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業界を知り、業界をつなぐX-Tech JAWS 第25回

第12回X-tech JAWSレポート コロナ禍で躍進したMedTechが登壇

オンライン診療の規制緩和にいち早く対応したMICINの新機能開発

2021年05月11日 07時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2021年4月26日、12回目を迎えるX-Tech JAWSがオンラインで開催された。今回も業界を変革するさまざまなプレイヤーが登壇したが、まずは冒頭のAWS Startup Communitiyの紹介とメディカルスタートアップであるMICINのセッションをお届けしよう。

スタートアップの悩みに応えるAWS Startup Community

 「社会課題の解決に挑む騎士達は、どのAWSに騎乗して価値を創造したのか?」というタイトルを冠した12回目のX-Tech JAWS。冒頭、AWSジャパンでスタートアップ支援を担当している松田和樹さんは「日本のスタートアップを応援するAWS Startup Communityとは?」について説明した。

 世の中のスタートアップは、「少数の凄腕エンジニアがうぇいうぇいしている」「みんなサーバーレスやコンテナ使っている」「イケてるエンジニアがいっぱい応募してくる」といったキラキラしているイメージがあるが、しかし、実際のスタートアップはけっこう違うと松田さんは指摘。「仮想マシンにSSHしてデプロイ」「非エンジニア社長が書いたMVPが現役になっている」「突然バズってその対応に追われる」「採用できない」「プロダクトだけではなく会社作りも必要」などが現状。「社内にも相談できる相手がいない。スタートアップにしかない悩みは多い」と松田さんは指摘する。

世のスタートアップのイメージ

 こうしたスタートアップをコミュニティという観点で支援するのがAWS Startup Communityになる。AWS Startup Communityはスタートアップのエンジニアや非エンジニアロール、あるいはスタートアップの転職に興味がある人などが対象で、スタートアップ同士の交流や知見の共有、あるいはイベントでの露出機会を提供する。具体的にはDiscordを使ったやりとりや月に1回の「AWS Startup Tech Meetup」、公式Twitterアカウントの運営を行なっているという。

コロナ禍で進んだオンライン診療の規制緩和 導入が加速したcuron

 続いて「コロナ禍で変化した医療サービスとそれを支えるAWSインフラ」というタイトルで登壇したのはMICIN(マイシン)の小野耕平さんだ。

 医療スタートアップのMICINは、オンライン診療サービスの「curon(クロン)」や薬局向けの「curonお薬サポート」、製薬企業向けのマーケティング・メディカル支援サービス、医薬品の臨床開発向けデジタルソリューション事業の「MiROHA」、診療・患者生活を支援するデジタルセラピューティクス事業などさまざまな事業を手がけている。

 オンライン診療は、遠隔医療診療の3つのうちの1つ。他の「遠隔健康医療相談」「オンライン受診勧奨」と比べると、オンライン診療は薬を処方できるという特徴がある。curonは、診察の予約、診察前の問診、ビデオ通話による診察、診察代金の決済、薬の配送まで診療に必要なすべてをオンラインで提供する。

 2015年にへき地以外の利用が解禁されたオンライン診療だが、長らく利用条件が厳しく、医療機関・患者とも利用しずらかった。curonも2016年4月からいち早くスタートしたが、規制緩和は緩やかで、2018年にオンライン診療がルール化されたものの、診療科が限定的だったり、初診から6ヶ月経った患者しか使えないと言った条件があった。

オンライン診療の制度変化

 この状況に変化が現れたのは、昨年のコロナウイルスの感染だ。病院の待合室で待つ必要がなく、感染リスクを下げられるオンライン診療には大きな注目が集まり、対象疾患の拡大や施設基準の一部改訂など要件緩和が一気に進んだ。curonの導入クリニック数も5000件を突破し、日経優秀製品・サービス賞の最優秀賞も受賞したという。

コロナ渦での躍進

 そんなMICINのフロントはReactで実装されており、CloudFrontとS3が動作しているバックエンドのAPIサーバーはFargateを採用。小野さんは、「コロナ禍の需要拡大でもFargateはとても活躍してくれて、障害もなかった。マネージドサービスなので運用も楽」と評価した。

事務連絡から新機能の実装まで圧倒的なスピードで実現

 続いて、コロナ禍で実装した新機能についての説明だ。

 昨年の2月28日、厚生労働省から出た「事務連絡」は、医療機関から薬局へのFAXでの処方箋送信が可能になるというもの。これまで処方箋は調剤のために原本を薬局に持ち込む必要があったが、この制度改正によって、お医者さんから薬局に対してFAX送信しても有効になったという。

 また、4月10日に出た事務連絡では、これまで初診オンライン診療とオンライン服薬指導も解禁された。両方とも時限的・特例的な措置ではあるが、「制度上はFAXされた処方箋で、薬の飲み方をオンラインで指導できる。診察から薬の受け渡しまですべてがオンラインで済むようになった」と小野さんは振り返る。
 
 いわゆる「0228事務連絡」を受け、MICIN社内ではすぐにSlackチャンネルが開発された。「オンライン服薬指導瞬殺」というチャンネル名でわかるとおり、FAX処方箋送付機能をとにかくスピーディにリリースするのが目的。「コロナ禍でなにかできないかと思っている社員は多く、Slackが大盛り上がりし、有志のメンバーでFAXの機能を作ろうということになりました」(小野さん)とのこと。

 受信はTwillioのAPIを使うことで、すぐに実装できた。一方の送信機能はカラー画像をFAXにすると、影が入ったり、見切れてしまうことがあるため、白黒化して読みやすくし、紙以外の部分をトリミングする処理を行なった。画像処理用のライブラリが大きかったため、処理はLambdaではなく、ECS上のコンテナを採用。また、メモリを消費するトリミング処理はSage Makerに移したことで、システムの稼働を安定させることが可能になった。

 2月28日の事務連絡から2日後の3月2日にはFAXの送受信機能をリリース(オンライン診療後、医療機関から薬局への処方箋送付システムを超短期開発/ FAX等での処方箋共有をよりスムーズに実施できるサービス)。医療機関からは処方箋データやスマホで撮影した処方箋データをアップロードし、薬局にFAXとして送信できるようになった。

 その後、0410事務連絡を受け、昨年5月に正式リリースされたcuronお薬サポートは診療からお薬の配送までをすべてオンラインでできるようになった。患者に向けては遠隔で薬の服用指導を行なえるので、決済。完了すると、あとは薬が患者の元に発送されるという流れになる。スピーディにリリースされたサービスの反響は大きく、3ヶ月で2500店舗の導入に進んだという。

服薬指導から決済、配送までオンラインで住むcuronお薬サポート

 小野氏は「スケールにも対応することができた、数日間でサービスの骨格を作ることができたのもマネージドサービスの恩恵」と振り返る。社内表彰である「MICIN MVP AWARD」でも、インフラ担当のエンジニアが選定されたとのこと。日本の医療を変えてみたいというメンバーのジョインを呼びかけて、小野さんのセッションは終了。参加者からも数多くの質問が飛びかった。

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