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荻窪圭の“這いつくばって猫に近づけ” 第702回

西日本の旅先で出会った猫を撮影したカメラで振り返る

2021年03月02日 12時00分更新

文● 荻窪圭/猫写真家 編集●ASCII

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広島県福山市鞆。背景の渡船場と仙酔島をほどよく入れたくて、あえて広角で寄ってみた。広角で寄ると猫との親近感も出せて、ああ猫がなじんでる土地だな感が出るのだ。2018年1月 ソニー Cyber-shot DSC-RX10M4

 前回の東日本編に続き、今回は西日本編。とりあえず東京から西へ向かう。新宿から特急「あさぎり」に乗って沼津へ向かったのは2012年のこと。以前、小田急線からJR東海の御殿場線に乗り入れ、御殿場を抜けて東海道の沼津へ通じる特急が走ってたのだ(今は「ふじさん」号という名前で御殿場止まりになってる)。それに乗ってみたかったのである。

 沼津は静岡県の港町。港町といえば猫。何はともあれ沼津といえば海沿いの千本松原、ってことで松林をめざしてあるくと、そのそばの公園で遭遇。とことこと歩いてたのだ。鼻筋のきれいな白線と顎の白い毛、そしてちょっとしもぶくれの顔ががいい。

 このときのカメラはパナソニックの「DMC-G3」。Gシリーズの3代目で、高倍率ズームレンズを装着。背景に松を入れたくて地面すれすれに這いつくばって撮った記憶がある。

貫禄のおにぎり顔猫。人なつこい猫だったけど、背景をいい感じに入れたくて少し離れた位置から這いつくばって撮影してみた。望遠の圧縮効果で松の迫力を出してみた。2012年3月 パナソニック LUMIX DMC-G3

 このあとはもちろん沼津港へ行き、おいしい海産物をいただきました。沼津から東海道を西へ向かうと、田子の浦である。万葉集の「田子の浦ゆ」で有名な田子の浦。曇っていたので富士山は見えなかったけど、おいしいしらす丼を食べられたのでよし。

 田子の浦の最寄り駅は吉原だが、ここから岳南鉄道というローカル線が出ていて、それが工場街のど真ん中を突っ切るさまが実に味わい深い。その岳南鉄道の駅に猫がいるという。その土地の旨いものとローカル線と猫。まあだいたいこの3つが揃えばその旅は楽しい。著名な観光地は不要である。

 その中でローカル線っぽいカットを選んでみた。カメラはオリンパスの「E-M5」。初代OM-Dだ。ずっとパナソニックのGシリーズを使ってきたのだけど、E-M5の強力なボディー内手ブレ補正と、チルト式モニターに惹かれて乗り換えたばかりのカット。猫を低い位置から撮るとき、チルト式はさっとモニターを引き出してしゃがめば済むけど、バリアングル式モニターを開いて回すという2アクションが必要でわずらわしいのだ。

 このときは、まさか後のOM-Dがバリアングル式になるとは思わなかったのである。あれはショックだった。そうそう、このときはまだE-M5を買ったばかりだったので、カメラはオリンパスだけどレンズはパナソニックなのだった。

これどんな車両なのか説明難しいのだけど、引き込み線に止まってたメンテナンス用車両かな。そのちょっとした隙間が猫スペースになってた。レンズはパナソニックの12-35mm F2.8。2013年5月 オリンパス OM-D E-M5

 さらに西へ向かう。静岡県を抜け、愛知県は知多半島の根本あたり。愛知県知多郡東浦町。ここを訪れたのは2014年。仕事でこのあたりへ行った折り、古い友人が車でオススメの寺院へ案内してくれた際、出会った猫。境内にある稲荷の周りに猫がいたのである。

 いなりらしい赤い幟が入るアングルで撮影。カメラはニコンの「D600」。フルサイズのデジタル一眼レフだ。結局、わたしが最後に買った一眼レフとなった。

神社ならではの幟の赤をアクセントに入れたくて低い位置から。背景をほどよく入れることで子猫の小ささもわかる。ちょっと遠かったけどフルサイズセンサーならではのボケ感と階調がいい。レンズはシグマの24-105mm F4。2014年8月 ニコン D600

 もっと西へ向かう。名古屋はスルーして京都へ。京都には仲の良い友人がいて数10回遊びに行っているのが、その中から2004年に撮った古いものを。もうよれよれの老猫だったのだけど、古い家で隅っこに持たれてる姿とその長毛っぷりが長老っぽいというか、応仁の乱の頃から生きてるんじゃないかと思わせる貫禄というか、それが気に入ったのである。カメラは富士フイルムの「FinePix F810」。デザインも写りもよい名機だったなあと思う。

縁側でくつろいでるおじいさんって感じの老猫。虎みたいな長毛種ですごく貫禄があっていい。目元を見る限りかなり弱ってるようなので心配だったけど、それも含めて京都っぽくていい雰囲気。2004年10月 富士フイルム FinePix F810

 最近のも1枚。これは2018年に京都にある公園の池の畔で撮影したチャシロ。カメラはオリンパスの「E-M1 Mark II」。

旅先で猫と出会うには早朝が基本。朝6時半頃公園へ行くとラジオ体操してる人たちの周りに猫が。大量に撮った中からキラキラした水面を背景にしたものを。レンズはオリンパスの12-100mm F4。便利すぎて使う人を堕落させる猫撮りレンズ。2018年4月 オリンパス OM-D

 さらに西。岡山県を越え、広島県福山市の鞆の浦。猫が多くいるので有名な場所で、ここも何度も訪れているので大量に猫写真があるわけだが、そこから2011年に撮影したものを。

 非常に古い街で、観光地エリアからちょっと奥へ入ると公道か私道かわからない無数の狭い路地がある。そのひとつで子供たちが猫たちと遊んでいたのだ。この路地に猫が2匹いて、子供たちの興味が別の猫にうつったので「やれやれ」って感じで毛繕いをはじめたキジトラ。

 その様子が面白くて撮った1枚。カメラはパナソニックの「G3」で、それにパナソニックのライカブランドレンズ、ズミルックス 25mmF1.4をつけている。

こんな風に街の生活空間に馴染んでる猫がいい。毛繕いしてる猫を猫目線で撮影。人がやっとすれ違える路地だけど生活道として使われてて、そこに猫が似合うのだ。2011年8月 パナソニック LUMIX DMC-G3

 猫が当たり前のようになじんでる田舎の路地は良い。鞆の浦は鞆港を中心に発達した町であり、海辺っぽい写真もいれておくかということで冒頭写真。これは2018年にソニーの「RX10M4」で撮影したもの。

 鞆の浦からさらに西へちょっといくと尾道。斜面と猫で有名な街だ。お寺の猫や街の猫も撮ったけど、個人的に一番気に入っているのがこの写真。2つの屋根が作るV字谷にうまくおさまって寝てたキジトラをそっと望遠レンズで。これ、実はとても尾道らしい風景。急な斜面を造成して家を建てているので、家の裏手の道からみると目の高さに屋根があるのだ。普通に構えてこのアングルなのである。そんな高低差を味わえる猫のお昼寝写真。

 カメラは富士フイルムの「X-T10」に同社のXF 90mm F2をつけて撮影。このレンズ、ボケがキレイで開放でもしっかり解像するのでちょっと離れた猫を撮るのに最高なのだ。

屋根と屋根の間でキジトラお昼寝中。ほどよい望遠感と前後のボケがやわらかくていい。屋根と背景の色合いが異なるのでより猫が際立ってくれた。2015年9月 富士フイルム X-T10

 最後は九州へ。九州で猫といえば長崎である。長崎の猫といえば鍵しっぽ。というわけでたくさん撮った中から、鍵しっぽっぷりがよくわかる写真を選んでみた。鍵しっぽの猫とはいっぱい出会ったし、長崎なら洋館や坂がはいった写真を選びたかった気もするけど、ここは鍵しっぽが一番わかりやすい写真ってことで。撮るときは鍵しっぽなんて意識してなかったのだけど、あとから見返したらこれが一番カギがきれいに撮れてたのだ。

 鍵しっぽは江戸時代の長崎まで遡る伝統。オランダ船に乗っていた鍵しっぽの猫が長崎に居つき、その遺伝子が受け継がれているのだそうな。

ただじゃれ合ってる様子を狙おうと1/800秒のシャッタースピード優先で撮影。見事な鍵しっぽだった。2018年5月 オリンパス OM-D E-M1 MarkII

 長崎といい尾道といい鞆の浦といい、特に目的地は決めず、決めたとしても最短距離で向かわず、面白そうな路地(私道か公道か判断しづらいとこもあったりして難しいのだけど)があったら迷い込むのが楽しい。そして、そういうところでこそ街になじんだ猫と出会えたりするのだ。今はどれだけ迷ってもいざとなったらスマホで地図アプリ見ればなんとかなるし。

 こうしてみると、どこで撮ってもその地域の色ってあり、その地域の味が出るよなあと思うわけで、春になったらひとりでぶらりと見知らぬ街の見知らぬ猫を求めてカメラ持って出かけたいなと思いはじめてる今日この頃です。

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筆者紹介─荻窪圭

 
著者近影 荻窪圭

老舗のデジタル系ライターだが、最近はMacとデジカメがメイン。ウェブ媒体やカメラ雑誌などに連載を持ちつつ、毎月何かしらの新型デジカメをレビューをしている。趣味はネコと自転車と古道散歩。単行本は『ともかくもっとカッコイイ写真が撮りたい!』(MdN。共著)、『デジカメ撮影の知恵 (宝島社新書) (宝島社新書)』(宝島社新書)、『デジタル一眼レフカメラが上手くなる本』(翔泳社。共著)、『東京古道散歩』(中経文庫)、『古地図とめぐる東京歴史探訪』(ソフトバンク新書)、『古地図でめぐる今昔 東京さんぽガイド 』(玄光社MOOK)。Twitterアカウント @ogikubokei。ブログは http://ogikubokei.blogspot.com/

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