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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第70回

アニメの門DUO「グラフィニカ平澤直社長インタビュー」

コロナ禍でアニメの現場はどうなった? 制作スタジオ社長に聞いてみた

2021年05月22日 18時00分更新

文● まつもとあつし 編集●ASCII

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いつもは急かす製作委員会がまさかの……

まつもと 制作スケジュールはいかがでしたか? わかりやすいように、オートデスクさんの公式サイトを見ながら話をしたいと思います。まず前提として、アニメ制作はウォーターフォール方式で、前工程が終わらないと次に進めないという特徴があります。

基本的にアニメ制作はウォーターフォール方式だ(オートデスク公式サイトより)

平澤 (画面を示しながら)それぞれの工程が、ときに別れ、ときに合わさって進んでいるというところだけでも把握していただけると。そして物理的に集まらないと如何ともしがたい工程もあるにはあるのです。

 たとえば音響・アフレコ。基本的には大勢の声優さんたちが、密閉された空間で順繰りに声をあてていくという、コロナ禍の状況下では対応の難しい作業形式を取っていました。そのため音響作業、特にアフレコは「どれだけ少ない人数で細かく小分けにして録るか?」をトライアンドエラーするために時間がかかりました。

 もう1つはクライアント、いわゆる製作委員会を構成する人たちも、さすがにコロナ禍の大変な状況で作られたアニメをそのまま放送するよりは、アニメスタジオ側の体制が整ってからのほうがいいんじゃないかなという空気も少し出まして。タイトルによっては、こちらは待機していたものの、製作委員会の判断として延期になったりしました。

まつもと なるほど。それはスタジオに対する配慮のほか、多くの劇場作品がペンディングになったように、「いま上映/放送してもお客さんが少ない、あるいはいないから」という事情も合わさってのことでしょうね。

平澤 本当に良い状況でお客さんに届けるなら、このクールに放送しなくてもいいのではという判断は、確かにあり得ます。

 そういった諸々の事情によって、2020年の4月から6月にかけてはスケジュールが少しずつ遅れていきました。これまでは顔を突き合わせて作業していた工程が突然リモートになるわけですから、同じ効率では進みません。ただ、いつもならそんな状況を見たら「いやいや、間に合わせてくださいよ」と言うのが仕事の人たちも、「まあ今回はしょうがないな」と。

コロナ禍によって
短期間での変化を余儀なくされた

まつもと 先日、アニメの制作にも使われている三菱の色鉛筆が生産終了とのアナウンスがありました。

平澤 あれは大変ですよね。

三菱鉛筆からも異例のニュースリリースが発表された

まつもと ところが、世間では「鉛筆が何?」みたいな感じで割と流されちゃったかなと。ちょっと結論めいたことを言うと、ただでさえアニメのデジタル化が進んでいる、あるいは進めなければいけないというところに、今回のコロナ禍はどんなインパクトを与えたのでしょう? ある意味、変化のきっかけとなったのか、それとも単に大変なことになっただけなのか。

平澤 長い時間が必要だろうと思われていた変化のスピードが上がった、という言い方はあると思いますね。それが良いか悪いかは、それぞれ置かれた当事者のご判断だと思いますが。デジタル化に拍車がかかったのは事実です。『やっぱり(設備)投資が必要だな』というのは割と……。

 でも、それは他の産業と一緒ですよね。メディア関係も一気に配信シフトして、何年もかけて起こるはずだった変化が短期間に起こらざるを得なくなった、そんな感覚がすごくあります。

「コロナ禍で磨かれた」才能が10年後に登場?

まつもと もう1つ、平澤さんにお伺いしたいのは「コロナ禍はアニメの企画をどう変えるのか?」。

 たとえば、東日本大震災はアニメの企画に大きな影響を与えました。アニメは企画立案から完成物を我々が目にするまでに2年ぐらいかかるので、震災からしばらく経って、似たような企画がたくさん現われたと思います。

 今回のコロナ禍でも同じようなことが起こるのか? プロデューサーとして平澤さんはどういうふうに見ているのかお聞きしたいと思います。

平澤 仰る通り、今の時代を生きるお客さんにいろんな影響を与えていると思うので、その精神性を代弁したタイトル、あるいはキャラクターが出てくるのはおそらく間違いない。

 具体的には2つのステップで出てくると思うのです。1つは、この時代に受ける作品をどうやって作っていこうか、お客さんに届けるべき作品をどうやって作っていこうかっていう、作品制作のステップで出てくるのが約1年半から2年後。

 基本的に、大きな不合理や不景気が起こったとき、多くの人は難しいものよりシンプルで笑えるものを好む傾向はあるかもしれません。そういった、シンプルに多くの人が笑えるようなタイトルが出てきたり、あるいは、たとえば同じタイトルでも「これは笑顔になれる作品ですよ」という宣伝をする作品が増える可能性もあります。

 そしてもう1つが才能。巨大な理不尽は、必ずその理不尽を浴びた人のある種の感性を磨く部分がありますので、新しい才能が生まれてくる可能性が十分にあるなと思っています。

まつもと 確かに、制作工程が短いテレビのコマーシャルを見ていると、(最近のCMは)なんて言うのかな、すごく俗っぽい言い方をすると“エモい”。活気に満ち溢れていて、活発な音楽を使って、明るい画面で構成されていて、すごく派手な感じがあります。それは「コロナ禍でしんどい」という空気が世間にあるからこそですよね。

 それがアニメでも起こってくる。企画としてたくさん出てくるだろうと。

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