先週末、英国のハイエンドオーディオメーカーであるLINNがネットワークプレーヤー「KLIMAX DSM」のフルモデルチェンジした。5年前の2016年以来の変更だ。このときには、Katalystという新しいDACアーキテクチャが採用された。そして今回も新しく「Organik」という新規のDACアーキテクチャが採用されている。
KLIMAX DSMはフラッグシップモデルであり、500万円を超える超ハイエンド機ではあるが、このDACアーキテクチャの変遷には着目したい。現代のDAC事情を反映した興味深いものであり、ポータブルの世界でも無縁であるとは言えないのだ。本稿では新型KLIMAXの詳細を追うことはしないが、そのDAC変遷から最近のDAC事情を考えていきたいと思う。
前回のKLIMAX DSMのフルモデルチェンジの際に採用されたKatalystというDACアーキテクチャで興味を引いたことは、いままでLINNが長く採用してきたBurBバーブラウン(TI)やウォルフソンのDAC ICではなく、AKM(旭化成エレクトロニクス)のDAC ICである「AK4497」が採用されたことだ。
DAC ICはデジタル信号をアナログ信号に変換するICであり、デジタルオーディオの要である。ポータブル世界のデジタルプレーヤーなどでも、どのDAC ICを使用するかは製品の大きなセールスポイントとなっている。
そして、音質の良否のみならず、音色や暖かみなどブランドの持つサウンドの個性の部分にも大きな影響を与えている。もちろんDAC ICとはいえパーツのひとつにすぎないのだが、やはり音のキーになる部分ではあるのだ。
LINNは私も黒箱の昔のタイプは独特な音色の良さに惹かれて使用していたのだが、かつてのLINNはバーブラウン製のDAC ICを使用して、独特な音の世界を作っていた。
そんなLINNがKatalystではAKMを採用した。その理由としてLINNは、他社のチップよりもD/A変換部分がよく作りこまれていたと説明していたように、DACチップ業界の変化があると考えられる。DAC ICとしては、バーブラウン、ウォルフソン、シーラス・ロジックなど様々なメーカーのICがある。それぞれに個性があり、競争にもしのぎを削っていた。しかし近年では、ハイエンドのDACとして最先端を走るのは、ほぼAKMかESS Technologyに限られてしまっている。他社でも新製品がないわけではないが、現在はこの2強がハイエンドカテゴリーを制していると言っても過言ではないだろう。それがLINNをしてAKMに移行したひとつの理由とも考えられる。

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