まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第70回
アニメの門DUO「グラフィニカ平澤直社長インタビュー」
コロナ禍でアニメの現場はどうなった? 制作スタジオ社長に聞いてみた
2021年05月22日 18時00分更新
新世代のアニメビジネスは「運用」がキーワード
まつもと ありがとうございます。アニメ業界ではよく「座組」という単語を使いますが、これまでは製作委員会がテレビアニメにおける「座組=どう組んでいくのか?」に対する1つの解だったわけです。最後にお聞きしたいのは今後の座組についてです。コロナ禍の影響で何か変わるのか? それとも引き続き、製作委員会方式でVTuber含めたインタラクティブな産業とも一緒に組んでビジネスをしていくのか? 経営者の観点からお答えいただければと。
平澤 それは、どちらもあり得ます。なぜなら「どのようにユーザーさんに届けるか?」「どういったクリエイターさんにお仕事をお願いするか?」「どうやってお金を集め、そして儲けたお金を出資者さんにお返しするか?」がこれまでのやり方と違うほど、これまでの製作委員会システムとは相性が合いづらくなるからです。
現在の製作委員会はある意味、洗練されており、「1クールとか2クールの深夜アニメを作る3ヶ月間ないし半年間を一緒に並走してビジネスをする」ことにとても適しているのです。半面、制作をずっと継続させながら、1年2年と長丁場で、しかもユーザーさんの評判に応じて小刻みに内容を変えていく場合には、かえって動きが鈍くなったり、意思決定に時間がかかったりしてしまうことがあるのです。
また、『モンスト』のときもそうでしたが、たとえば「YouTubeで流します。ゲームの宣伝が主眼のアニメなので、映像での投資回収をさほど重要視しないビジネスです」という場合、製作委員会を組むとかえって不自由になってしまいます。
まつもと 仮に音楽会社が入っていたら、「いやいや、うちも儲けさせてくださいよ!」となりますね。
平澤 出資しているわけですから、ビジネスのやり方に口を挟む権利も当然あるわけです。というわけで、7分のアニメをYouTubeで流す、なんなら原作ゲームアプリ内で見られるようにする、みたいなことまでやろうとするスピード感で考えると、『製作委員会システムを組まないほうがいいな』とモンストのときは判断しました。
元になるIPが何であれ、「深夜アニメ的に作りたい。売り切りがベースです。3ヵ月一緒に走り切ります」というのでしたら製作委員会システムが向いています。
でも運用型でオーダーがコロコロ変わる場合、たとえば「今までテレビで流していたけれど途中からYouTubeオンリーにします」というように、柔軟性を持って切り替えていきたいと考えるのであれば、製作委員会システムではないほうがたぶん向いています。あるいは、それに対応できる会社だけで製作委員会を組んだほうがよいでしょう。
まつもと わかりました。僕の脳裏には福原慶匡さんが仰っていたパートナー方式などが浮かんでいます。運用型が1つのキーワードになっていくのかなと。
平澤 はい、キーワードは「運用」ですね。
まつもと 話をまとめると、現在平澤さんがARCHおよびグラフィニカを経営をされているなかで、そういった運用型への対応を企画・経営の両面で進めていかれるのかなと、お話を伺っていて思いました。大変勉強になりました。最後に平澤さんから告知などあれば。
平澤 今回はありがとうございました。グラフィニカはアニメスタジオでございまして、取り組んでいるアニメがいくつかあります。そのなかでも自分たちが制作の主体となって頑張っている作品があります。『終末のワルキューレ』というタイトルで、現在は公式サイトとPVが公開されています。近い将来、皆さんにご覧いただけたらうれしいです。続報をお待ちくださいませ。よろしくお願いします。
アニメ「終末のワルキューレ」 PV1
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