやすくなり、それでいて売上は2.2倍に伸びたという。kintoneの効果をさらに大きなものにするため、日報アプリも作成。スマートフォンから入力し、みんなで共有することでコミュニケーションの場としても活用し始めているとのこと。

従業員だけではなく、子どもにも伝わった未来農業の素晴らしさ

 馬場さんは、「会社とは、同じ方向に進む人たちを乗せたバスのようなもの」だと語る。そこにおける社長の仕事は運転手でもガイドでもなく、行き先を示すカーナビだという。ゴールを示し、そこまでのある程度の道のりも示す。しかしクルマを運転する人なら、カーナビが示すルートが常に最善であるとは限らないと知っているだろう。そう、ある程度の道のりは示してくれるが、実際にどの道を通るかは、ガイドや運転手が決めることなのだ。未来農業行きのバス「クレアクロップス」で、馬場さんは未来農業のあるべき形と、そこまでの道のりを示す。それを見て、従業員自身が道のりを検証し、考えて、実際に走るルートを決めるというわけだ。

「未来農業のあるべき形とは、生産環境を管理し、野菜の健康診断を行ない、働く人が笑顔になれることだと考えています。SDGs達成のための基準となるGlobal G.A.P(農業の世界基準)を満たす仕組みづくりを目指します」(馬場さん)

クレアクロップスが考える未来農業の形

 2020年12月、大雪でビニールハウスが倒壊した。それでも馬場さんは諦めない。農業を通じてお客さんに喜ばれたい、継いでくれる人に「続けたい」と思ってもらいたい、その想いを胸に戦い続けている。「私たちは、野菜たちと天候と戦う農業戦士です」と、馬場さんは言う。その姿を通して、お子さんにも何かが伝わったようだ。

「長男が今年の春、小学校を卒業しました。卒業文集には、農業のことが書かれていました。仕事調べをした中で、農業を選んでくれたようです。その中で、私の姿を見て感じたことが書かれていました」(馬場さん)

子どもが卒業文集で農業について書いてくれていた!

 お子さんは農業に大切なことを「難しいことから逃げない力」と「あきらめない力」だと書いていた。馬場さんが働く姿を見て、素直に感じたことなのだろう。おじいちゃんがやる仕事だという刷り込みはなく、農業を魅力ある仕事と感じ、自分も同じように働いてお客さんに喜んでもらいたいと感じている。そして、農業をしている未来の自分を思い描き、「はばたけ、自分!!」と結んでいた。未来農業をつくるという馬場さんの思いは、少しずつ結実しつつあるようだ。

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