こうしたFPGAとディスクリート回路の組み合わせによるDACとして有名なものは、Chord Electronicsの技術である「パルスアレイDAC」が挙げられる。パルスアレイDACは「DAC64」ではじめて採用されたが、最近では「Hugo」シリーズや「Mojo」など、ポータブルオーディオでも採用が進んでいる。
なお、パルスアレイDACは、FPGAでD/A変換するDACだと言われることも多いが、それは正確ではない。正しくはFPGAで信号を正してから、ディスクリートの回路でアナログに変換されるのがバルスアレイDACだ。
バルスアレイDACにおいてもFPGAではデジタルフィルター(WTAフィルター)やボリューム・クロスフィードなどデジタル領域での信号処理をするだけで、それからフリップ・フロップ回路(IC)に送られてアナログ信号に変換される。パルスアレイ(パルス列)とはFPGAに併設されているフリップフロップICと抵抗のペアが複数個あることから名付けられている。ちなみにこの数がバルスアレイDACの性能に関係していて、多い方が性能が高い。Mojoではバルスアレイが4組であるが、Hugo2では10組ある。
また、国内のマランツも、数年前からMMM(マランツ・ミュージカル・マスタリング)という、やはりディスクリートのDACを開発し、自社製品に取り入れている。MMMではPCM入力をいったんすべて1ビット信号にしてからディスクリートのD/A変換部でアナログ信号に変換する。この前段ではFPGAではなく、CPLD (Complex Programmable Logic Device)というFPGAよりも小規模なカスタムICが用いられている。このことが要因かは分からないが、マランツでは30万円台という比較的手頃な価格の製品からディスクリートDACを搭載している。
こうした自社製のディスクリートDACで差別化を図るという戦略は、ハイエンドオーディオだけではなく、ポータブルの世界でも見られる。先に挙げたHugoシリーズやMojoはもちろん、最近ではLuxury & Precision(以下L&P)がディスクリートDACを搭載したデジタルプレーヤーである「L6/L6Pro」を発表している。これは抵抗を組み合わせたディスクリート回路で、マルチビットDACを可能としている。またL6/L6Proではディスクリート回路を工夫することで、通常マルチビットDACでは扱うことが困難なDSD(1bit)入力も簡単に可能としている点がポイントだが、これは自由度のない従来のICを使用した設計であれば不可能だったことだ。
実のところ国内外を問わず、ディスクリートDAC採用の動きは、このほかにも出てきている。従来はマニアックな一部の製品に限られていたが、音質の個性やブランドの理想とする音を実現していく上で、ディスクリートDAC採用の動きは注目に値するだろう。
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