このページの本文へ

業界を知り、業界をつなぐX-Tech JAWS第22回

伝説になりそうな抱腹絶倒のX-Techセッションをついに記事化

メンヘラ彼女向けのサービスを1週間で開発させられた話

2019年12月27日 17時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 FintechやEdTech、農業、漁業、地方創生、リーガル、メディア、子育テックなどさまざまな事例が聞けるX-Tech JAWS。はるか昔、遠い銀河の彼方で行なわれた第7回のラストを飾ったのはMentalHealthTech(メンヘラテック)。会場中を抱腹絶倒に落とし込んだ「メンヘラ彼女向けサービスのMVPを1週間で作らされた話」をレポートする。「作らされた」だからね。

1週間後にプレスリリース出すよ えっ?

 第7回のX-Tech JAWSのラストで登壇したのは、メンヘラテクノロジー代表取締役社長の高桑蘭佳(らんらん)さん。ガイアックスの支援を受けて昨年設立されたメンヘラテクノロジーは、「幸せに病める社会を作る」というビジョンを抱え、メンヘラ向けサービスを開発している。この時点で、すでに読者を置いて行っている気がするので、きちんと説明しておく。

メンヘラテクノロジー代表取締役社長 高桑蘭佳さん

 高桑さんが定義するメンヘラとは「愛情に飢えている女性 cf. かまってちゃん」を指しており、幸せに病むとは「病んだり、苦しくなったり、恋しくなったりしても、自分や周りの人を傷付けることなく、うまく乗り越えていけるようになること」だという。社長の高桑さんは、工学部の学生として自然言語処理を研究しながら、このビジョンに則って、仲間とともにライティングや研究・開発を手がけている。この説明と以下のインタビューで、メンヘラテクノロジーについてはおおむね理解できると思う。

 この高桑さんに実用最低限のMVP(Minimum Viable Product)を「作らされた」のが岩手県立大学出身の佐々木知洋さんだ。佐々木さんは、ネイティブアプリやサーバーサイドの開発、IoTのハッカソンなどを経験した後、ガイアックスのインターンに参加。「『出資先でためになるサービスを作りたい』と話をしたら、メンヘラテクノロジーのMVP開発をさせられることになった」と佐々木さんは振り返る。なんだか詐欺とかに、さくっと引っかかりそうで心配だ。

メンヘラテクノロジーのサービス開発をヘルプした佐々木知洋さん

 佐々木さんは高桑さんとの初ミーティングで、まず「彼氏に『カノジョ・シッター』をおねだりするやつが作ってほしい」と依頼されたが、当然ながら「どゆこと?」となった。若い佐々木さんがそうなのだから、書いている私はまったく未知との遭遇だ。でも佐々木さんは、「なにもかも理解しがたいことだったが、自分の想像を超えていて面白いなと思い、やることにした」とコメント。このイケメンぶりに拍手を送らない読者はいないだろう。

 とはいえ、納期が異常に厳しく、「1週間後くらいにプレスリリース出るよ」(高桑さん)という話。作るか作らないかを迷う前に、もう手を付けなければならないという状態からのスタートだった。これに対しては、高桑さんは「私もプログラムとか書くので、いきなりそんなこと言われたら、コロスとか思いますが、ビジネスサイドに立つとこんなこと言えちゃうんだなと思いました(笑)」と含蓄深いコメント(なのか?)を残す。

プレスリリースは1週間後で退路は断たれている

謎だらけの「カノジョ・シッター」をLINE Botで実装

 佐々木さんが「なにもかも理解しがたい」と困惑したカノジョ・シッターとは、文字通り彼氏の代わりに彼女にかまってくれるサービスを指すようだ。「私の彼氏は夜に麻雀に出かけることも多くて、今はパチンコ打ってるんですけど、やっぱり一人は寂しい。でも、これを彼氏に凸ると彼氏との関係もうまくいかなくなるので、彼氏の代わりに相手をしてくれるシッターさんを彼氏におねだりできるサービスがほしい」(高桑さん)と、一応コメントを書いてみたが、内容を理解している自信がまったくない。しかも、直接彼氏におねだりするのは難しいので、間接的におねだりしたいという(どゆこと?)。

 間接的におねだりしたいということで出てきたのが、LINE Botだ。「じゃあAWSを使おう」という佐々木さんもかなりのトートツだが、ググるとExpressのフレームワークを使っている人が多く、しかもサーバーレスの「aws-serverless-express」があることがわかった。そもそもExpressやaws-serverless-expressとはなにか? に対して、佐々木さんは「要は『一発で立つ』ということです(笑)。ググってみてください」と雑にコメント。ともあれ、公式のサンプルがしっかりしており、インフラやDBのことを気にしないでも、LINE Botのバックエンドが作れるため、MVP開発にはもってこいだったという。

LINE Botのざっくりなアーキテクチャ

 で、彼氏と彼女のLINEトーク画面を並べ、1週間でできたものを披露する。彼女から「おねだり」を送信すると、ボットが代替して彼氏にシッターを依頼するというもの。仕組み的にはLambda、API Gateway、DynamoDBなどのサービスとExpressフレームワークを組み合わせたシンプルなものだったが、とりあえずはMVPまで実装できたという。

 大変だったのは、今まで経験したことなかったYAMLの記述。「公式のサンプルを使っているのに、エラーがいっぱい出て、泣きそうでした」(佐々木さん)。また、会社のAWSアカウントに権限が付与されていなかったり、LINE Bot SDKとaws-serverless-expressとの相性が悪かったという点もあった。一番大変だったのは、なにしろ一人で1週間で初めてのサービスで作らなければならないというプレッシャーだった。「オレもメンヘラになりそうだなと。泣きそうでした」(佐々木さん)には、会場も大爆笑だった。

幸せに病める社会のためにサービスを作り続ける

 なんとか無事リリースはしたもののの、世の男性には受け入れられてもらえずMVPは2週間後にボツとなった。とはいえ、得たものはあったようで、「MVP段階では最低限提供できる状態にすることが重要。ボツになることも多いので、工数を極限まで削減し、3~4日間くらいで作れるものにする」ということを学んだという。

2週間後におねだり機能は廃止……

 ちなみに、話には続きがある。1週間後に高桑さんにおねだりされたのは、彼氏にLINEスタンプ爆撃できるLINE Botだ(笑)。ボタンが6個並んでおり、「好き」と「かまって」のスタンプを連続で送ることができ、1回、10回、30回が選べる。「好きなスタンプを選ぶと、ババババババと贈られます」と無邪気に語る佐々木さん、「私はいつもこれを手動でやっているので、効率よくスタンプ爆撃ができてます」と語る高桑さん。もはや完全な共犯関係と言える。

 最後、高桑さんは最近のメンヘラテクノロジーの取り組みを披露する。「愛しているの言葉じゃ足りないくらいに君が好きなので歩く」というアプリでは、歩いた歩数に応じて「あなたを想って●●メートル歩きました」と表示される。「東京駅から舞浜駅まで20km歩いてみたら、そのときは彼氏が麻雀から帰ってきてくれたんです」とのことで、効果ありだという。これは「あいある」として、現在もサービスとして提供されている。

 一方、男性へのおねだりが難しいという壁に当たったカノジョシッターは、寂しいときに1時間1000円で話を聞いてくれる「都合のいい女友達」というサービスに進化した。今は病んだときでもいつでも使える「メンヘラせんぱい」というチャット相談サービスになっており、1月にはWebアプリがリリースされる。ピボットしながら、“らしいサービス”を作り上げてきたメンヘラテクノロジーには、来年も注目してみたい。

カテゴリートップへ

この連載の記事