「雑談」や「偶然の出会い」をどう実現? インテージヘルスケア、コープさっぽろ、ソフトバンクが議論
Slack導入企業3社が明かす「リモートワークのメリットとデメリット」
2021年04月12日 08時00分更新
新型コロナウイルス感染拡大の影響からリモートワーク、在宅勤務が推奨されるようになって1年が経過した。その間、Slackなどのオンラインコラボレーション/コミュニケーションツールの導入も一気に進んでいる。現在のリモートワーク環境下で、企業はSlackをどのように活用しているのか。
Slack Japanは2021年3月25日、「リモートワーク活用企業に聞く! コロナ禍における、Slack活用の秘訣」と題したオンラインイベントを開催した。社会学者の古市憲寿氏がモデレーターを務め、インテージヘルスケア、生活協同組合コープさっぽろ、ソフトバンクの各社担当者が出席して、各社の「秘訣」を語った。
どんな組織も苦労している「雑談」の機会づくり
出席したのはインテージヘルスケア 代表取締役社長の仁司与志矢氏、コープさっぽろから デジタル推進本部 システム部 リーダーの中山亜子氏、ソフトバンク コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業戦略本部 AI/RPA 推進室の飯塚和詩氏。モデレーターを慶應義塾大学 SFC 研究所上席所員の古市憲寿氏が務め、Slack Japan シニアプロダクトマーケティングマネージャーの伊藤 哲志氏も参加した。
まず、各社がリモートワーク/在宅勤務の実施で受けた影響はどうだったのか。
医薬品の市場調査会社であるインテージヘルスケアでは、すでに2017年からフルフレックス制を導入しており、総務省の「テレワーク先駆者百選」に選ばれたこともある。そのため、昨年の新型コロナ拡大や緊急事態宣言などを受けても「最初は混乱もあったが、それ以前から『週1~2回は在宅勤務』といった働き方をしていたので、これをちゃんと回せばいいんだとすぐに回復できた」と仁司氏は語る。
コープさっぽろは、日本がコロナ禍に見舞われる直前の2020年1月から「Google Workspace」とSlackの導入を進めていた。そのため、やはり「(リモートワークができる)土壌はあったので、スムーズに移行できた」という。
ソフトバンクではコロナ禍で在宅勤務が一気に加速し、現在は半分以上が在宅勤務を行っている。それに加えて、サテライトオフィスなど社員が働きやすい環境も整備しているという。
ディスカッションのテーマは、「仕事の未来は共感&包容力」「仕事の未来は柔軟性」「仕事の未来はつながっている」の3つ。
モデレーターの古市氏は、最初のテーマである「仕事の未来は共感&包容力」について、コミュニケーションを仲介する「メディア」の形式そのものが仕事のスタイルに与える影響が大きいと指摘する。日本は“ハンコ文化”で階層型の組織が多いが、Slackやオンライン会議などを使うようになると関係者が対等に見える。これにより、コミュニケーションがフラットになり「共感しやすくなっているのでは」と古市氏は語る。
インテージの仁司氏は、Slackで絵文字を使う楽しさを「共感」につなげていると語る。Slack導入は氏のアイディアだったこともあり「私こそ楽しく使っている」と言う。社長の二司氏に対しても、社員からはフラットなやり取りが来るそうだ。
一方で「共感」にとっての現在の課題は、「リモートワーク環境下で雑談が減ってしまったこと」だとソフトバンクの飯塚氏は指摘する。これには全員が同意した。
ソフトバンクでは、Slackを使って意識的に雑談をする取り組みを行っている組織もあるという。“雑談専用チャンネル”を設けるのではなく、毎日必ず1件投稿するなど、組織全体で意識してコミュニケーションを促進するやり方をとっていると説明した。「習慣的にテキストでメッセージを伝えることは、社員の文章力の底上げにもつながっている」(飯塚氏)。
雑談という課題に同意しつつも、仁司氏は「オフィスでの雑談は半径3~5メートル以内の人」の間でしか成立していなかったと指摘。Slackをうまく雑談に使うことができれば、その範囲を超えて全社員が雑談に加わることができるとも述べた。「ある意味画期的な時代」(仁司氏)。
「柔軟な働き方」の実現をどうするか
2つ目のテーマ「柔軟性」とは、時間や場所の制約のない働き方が可能になるというものだ。ニュータウンなどの過去の試みは必ずしも成功しなかったが、オンラインツールの普及により「今度こそ場所に縛られずに働くことができるのではないか」と古市氏、「働くということは誰かを枠にはめることではなく、何かを作ったり生み出すことであるはず」と続ける。
それでは、3社は柔軟性という点でどのような取り組みをしているのか?
コープさっぽろの中山氏は、Slackで店舗と本部のコミュニケーションが効率化されていることに触れつつ、物理的に離れているチームでもすぐに意思決定を行うことができるようになったという。さらに情報の拡散という点でも、これまではCC(同報)欄にたくさんの関係者を列記してメール送信していたが、現在は適切なチャンネルに送信すればよく、「正しい情報をすぐに回すことができる」と語る。
柔軟なコミュニケーションから新しいアイディアも生まれたようだ。コープさっぽろが提供する「置き配サービス」の需要が高まり、問い合わせが増えたことを受け、サービスの説明動画を作った。それまではドライバーが1軒1軒回り、時間をかけて説明していたが、ほとんど接触することなく入会できるようになり、ドライバーが配送に回れる軒数も増えたという。
ソフトバンクの飯塚氏は、自身の経験として、通勤時間を自分が興味があるプログラミングの学習や情報収集の時間に当てられるようになったと述べた。
インテージの仁司氏は経営者の視点から、社内の声を聞くためにSlackの活用を行っていることを説明した。700名程度いるスタッフの声を聞くために、従来は「オフィス内を徘徊して困っている人がいないかを見ていた」。ところが、リモートワーク化によりそれができなくなった。そこで、代わりにSlackチャンネルの「徘徊」を始めたところ、印刷物についてスタッフが混乱していることがわかった。すぐに経営企画部に連絡し、3日もしないうちに印刷に関するルールと経費精算フローを作成したという。「状況が変わるのに合わせて、スピーディに変えていくことが大事だ」と仁司氏は述べた。
社外ともSlackでやりとり、コミュニケーションが改善
3つ目のテーマ「つながり」について、古市氏は「かつてないほど他者とつながることができる時代」と述べる。数あるコミュニケーションツールの中でも、Slackは「24時間つながっている感じがするので、ストレスなく使えるという人が多い」と評価する。一方で、つながりすぎると「相互監視するようなムラ社会」になる懸念もある。「いかに“いいとこどり”をして、新しい形でつながることができるか」と課題を提起する。
インテージの仁司氏は「リモートでのつながりは、心理的安全を持つことが大切」であり、まだ人間関係が構築できていない場合は注意が必要となると述べる。インテージでは、新入社員が入ると先輩社員が交代で1日数分の雑談をする部署があるという。「オープンさが重要になる」と仁司氏。
コープさっぽろの中山氏は、子育て中のスタッフたちがチャンネルを作り、休職の申請方法などの情報交換をするなど活発なコミュニケーションが起きていると紹介した。その一方で、ITリテラシーが高くない人については「教えるよりも、使ってもらう」ようにしているという。敷居を下げたり、楽しくするのに一役買っているという絵文字については、面白い絵文字に投票する“Slack絵文字大賞”のような仕掛けも用意しているそうだ。
Slackがこのところ強化を進めている外部組織との連携機能を活用しているのがソフトバンクだ。それまでは電話やメールで社外との連絡をとっていた営業組織が、Slackを使っている取引先とはテストとして参加してもらうところから始めているという。すでに効果も感じているようだ。「社外とも気軽にコミュニケーションが取れるため、細かく意思疎通が図れているようだ。コミュニケーションの質が上がったと聞いている」と飯塚氏。
偶然の出会い、社員のケアなどがリモートワークのデメリット
このように、3つのキーワードからリモートワークのメリットが語られたが、それでは「デメリット」についてはどう感じているのだろうか。
まず、インテージの仁司氏は「偶然の出会い」を挙げた。「たまたま廊下であって雑談をすると、面白いアイディアやテーマが出てくる。雑談の延長だが、このような偶然の出会い(というきっかけ)を埋めるのに苦労している」という。リモートワークになって1年近く、「まだここを補完しうるツールが出てきていないのかもしれない。『新しいものを生む』という部分で力が弱ってくるのではと心配している」と続けた。
ソフトバンクの飯塚氏も同様に「オフィスの緊張感や偶発的に誰かとすれ違うことなどがない」点をデメリットに挙げ、さらに「社員のケア」も課題だと述べた。机を並べて働いていれば、元気がない仲間に気づいて声をかけることができるが、これが在宅だとわかりにくい。「マネジメントの立場にある人は、オフィスにいるとき以上にメンバーのケアについて取り組まなければならない」と強調する。
リモートワーク環境下で“偶然の出会い”をどう創出するのか。Slackの伊藤氏は、Slackアプリの1つである「Donut(ドーナッツ)」を紹介した。これは、Donutボットがランダムに2人のメンバーをピックアップして、「ドーナッツとコーヒーで休憩するのはいかが?」と呼びかけるアプリだ。ふだん接点のないメンバーどうしが会話をするきっかけ作りに役立っているそうだ。
コープさっぽろの中山氏は「やはり対面のほうがいいよねと、元に戻ろうとする動きがある」と指摘した。リモートワークの定着率が期待したほどではなかった点について、今後は「意思決定を行う人に対して、どのようにリモートワークの有効性を示していくのかが課題」だと述べた。
伊藤氏は最後に「Slackはツール。入れておしまいではなく、ツールを入れてどうしたいのかというところが一番大事になる」とアドバイスした。