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業務を変えるkintoneユーザー事例 第98回

みなさんの周りにいらっしゃる方は笑顔ですか?

現場の不便解消を優先してスムーズなkintone導入を実現した飯塚産業

2021年04月27日 10時00分更新

文● 重森大 編集●大谷イビサ

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 業務改善を唱えるのは容易だが、経営から現場までが思いをひとつにして実践していくのは難しい。これまでのやり方がいいと信じている現場に、新しいやり方を押しつけるだけでは使ってもらえないシステムが残ることになりかねない。そうした課題を解決するために、kintone hive sendai 2021で語られた飯塚産業の事例は大いに参考になるだろう。

不満を爆発させた結果、会社を良くしたいという思いを社長と共有

「一生懸命やるだけ無駄だから」

 市川 睦さんが、飯塚産業に入社したその日に、先輩から投げかけられた言葉がこれだった。社内では会長が絶対的な権限を握っており、決定に対して社員が異論を唱えることは許されなかった。業務の情報はすべて社長の頭の中にあり、社長が段取りを組まなければ何も進まなかった。当時の飯塚産業は、そういう会社だったという。

「仕事をしていても面白くありませんでした。不満が溜まっていく日々。あるときついに、私は社長と会長に意見をしました。思いが爆発したんです。我慢していたものが、ボーン!と爆発してしまったんです」(市川さん)

飯塚産業 市川 睦さん

 強力なトップダウン企業でそんなことをすれば、社長から反発があるのではないか、聞きながらそんなことが頭をよぎったが杞憂だったようだ。市川さんが思いをぶつけたことで、社長も会社にかける強い思いを言葉にしたのだった。会社を良くしていきたいという思いを社長と共有できたことが、市川さんにとっても飯塚産業にとっても大きな転機となった。

思いをぶつけたことで、社長との相互理解が深まり業務改善のチームになれた

 飯塚産業のメイン業務はごみの収集だ。いわゆる3Kと言われる仕事だが、生活を維持するために必要な誇りある仕事だと市川さんは言う。しかし仕事の内容は旧態依然としており、情報は属人化、自信を持って笑顔で働ける環境を作る方策は簡単には見つからなかった。そんなときに出会ったのが、kintone Award 2018を受賞した有限会社矢内石油の矢内 哲さんだった。

「矢内さんは『当たり前を疑う』、『がんばらない』、『やめる』という、3つのことを教えてくれました。さらに、問題は宝の山であり、そこからひとつずつ原石を取り出して磨いていけばいいと言ってくれました」(市川さん)

押しつけの業務改善ではなく、ドライバーの困りごとを解決するところからスタート

 当時のドライバーは業務情報を大学ノートに手書きしており、その情報を元にExcelで請求書を手打ちしていた。市川さんは請求書作成にかかる時間を削減したいと考えたが、請求書に不備があれば取引先に迷惑がかかるため、自動化のハードルは高かった。そこで、一歩手前のデータを整理するところから着手した。といっても、唐突にドライバーの業務をIT化しても反発され、使われずに終わる恐れがある。そうならずドライバーがきちんと使ってくれるよう、ステップバイステップで取り組みは進められた。

 kintone活用第1弾として、ドライバーにiPadを配布し、kintoneアカウントを持たせた。最初に作ったのは、死骸回収アプリだ。道路上で野生動物の死骸が見つかると、行政から飯塚産業に回収依頼が行われる。依頼はFAXで届き、それを見ながらドライバーに無線で指示を出すのだが、言葉だけではなかなか伝わらない。FAXで届いた地図を直接確認するために、事務所に戻ってくることも少なくなかったという。その結果業務に遅れが生じ、残業が増える。そのうえ、回収遅れへのクレームも増える。こうした状況を解消し、ドライバーを助けるところからkintone活用をスタートしたのだ。

FAX、無線に頼る死骸回収はドライバーの大きな負担になっていた

「死骸回収アプリの導入に合わせて、各車両の無線をGPS無線機に置き換えました。行政に対しては、死骸回収依頼に最寄り場所の住所を記載してもらうようお願いをしました。こうすることで、死骸回収依頼が届いたら近くのドライバーに指示を出せるようになり、ドライバーは回収ポイントへのルートをiPad上のマップで確認できるようになりました」(市川さん)

kintoneに登録された住所からマップを参照、近くのドライバーがすぐに回収できるように

 地図を確認しに事務所に戻るような手間がなくなり、無駄な時間がなくなった。こうしたプラス効果によりシステムへの苦手意識をなくし、前向きに活用する空気を醸成していった。らに、これまでになかったドライバー同士のチームワークも見られるようになったと市川さんは言う。

「近くにドライバーがいない場合は全員に通知を送っています。そうすると、『これから通るルートの近くだから俺が行くよ』と、ドライバー同士で効率の良い動きを考えてくれるようになったのです」(市川さん)

現場がkintoneになじむのを待って、本丸の業務改善に着手

 事前準備を経た第2弾では、ホワイトボードの不便さを解消することにした。従来、各ドライバーの予定はホワイトボードに書き込んで管理されていたが、課題が多かった。事務所では回収依頼の電話が鳴り、先に紹介した死骸回収の依頼FAXが届き、来客もある。これらが重なるとホワイトボードに書き込む時間がなくなり、パニック状態になることも。その結果発生するのが、ホワイトボードの情報不足や記入漏れだ。一方ドライバーは自分の予定を覚えるだけで精一杯、同僚の予定まで気にする余裕はなかった。

「これを解消するために、カレンダーPlusプラグインを導入しました。業務内容ごとに色分けをしたことで見やすいカレンダーができ、スケジュールの全体把握ができるようになりました」(市川さん)

カレンダーPlusプラグインで見やすく色分けされたカレンダーを作成

 死骸回収アプリでiPadになじみ、チームワークも生まれたドライバーたち。カレンダーPlusでお互いのスケジュールもわかるようになり一層いい職場になったかと思いきや、そう簡単ではなかった。iPadが便利になり、朝礼の時間も各自がiPadばかり見ているシーンとした職場になっていた。

「みんなが笑顔で働ける会社を目指していたのに、全然笑顔になっていませんでした。これを変えるために事務所に設置したのが、大型のタッチパネルモニタです。kintoneの画面をみんなで見ながら朝礼を行って、業務全体と自分の予定を把握することにしたのです。なお、この大型モニタは仕事の後にYouTubeを観て楽しむことにも活用されています」(市川さん)

手元のiPadを見つめての朝礼から、大型モニタを見ながらの情報共有へ

 何気ないことだが、業務用のモニタでYouTubeを観ていいというのは面白いと筆者は感じた。業務にしか使ってはいけないと言われれば、その機械には仕事の思い出しかなくなる。せっかくあるのだから、業務が終われば遊びに使ってもいいと言われれば、その機械に楽しい思い出が加わることになり、仕事だけで使うよりも身近になるのではないかと思う。この辺りの采配は、社長の懐の深さによるものだろう。

 満を持しての第3弾、いよいよkintoneをごみ搬送に活用する。回収したごみを処分場に持ち込む際には、「搬入依頼書」を作成して処分場にFAXで送らなければならない。折り返し、処分場から搬入OKの返信FAXが届くのを待って搬入作業を行う。かつては社長だけが予定を把握しており、この作業を一手に引き受けていたが、それぞれのドライバーが自分で搬入依頼書を作成、送信できるようにした。

ドライバー自身でFAX送信が可能に

「RepotoneUで搬入依頼書を帳票化して、FAX+kintoneを使って処分場に送信します。返信はクラウド上のFAXサービスで受信して、kintoneに通知を送ることにしました。これで、ドライバーはiPadだけでFAXの送受信を完結できます。モバイルアプリ版のkintoneではこの操作ができないので、必要なアプリのショートカットをiPadのホーム画面に貼り付けて、使いやすいように配慮しました」(市川さん)

情報の属人化がなくなり業務はスムーズに、さらなる改善の取り組みも

 kintoneが浸透してから、飯塚産業の仕事のやり方は大きく変わった。今では依頼を受け、記帳し、搬入予約を行ない、回収運搬するまでをドライバー全員ができるようになった。かつては社長だけが全体スケジュールを把握しており、個別の事情についてはドライバーだけが把握していたが、それらはkintoneに集約された。

「Webフォームからの問い合わせもFORM DATA TO kintoneで受け取るので、全員が問い合わせ内容を把握できます。あの人しかわからない、という情報がなくなり、誰かが休んでも他の人が同じ作業をできるようになりました。今では社内だけではなく、税理士や社労士ともkintone上でコミュニケーションを取っています」(市川さん)

ドライバー自身が依頼から回収運搬までを自分で管理できるようになった

 こうした体制を整えた同社は、新卒採用を始めた。13名がエントリーして、会社説明会に参加してくれたという。人員増強に加え、利益管理や請求データの整備など次のステップへの準備も怠らない。

 kintoneを使い始めて市川さんが学んだことは2つ。1つめは「当たり前」を疑うこと。今「当たり前」だと思っている業務をそのままデジタル化するのではなく、固定観念も払拭してみんなが笑顔になる方法を考える。もう1つは、「100%を目指さない」ということ。

「100%って、今の時点での最高でしかありません。私たちはもう、100%のその先に無限の可能性があることを知ってしまいました」(市川さん)

 飯塚産業には、評判を聞きつけた同業者がシステムを見に来ることもあるそうだ。社内が笑顔に満たされるだけではなく、仲間や地域社会、顧客のみんなを笑顔にすることを目指していると語って、市川さんは登壇を締めくくった。

「三方よしという言葉があります。私たち自身、地域社会や仲間、お客様の三方を良くしていきたいんです。みなさんの周りにいらっしゃる方は笑顔ですか? 一緒に笑顔の輪を広げていきましょう」(市川さん)

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