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PDF開発者が描いた未来は実現されたのか? アドビのベテラン社員に聞いた

【追悼】PDFの生みの親 チャック・ゲシキ博士の功績を振り返る

2021年05月28日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 先月の4月16日、アドビ創業者のチャールズ・ゲシキ(Charles Geschke)博士が81歳で亡くなった。PDFの生みの親でもあるゲシキ氏が共同創業者のジョン・ワーノック氏と描いた未来は果たして現在、実現されたのか? アドビ日本法人の二人のベテラン社員について聞いてみた。(インタビュアー ASCII編集部 大谷イビサ 以下、敬称略)

アドビ創業者のチャールズ・ゲシキ氏とジョン・ワーノック氏

Acrobat Readerの無償配布でデファクトスタンダードが決まった

大谷:まずは自己紹介とアドビへの入社について教えてください。

アドビ 今西祐之(以下、今西):1998年の入社です。アドビには「FrameMaker」というDTPソフトがありますが、もともとはそのライバル製品を開発販売していたインターリーフ社に所属していました。アドビ入社時はFrameMaker担当でしたが、1999年からPDFとAcrobatの技術を担当しています。

アドビ シニア プロダクト スペシャリスト 今西祐之氏

大谷:PDFとの出会いは?

今西:最初にPDFを知ったのはインターリーフ在籍時。当時はXMLのベースとなったSGML(Standard Generalized Markup Language)のフォーマットをベースにしたDTPソフトを作っていて、おもに製品・保守マニュアル作成向けに販売していました。

一方、FrameMakerの開発元だったフレームテクノロジーをアドビがパブリッシング用に採用したフォーマットがPDFです。だから当時はインターリーフのライバル。だから、「PDFなんて開くのに時間かかる」とか揶揄していましたよ(笑)。

大谷:ライバルの立場でPDFを見ていたんですね。

今西:そうなんです。ただ、決定的だったのはファイルを閲覧するためのビューアー。インターリーフは有料で販売していたのですが、アドビは当時からAcrobat Readerを無償配布していましたし、WebブラウザでPDFを開くためのプラグインを提供し始めていました。

その頃を契機に私もアドビに移ることになりました。だから、私から観たPDFやAcrobatの印象は、とにかくインターネット時代にすばやく対応したということですね。

ファイルフォーマットやデータ交換の悩みを解消できるPDF

大谷:続いて楠藤さんも自己紹介をお願いします。

アドビ 楠藤倫太郎氏(以下、楠藤):私は2000年入社で、ずっと営業部門にいます。アドビの営業で20年いるメンバーはさすがにもういないですね(笑)。

大谷:確かに外資系ではここまで長いのは珍しいですね。どうしてアドビに?

楠藤:当時はジャストシステムで、政府関係を相手に「一太郎」を販売していました。ただ、当時は省庁ごとに一太郎やWord、OASYSなど使っているファイルの形式が違っていたんです。

そんな中に省庁再編の波が来て、構造化された文書を各省庁で相互に交換する検討が始まりました。総務省による行政文書の構造化文書を研究する分科会にアドバイザーとして参加する機会を得たのですが、構造化された中身と見た目の関係を、なかなか理解してもらえませんでした。

大谷:現在のHTML4.0における、HTMLが構造化フォーマット、CSSがデザインという役割分担ですよね。

楠藤:いくら見出しが大きくても、あくまで見た目の問題で、構造とは違いますよね。結局、構造化された文書フォーマットを作るため、ジャストシステムとしてはSGMLに対応した一太郎を作りましたが、利用は進みませんでした。

その点、PDFは当時から構造化された中身と見栄えをファイルフォーマットの中に両立させていたんです。

大谷:では、ファイルフォーマットやデータ交換の課題を解決できるソリューションとしてPDFとAcrobatに行き着いたんですね。

楠藤:そうです。ただし、当時はPDFの情報が少なく、よくわからない状況でしたし、アドビからの参加者もいませんでした。そういった経緯からPDFに興味を持ち、アドビに入社しました。

先ほど出てきたAcrobat Readerも最初は有償で売るつもりだったらしいです。しかし幅広く普及しなければという思いから、情報を提供する側に料金を負担いただき、情報を受信する側には無償にする。つまり電話と同じで発信者側に課金するのと同じような考え方で無償になったようです。

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